抱きしめる春藍は変態
リアを完全なスクラップにしたロイ。
「春藍。俺はいいから、リアを回収するんだな」
近くの壁に寄りかかりながら、ロイはそのまま眠った。春藍はロイの言葉よりも前にリアに駆け寄って、彼女のパーツをかき集めた。
「ありがとう、ロイ。ありがとう!ロイも救うけど、その前に……」
リアを二度と離さないように必死で細かくなった彼女を拾っていく。
「こんなことにもさせてごめん。ごめんよ、リア……。僕が助けたとき、君のその冷たい左手で叩いて良いから。必ず、蘇ってくれ!もう一回、君を説得したいんだ!」
息を荒げながらリアを抱きしめている春藍。
端から見ると変態にしか見えない。だが、今の春藍を見ている者は誰もいなかった。ロイは疲れていてその場ですぐに眠ってしまった。
もう1人、近くの空を飛んでいたライラは次のところへ向かっていた。
「観ないであげるわよ」
春藍の大切なものを見て、ちょっと傷心中のライラが目指しているのは夜弧のところだった。
ライラは敵であるダネッサとリアの敗北を知り、残る敵があと1人であることを知っている。その1人と今、夜弧が交戦している。助けられ放題だ。
「ロイとリアは春藍に任せる。だから、最後の奴はあたしに任せなさい」
そして、ライラの向かっている先である。
夜弧 VS 黒い龍の仮面の博士。
「俺はダネッサほど甘くはないぞ」
「くっ」
彼の持っているバズーカ型の科学、"紅蓮燃-℃"。
単純に炎を吐き出すバズーカ。生み出した炎は自在に操ることができ、その火力も範囲も、形も申し分なく。シンプルだからこそ、恐ろしく強い科学。
「近づけないんじゃ、ちょっと無理そう」
夜弧は強いが、ロイと同じく接近戦メイン。ダネッサを倒した一因もライラがいてこそだった。
相手もまた強いというのもあるが、慎重に相手の攻撃を見極めていく。時々だが、空の様子を確認していた。
ドオオォォォッ
バズーカから放たれる炎の龍は夜弧を追尾し、彼女の銃弾すらも飲み込んでいく。身体強化を行い、その上で熱の耐性も自分の体に施す。
とにかく、彼の意識を集中させつつ。攻撃を避け続けていく。
炎の龍は時間とともに崩れていくも、炎は触れた地面に残っていく。夜弧の足場が徐々になくなっていくが、彼は炎の足場など気にせずに歩く事ができた。
砲撃しつつ、自分の陣地を作り出すこともできるなど、"科学"をよく熟知していた。
「お前の狙いは分かっている」
炎の海となった場所で彼は夜弧の狙いを当てる。
「単純な時間稼ぎ。ポセイドンの援軍がない俺を数で倒そうとしている。お前達の方が数は多いのだから、当たり前の作戦だがな」
「……その割りに落ち着いてますね」
「最終手まで読めている」
「それがあなたの詰みよ」
凄まじい業火であるが、ライラが雨を降らせればほぼ無力になると見た。
危険を冒して戦うよりも適任者を待ってからでいい。
「ライラ達が来たら、あなたは勝てない」
ライラが無事ならまず駆けつけてくれると信じている。2人掛かり、いえ。ロイも数えて、3人掛かりで向かっていった方が良い。
この人はこの時まで強さを温存し、隠してきたんだ。まだ奥の手を持っていてもおかしくはない。
「浅はかだな」
「なんですって?」
「お前の考えていることは数字でしかない。お前を信じていたとも言えるし、……俺は馬鹿な野郎のことも信じている」
ダネッサも、リアも失っている。援軍はもうないはず。時間を稼げば勝てる。
でも、何かの妙手を予め打ってきたような発言。
「お前はこれからどうするつもりだ?答えを教えてくれないか?」
彼の言葉の後。
この戦場にやってきたのはライラではなかった。
復讐鬼の心変わりだった。