女を殴る拳③
壊れかけたところがある。
「シ、シシ……」
直さなければいけない。それは自分の意思ではなく、機械に決められたプログラミングが言っているのだ。心ではなく、無限の可能性を秘めていない。擬似的な無限を再現しているに過ぎなかった。
ガゴオオォッ
「悪いがよ!俺は野蛮な壊し方しか知らねぇ!」
私は何をしているのだろうか?ただ意識だけがあって、勝手に動く肉体。傷だけを覚えさせられている。
ああ、嫌だな。一体なんだろうか?私は結局誰なんだろう?
本当に今すぐ、壊して欲しい。殿方……。
「殲滅☆」
リアの身体で造られたそれに魂は宿っているのだろうか?
だが、その魂はリアではない。残酷ながら、自分でどうこうすることができないかわいそうな魂だ。
戦うロイをただ捉えているだけだった。
ガゴオォッ
「っっ」
ロイは技を封じた。"超人"は"魔術"と同じく、精神の昂ぶりによって能力が向上する。自分の拳が傷付こうが、怒りのままに攻撃を放った。
ここまでやれるのは春藍のせいでもあった。
普段ならこれほど昂ぶりはしない。だが、こんな綺麗な人物が好き好んで戦っておらず、戦わされていて、救いようのないほど傷付いて、利用されていると知れば。
「誰だって許せねぇだろ!」
ロイの猛撃をリアは止めることができなかった。
"科学"は一度壊れ始めると、酷く脆くなっていく。自動の修復機能がつけられていても、パワーアップするわけではなく、あくまで応急処置に過ぎない。
兵器を持ってこようにも、ロイの"紫電一閃"の前には握る前に叩き潰される。
ガギイイッ
「ロイはやるわね」
「……リア、ロイ」
空から見守っている春藍とライラ。
ロイの鬼神染みた連続攻撃が素晴らしいなんて感想は持たなかった。二人共、浮かんだのはロイが女相手にあそこまで熱く、暴力を振るえるところだった。
容赦ないという言葉でしかないが。実際、あれだけの勢いで殴ることができるだろうか?死ねと呪いながら人を殴ることができるだろうか。
「僕じゃできないよ」
救うにはそれに見合う強さがなければ達成できない。
春藍はロイの強さをまた知り、惨劇から少し目を逸らしていた。あれだけ殴られていてもまだ生きているリアは……
「あれは機械よ」
「……分かっているよ、言わないでいいよ。ライラ」
もう君じゃなかった。
だから、もう少しだけ痛い思いをするけれど、待っていて。
ロイが必ず勝つから。勝ったら、僕が君を救う。今度こそ、やってみせるんだ。
ゴシゴシ……
目から現われて来るものを拭いて、機械であるリアの最後まで見届けようと決めた。
勝負はもうすぐ、終わる。
「この目で散るのを観るよ」
春藍の言葉の後。
ロイの肘打ちがリアの側頭部に命中した。蓄積したダメージが噴出するように、リアの頭から黒い煙が上がった。この硬い身体に限界は来た。
ガオォンッ
高速で首を刈り取る鎌のような強烈なラリアットをリアの壊れかけた暗面に打ち込む。
「刈面!」
至近距離から放ちながら、凄まじい速度でリアを通り過ぎ、彼女の首と胴体を引き離すことに成功した攻撃。
酷くメッタ打ちにしながらも、トドメを刺した一撃は綺麗であった。離されたのはたったそこだけだ。
コーーンッ
リアの両目がゆっくりと閉じていく。ピクピクと動いて、苦しそうな表情を作っているも……どこか、ホッとし始めている顔に変わろうとしていた。
胴体もまた、頭部を失って動くことはなかった。
「どうだ!春藍!!これでいいか!?」
あの殺戮マシーンがついに止まった。代償にロイの身体もボロボロになっていた。当然、根を上げて春藍にお願いした。
「早く、治療をしてくれ。手が痛ぇ」
「う、うん!」
春藍はロイの身体を直そうと、ライラの雲から飛び降りてすぐに向かったのだった。
「大丈夫!僕がロイを直すからさ!」
「……あの女は?」
「とりあえず、身体の回収をしてみなきゃ僕も直せるか分からない。リアの身体が全部あるとは良い難いし」
「そうか。じゃ、先に頼むわ」
拳だけでも使えないと、とてもじゃないがこの戦場を生き抜けねぇ。
敵はポセイドンと、あの野郎がいるんだ。
「いちちちっ」
治療を始める春藍と治療を受けるロイ。無事にここでの戦いは終わったかに思えた。