人ならざるもの
格闘センスというよりかは、修行の成果を見せたようなファイトスタイルであった。
「リア」
春藍は彼女を呼んだ。姿と形が変わっていても、彼女の身体が使われているからそう呼んだ。
「今は、別の名前を持っているの?」
色々と話したいことが春藍にはあった。リアを拘束しなかったのはあの時を思い出すからだろう。
「どうして、君はポセイドン側についているの?管理人は……嫌いと言ってなかった?僕も同じだったんだよ」
答えないのなら沢山質問するしかなかった。どれでも良いからリアの声を聞きたかったのだ。
そんな期待を裏切るようにリアは起き上がってくる。
「システムの修復。開始」
リアの目にはしっかりと春藍が映っているだろう。青く光始めると同時に、目からレーザー光線を春藍に向けて放った。
しかし、春藍はそのくらいの攻撃手段を読んで、容易く避けてしまった。反射神経ではなく、リアの目から離れるように身体を事前に動かしていた。
「なんだかさ」
「敵を発見、殲滅します」
リアは確かにそこにいる。でも、こうして戦って会話をしてみて。上手くいかないでいると、不安でもあるのだ。
「リアだよね?」
リアに銃を向けられていても
「リアだよね……?」
春藍は何度でも尋ねようとしていた。
「リアだよね…………?」
三度尋ねて、四回は涙を落としていた。認めたくはないからこうして何度も訊いていた。だけれど、リアはまったく春藍に躊躇しなかった。彼女の銃撃が始まった。
弾幕の嵐から逃がれながらも春藍は呼び続けていた。
「戻って来てよ!リア!」
リアが春藍と戦う理由はあるのかもしれない。だけれど、その理由じゃなくて別の意味で戻って来て欲しかった。
「君はそんなことを望んでいない!君はその冷たい手を嫌っていて!自分を人間だと言い張っていただろう!?戦いよりも、静かな日を好んでいるはずだ!!」
「殲滅☆」
「今はまるで機械じゃないか!!お願いだ!!戻って来てくれ!」
「殲滅☆」
春藍の叫びがまったく聞こえていないのか。リアは標的である春藍達を殲滅することだけに没頭していた。しぶとい鼠に苦労するも、春藍の言葉には何も響かない。
「今の君はリアじゃない!リアはそんな人じゃない!」
彼女がどうやって戻ってくるのか、模索しているわけだが。それ以前に彼女がどこにいるか分からなくなる。
「お願いだよ……リア。戻って来てよ……」
春藍は弾幕を避けつつも、精神的に傷付きつつあった。
奇跡的にも出会えたわけだが、出会えた人はまったく違っていた。人ですらなくなってしまった。彼女から人間というのを教えてもらったようなものなのに……彼女が人間ではなくなったという事実が重かった。
「僕を殺してもいい。忘れてもいい」
ただ、人間であったことを思い出して欲しい。
春藍の戦意が悲しみによって堕ちつつあった。
必死に叫び続けてみたが、リアはまったく反応してくれない。心を取り戻すという技術力なんて、創造を超えている。現在に至っても存在しない技術だ。
自分の力量では救えないのか?
「何をしているの!」
ライラは春藍の説得失敗に、怒りを出しながら雷をリアに落として、動きを封じた。当然、雷は春藍にも被弾した。むしろ、計算をしていたのかもしれない。
「ぎゃあぁぁっ……ライラ?」
「あのね」
雲の上から説教をするとは思わなかった。やっぱり、強くなっても春藍は精神的にまだまだ脆い。
「あたしはリアについて分からないけど。まずはリアを楽にしてあげなさい!」
「え?」
"敵が減る"のは良い事だけどさ。使って良い言葉じゃないけどさ。
「機械となったリアを殺すこと!……それが春藍とあたしの役目!もうそいつはリアじゃない!」
非情なスクラップ指令を出すライラに、春藍はあの時を思い出していた。救ってやると言ったけど、
「でも!」
「あんたが死んだらそれこそ、リアを救えないのよ!?」
「……でも」
リアを粉々にするなんて、春藍にはできない。
死線にいながら、後戻りが怖くなっているのだ。ここでリアを倒して動けないようにしたら……彼女は二度と来ないのかもしれないと、自分の技術に自信が持てなかった。
まず。彼女の心を取り戻すことはできないだろうと、非情な現実を見たからだ。
「リアを壊すなんて」
「言ってる間にリアが復活してくるわよ!」
ライラもまた臆病だった。今ならライラ1人でも勝てるはずだが、春藍がどのように心が壊れるか心配で手が出なかった。
大事な人だって理解も分かるからさ。それをあたしが壊して怨まれたら、あたしだってキツイ。まだ希望があるんじゃないかって、思っていたい。
「再度、殲滅開始」
「リア!止めてくれ!」
壊すという選択を嫌った。それ以外の選択を何度も選んでいる春藍であったが、リアはそれにまったく応えてくれなかった。




