夜弧の裏切り
荒れ狂っている天候。いまもなお、崩落していく建物。身の危険がある地。
「辿り着いた」
カメレオンのような擬態を模しているわけでもなく、慎重に慎重を重ねて進んでいった先にいるのはラッシだった。瓦礫の隙間から覗き、彼がまだこちらに気付いてないことを確認した。
手が触れる距離まで近づくのは困難だ。仕留めるには狙撃しかない。
「これ、狙撃向きじゃないけどね」
ダネッサと違い、相手は瀕死だ。急所に一発当てれば終わる。
問題は外した時と死ぬまでの間。ラッシから感じる魔力の量は……少し回復しているとみた。ラッシ"のライヴバーン"の直撃の痛さは知っている。
「ふぅー…………」
原因はなんであれ。
ラッシを殺すのが、私になるなんてどーゆう運命なのかな?
絶対に成功させなきゃいけないけど、考えるとおかしいよね。ホントに……。
ガチャァッ
向こうは本当に気付いていないの?それとも、あの瀕死の身体だから動けないだけ?
「はぁー……」
余計なことを考えるな、私。一気に六発いく。それでラッシは死ぬ。
夜弧の狙撃はあと数秒に迫っていた。ラッシは未だに夜弧の存在に気付いていなかった。身体の負担もあり、彼は敵が来た瞬間に全力を出して葬る考えであった。
「いつでも、"ライヴバーン"はいけるぜ」
完全なる受けも仕方あるまい。身体がもっと動けていたら、夜弧を殺しに向かっただろう。あっちも狙っているという予感は分かっていた。
だが、ラッシは夜弧の武器や能力を知らない。
パァンッ
唐突に撃たれた瞬間、自分の限界をここまでと決められた。
それを後押しするように弾丸は飛んで来る。近くで戦うライラ達と比べれば随分と静かで、小さな攻撃であった。
「がはぁっ……」
もうどうにでもなれや。
「クロネア。俺も逝くわ」
ちゃんと周りを巻き沿いにしてな!
撃たれた箇所に手は置かなかった。ギューッと両手を広げ、回復してきた魔力の全てを捧げる。右手からは雷を、左手からは竜巻を。
全て、死にやがれと思いを込めて放った。
ドゴオオォォッ
「あっ!?」
「なによ!?」
ラッシが命を捧げた攻撃はライラの雲を、彼の炎を大きく吹き飛ばした。決して長くはなかったが、不規則に動いていく雷と竜巻は2人の戦闘が中断するほどの威力であった。
唐突に発生した出来事に二人共、動揺していた。
「今のはラッシか?」
ラッシの雷と竜巻が止んだ時。ライラと彼は周囲を特に警戒した。特にラッシの居場所を注意深く観察していた。
瀕死の身体であったが、奴には生命力がある。生きていても不思議ではないし、先ほどのエネルギーも頷ける。
ガラァッ
「!ラッシ」
「………てめぇを……殺す」
そして、瓦礫をどかしながらラッシは立ち上がってきた。不気味な雰囲気を漂わせながら、彼に向かって歩いていく。
空から見ているライラには分かる。
「ラッシの魔力が戻ってきてる!?」
理由は分からない。立つ事すらままならない状態ではなかったはずだ。夜弧はどうなったの!?
「2対1か?構わないがな」
夜弧がさっきの攻撃で死んだのか?しかし、ラッシのこのカラクリは一体なんだ?
黒い龍の仮面の博士はバズーカをラッシに向けたまま。しかし、ラッシはそれすら気にせず歩いてくる。この不穏な空気がどう動くのか読めなかった。
そんな中で大胆にも、彼を守るように後ろから現れたのが夜弧だった。
「なんの真似だ?」
「ラッシには死んで欲しい。反撃されて、もう私1人じゃきついわ。協力して欲しいの。少し守ってあげるから今の内にラッシを討って!」
そして、彼と横に並んだ夜弧。そこから夜弧は彼の背を守るように動いてきた。
「あなたとこうして背を合わせる日が来るなんて、そちらも思ってなかったでしょう?」
「……ああ。そうだな。悪くねぇ」
夜弧の魔力と体力はかなり削られていた。拳銃を握っている手が震えている。
そのことを深く理解できる彼ではなかったが、ラッシの不気味さと状況を考えればあっさりと合意した。勘が言っている。今のラッシの方がヤバイと。
「協力か」
夜弧がこうして近くにいるなら盾代わりにできる。
「いいぞ。ラッシをすぐに始末してやるから、身体を張ってライラの攻撃を止めてくれ。泣いてでもいい」
「ええ。数分だけ、仲間になります」
そういった思惑で了承していた。ほんの少し、夜弧への警戒を解いた。
次の瞬間。予想外なことが起こった。