捨て兵①
戦闘力に加え、数という点でも不利に立たされた。それでも、春藍達側がまだ幸いだったことをあげるならば。
夜弧がダネッサとまだ交戦していることだった。
春藍とライラはまだ敵と噛み合っていない。ロイとラッシを失いながら、この二人が敵と戦っていないという大きなミス。(ある意味、戦犯)
ラッシは詰みこそかけられていたが、時間は稼いでいる。新入りは春藍かライラのどちらかに向けて進んでいた。
「あの変則的な槍。厄介ね」
もし、この戦い。夜弧が敗れれば一気に勝敗は決していた。逆に勝てればまだ望みはあった。できるだけ早くなければいけない。
「向こうの方は終わったのかしら?」
新入りとロイが戦っていた戦場から音と光が消えてしまった。自然と焦らされる。しかし、そのわずかな情報収集は命取りになる。
ドドドドドドド
地下から何かが蠢く音がする。夜弧はこの音を頼りに攻撃を察知してとにかく走り回って逃げるしかなかった。
「また来た!」
ドゴオオオォォッ
ダネッサの、メンテナンスを終えた"櫓図"は地下を走れる槍となっていた。蛇のように柔軟な動きに加えて、太くもなったり枝分かれしたりと……。槍の領域をとうに超えている兵器であった。
夜弧の"トレパネーション"は珍しい接近で使用する"魔術"であるが、ダネッサのような改造人間相手に接近では勝てない。槍の射程外からの狙撃が理想であったが、まさか銃の射程外よりも長いとは想定できなかった。
「危ない」
ダネッサの攻撃が一段落終えるのは、攻撃が決まった地点が槍だらけになることだった。何かの手芸作品かと思われる槍のみで造られた建物。凄いけど褒めたくない造形物である。
"櫓図"(スペシャル・ロィズ)
ダネッサの意思をより的確に実行する槍。
「いいねぇ!サイコーの武器だぜ!」
武器というよりは生き物だ。
再生、複製、伸縮、分裂。多彩な攻撃は夜弧の好きにはさせなかった。
「さー、出て来いよ!こっちから来て欲しいか!?」
真向勝負ではダネッサには勝てない。
身を隠しながら銃撃が可能な距離と機会を作ろうとする夜弧。
「先ほどの攻撃」
地面に槍を突き刺し、地中を掘り進みながら私を襲ってきた。あの槍には鯨のような超音波が備わっている可能性もある。
しかし、逆にダネッサが無防備になる瞬間でもある。そこを狙い撃てれば勝機が見えてくる。
お互いが考えながら相手を攻略する戦術を練る。夜弧の方が攻撃と防御で劣るため、より頭を回していた。一撃はたぶん当てられる。問題はそれ以降の攻撃。ダネッサは"超人"と似ているタフさがあり、脳天を撃ち抜かなければ殺せない。
「反応なしかよ」
残念がるダネッサは槍を太く、大きくした。
考えが早く纏まり、選んだことからダネッサの方が強いことは明白だった。
「せめて、俺の槍で死ねよ!」
槍の演舞はどれだけ優雅か分かる。同時に、ハンパ者が真似れば痛い目に合うことも分かった。
戦場として使われている地域だ。自分達の異世界だとしても、どれだけ破壊しても良い許可が降りれば全力で壊していい。
「ビッグウェーブ!」
高波のような避けられない、上・中・下段突き。槍の巨大化に加え、瞬間的な伸縮も兼ね備えた、ダネッサの技術と"櫓図"の技術は近代的な兵器と同レベルの威力を発揮した。
ドガアアアァァァッっ
「きゃあぁぁっ」
槍が貫通した跡は大地にも、周囲の建物にも現れた。震える大地に夜弧も悲鳴を上げながらダネッサから離れた。
人間の可能性としての人体実験。武器の可能性としての実験。それらが合わさっているダネッサはポセイドンの理想としている一つの場所だった。
「あ、あいつ。あんなに強かったの!?」
それは夜弧が戦えるレベルではなくなった。
頭で練られる戦略に限界がある相手であることを悟った。どんな間合いでダネッサと戦っても負ける。
奇襲も博打もでない。
シュウウウゥゥッ
激しい演舞の後に出た煙と同じように、ダネッサの体から戦意が抜けていく。
「はぁぁぁっ……」
以前よりも使うほど体力の消耗がある。だが、問題はないレベルだ。数秒後には力が戻り、この間に仕掛けられる夜弧ではなかった。




