女を殴る拳①
早く決断しなければならない。
長引いて、春藍が被弾するようなら今すぐリアを破壊するべきだ。
それも自分自身から決別するような意思を持たなくてはいけない。
「リア!」
壊れても直せばまたきっと……一緒になれると思っていた。
だけど、もうやっぱりリアはそこにいてくれなかった。死んでしまったんだ。分かっているのに、こうしてリアの身体が生きていることを知れば、
奇跡を信じたいじゃないか。
あの頃でも、今でも、僕にはあれだけ壊されてしまったリアを直すなんてできない。あんなに繊細で、精密で、丈夫で、美しかった。僕が初めて好きになった人なんだ。
別れたくないよ。僕の手で本当のサヨナラをしたくないよ。また、会いたいんだ。
「リア!!僕は君を、また壊したくない!」
姿を思い出しながら組み立てればリアにソックリな物は造れる。けれど、リアの心までは造ることはできない。人間は心なんだって……また彼女を通してよく思い知った。そして、知っているからリアを完全に壊すなんてできない。
「リアーーーーーーー!!」
言葉って弱いな。
そして、僕は弱いな。繰り返している。
手を出せなくなったのは僕がリアを、好意的に思っていたから。リアの心が失っていても奇跡を信じたい弱い心がある。
僕の積み重ねたことはどうして、リアにできないんだろう。
「あっ……」
春藍はリアの変貌と絶望的な心情を察知し、動けなかった。殺意を向けるリアの攻撃を受けることは報いだと、意味をつけてしまった。
ライラもすぐには雷を落とす事はできなかった。助けることはできない。
春藍には殺される恐怖より、リアを最後まで救えなかった後悔の方が強かった。
ベギイィッ
突如、打撃音よりも速い一撃がリアをふっ飛ばし、その上で悲観している春藍に一喝する男が来た。
「馬鹿野郎!!なに泣いてやがる!!」
「っ……ロイ……」
ここに駆けつけたロイは無傷ではない。肉体的なダメージでみたら、春藍やライラ、夜弧よりも傷を負っている。一度殲滅されかけた肉体のまま、ここまで来た。
状況の整理よりも、リアに対してロイは一つの怒りをぶつけた。
「さっきはよくもやってくれたな!!だがな、奇襲で俺を倒せると思うなよ!!」
ロイはこの怒りのまま、春藍の制止など触れることもなく、リアへと飛んでいった。
リアが蓄積しているダメージは思いのほか大きい。加えて、ロイも入れて3対1だ。勝てる見込みはまずないだろう。
「待って!ロイ!」
春藍の叫びなど、ロイは聞いていなかった。とにかくまずは一発。
「まず、始めはぶん殴る!」
いや、さっき殴ったよね?っと、雲に乗って見守るライラはセルフなツッコミをする。
リアを何回か殴り、倒したことでロイは少し落ち着いてきた。
「あーっ、死に掛けた!スッキリしたぜ」
拳が少し痛みを発している。
無事ではすまないと分かっていながら、強引にリアを殴り壊そうとしていた。スッキリしたところで春藍の方へ身体を向けて尋ねた。
「でー、なんだよ!?春藍!」
「!あ、……彼女は僕の。……リアなんだ!ロイは覚えている!?」
「?あー。そーじゃねぇ」
春藍の答え方にまだまだ甘いと、言いたげな表情で質問をより鮮明にする。
「お前は!こいつをどーしたいんだ!?壊したいのか!?壊されたくないのか!?救いたいのか!」
リアを特別に感じているのはやはり春藍だけだ。
しかし、春藍の気持ちを汲むようにしてやるよ、と。兄貴風を吹かせるように、ロイは言っていた。
「当たり前に救いたいんだ!!」
即答かつ、剛速球で春藍は叫んでいた。
だが、その手段についてはまったく分からない。肝心なリアがそこにいないからだ。身体だけはリアなだけだ。まったくの別人格。
「春藍なぁー」
ロイは誰もやりたくない道を自分から選んだ。二人共、戦えるくせに殺すことができない臆病者。幻影でも見てるのかよって……言ってやりたい。
「それはお前の力がまず必要だろうが!」
どうしてか。ロイが相手にする女はやりにくいんだろう。