正真正銘の馬鹿だ
ドンッ
「っ……とっ……」
"科学の頂点"ブライアント・ワーク。
この地に辿り着いた春藍はすぐに身構えた。ライラの予想通り、みんな近くで移動する科学を使ったにも関わらず、ライラ達の姿はどこにもなかった。
「街?」
広がった風景は自分の異世界、フォーワールドに似ていた近代的な建物の数々。ビル街がそこにあった。
「広い……隠れるにはうってつけだね」
五感はまだ鈍い。
どこに敵がいるか分からない。けど、言えることはある。
「人がいないのか?」
警戒しながら、街を歩いていく春藍。人の気配が0。確かに単純な戦闘を行うにはとても良い環境だ。春藍は高そうなビルを見つけて、鍵を"創意工夫"で壊して昇っていった。上から見下ろせば何か分かるかもしれない。
「……くーっ………」
あの4つの中に3つ、誰かしらとぶつかるような配置となっていた。
春藍も3つのハズレの1つを引いていた。だが本来、ぶつかる相手がいたにも関わらず、相対する事はなかった。
「かーっ…………」
春藍に気付かず、そのまま爆睡を続けるダネッサ……。戦場で堂々と眠れる辺り大物であるが、正真正銘の馬鹿である。
この異世界が隠れることに適しているため、春藍も彼に気付かなかった。九死に一生を得たのはダネッサの方かもしれない。
トントンッ
「しっかりとした階段。手も込んでる。良い素材が使われてるなー」
春藍が昇るビル内はとても綺麗であり、埃一つもない清潔感。花や装飾にも目が行ってしまった。もしかすると、この戦闘が終わったら移民を呼ぼうとしていたのかもしれない。ここは労働する建物に思えるが、窓から外を見ると住宅街に思えるところも見える。
ガチィッ ギイイィィッ
「エレベーターも使えば早いね……って、高っ!?」
屋上に辿り着いた春藍はすぐに周囲を確認した。まだここよりも高い建物が見えるが、それでも十二分に見渡せる。
地上からでは見えなかったが、遠くの方でライラが索敵のために使っている雲が見える。ライラの無事は分かる。
「あとはロイとラッシ……。夜弧も来てるのかな?」
建物内に居たため、音はしばらく聞いていない。まだ戦闘が起きていないのなら、今の内に合流したかった。
「どこにいるのかな」
高いところから見ても、大きな建物が並んでいるこの世界。ライラの雲のように本当の真上から見なければ、わずかにしか存在しない人間を見つけるのは困難だった。しかし、それは折りこみ済みで知りたいのがあった。
ドゴオオォォォッ
爆炎と、爆音。明らかな戦意のぶつかり合い。
「!あっちで戦闘が始まった」
春藍の位置からはそう遠くはない。戦っているのは誰なのか分からないけれど、そこにロイ達の誰かはいる。
闇雲に歩き回るよりも良い仲間の探し方であった。(ライラのアドバイスでもあった)
これを見たり、聞いたりすれば敵とぶつかっていなければ誰だって向かった。
春藍とライラはその音の方へ駆けつけていく。
「抹殺」
対峙しているのは、新入りと……
「い、いきなし爆弾かよ」
ロイ。
戦闘の過熱さよりも、新入りが放っている異彩を放つ狂気が勝っていた。
「抹殺、抹殺、抹殺、抹殺、抹殺、マッサツウウゥゥゥ☆」
右腕の袖が吹き飛んで現れたのは彼女の体より大きい、巨大なマシンガン。ブレードのように描くことができる弾幕。一発で建物の壁をぶち破り、数発で崩壊させる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「抹殺ウウウゥゥ☆」
強烈な兵器を内臓する新入りの戦闘力はとにかくど派手。ロイの射程外からの破壊力はとてつもないものだった。硝煙と粉塵が舞った空間を走るロイ。完全に新入りの目には見えていない。
「危ねぇ玩具を振り回してんじゃねぇ!!」
銃撃を被弾するほど、ロイの"紫電一閃"は遅くはない。反射速度、瞬発力、加速。それらは研ぎ澄まされ、寝ていても避けられる。格闘戦の間合いをとればさらに戦闘力が跳ね上がり、優位になれる。
ガジイィッ
「硬っ!」
「あはははぁぁ」
この女の体は鋼鉄以上でできているのか?俺の蹴りでビクともしねぇ。しかも、しっかり防御をとって目線を合わせている。俺があの銃撃で死んでいないことも分かるのか。
「死ね、この猿ううぅぅっ!」
頭の螺子が外れていなきゃ
「綺麗な笑顔を作りそうなのによ」
ロイの間合いを嫌おうとしない新入りは、"超人"のロイを相手に格闘戦を選ぶ。殺人衝動が強く、最良をとらない。気の狂ったメイドは両腕を変型させて棘を生やしたものにした。
「撲殺☆撲殺☆撲殺刑ぃぃぃ!」
イカレた戦闘マシーンを粉砕するのか、ロイ。




