正義の独裁③
「戦うわよ」
ライラもまた静観を拒否した。
「私は世界を護るとか言ってたけど、こーやって護ることをするとは思わなかった」
ヒーローはきっと属性を選ばないんだろう。
「この戦いに人間の敵なんてない。人類にとってただの選択」
勝者がきっとヒーローなのだ。敗者は名を刻まれず、散っていく。
「選択であるならばどちらかが強い方をとる。もし、ポセイドンが私達に負けるようならそれまでの正義だし、それまでの政治って奴じゃない?」
「うむ。百里ある」
「私達が勝てば彼等の分も引き継いで、全部の責務を請け負う!そもそも、人類が管理から外れる時があるのはこの時しかないでしょ」
とはいえ、それを望んでいるライラではない。あくまでそう考えている人類もまた多く、それが必然になっているからだ。
管理人がいなくなっているのなら、今度は人間の番。いつまでも管理人を頼るようならそこまでだ。
「政治戦争なんてこれが最初で最後が良いわ」
ライラは本音を吐く。
この戦争の結果に関わらず、"無限牢"内がとんでもない事になる。相手だって分かっているのに最後の管理人となるだろう、桂を殺すため吹っ掛けるのは当然。桂が消えない限り、ポセイドンの支配はありえない。
民主主義って奴?
ポセイドンと桂の仲直りが良いかい?
ないね。敵対する者がある限り、そんな口や心などというもの。多くが持っていく結末に過ぎない。ここにはない。
管理人同士の戦争は史に刻まれた。しかし、後から行われる戦争に史はなかった。人間と管理人の最後の戦争でもなかった理由に。気付けた人間は限られており、参加している人間の数はさらに少ないからだ。
戦争とするには、大それている状況だ。にも関わらず行方末に関わる。戦争と同レベルの戦力のぶつかり。
「拙者にはもう一つ寄る場所がある」
「?寄るところ?」
「ライラ達は先に行ってくれ」
「私達、場所を聞いてないし」
「おっと、そうだったな。拙者にも遣いが来ていなかった」
本当の戦争後にある。とても重要な後始末。
「あの時、手を退かずにすれば桂を殺せたんじゃないですか?」
「ダネッサよ。桂を甘く見すぎだ。現に奴は逃げる手段もとれる」
両陣営。この後始末に対しての準備を整えていた。
「桂の言っていた"跡継ぎ"ってのは?」
「我からすれば万が一の事だろう」
ダネッサはとある世界の研究施設におり、ポセイドンの研究を眺めながら今後の展望について確認していた。
ポセイドンの部下というだけで、今後の動きについては何も聞いていない。ともかく、ポセイドン以外の管理人の全滅としか聞いていない。(すっげー大雑把)
ゴポポポポ
「なんすか、そのカプセル?」
「お前、我の話を訊いていなかったな?これはさっき話したぞ。極秘とな」
「結局、極秘じゃん」
「研究の邪魔だ。お前にも任務を与える!」
ダネッサが注目したのは巨大なカプセルにある銀色の液体。液体と認めるにはらしくない色を放ち、エグイ匂いがプンプンしていた。あの戦争で得た戦果なのか?
「桂にこれを届けてこい。後始末を始める」
ポセイドンから渡されたキャリーケース。
ダネッサが手に持てばポセイドンは一気に"テラノス・リスダム"を持ち寄って、地面を変動させダネッサを物理的に吹っ飛ばす。これ以降の研究を誰にも見せたくはなかったようだった。
「おぉー……いてぇ……」
腰をさすりながら起き上がるダネッサ。
研究に夢中になっているところ、桂が襲ってでも来たら一溜まりもないはずだ。しかし、それでも続ける辺り。よほど重大な物と見ている。
「俺にはイマイチ、桂とポセイドンの狙いがわかんねぇな」
「まぁ。お前は馬鹿だからな」
「!なんだと!?……お、珍しく素顔じゃん」
「少し気楽になりたくてな」
ダネッサに声を掛けたのはあの博士。タバコを吸いながら一服しているかと思えば、ポセイドンが引き篭もっている研究所ばかり睨みつけている。
「お前の実力は買ってるが、いかんせん野心家だな」
「仕方ねぇさ。お前とは中々面白い付き合いだったが、所詮は契約だけだ。敵だと思っていろ」
「ポセイドン様の技術をそんなに盗みたいのか?」
そんなことはできねぇと、伝えるダネッサの面にタバコを飛ばして
「ポセイドンを超えるんだよ」
「あっちー!?タバコ投げるな!」
どいつもこいつも企みを孕んでいる。よっぽど、忠実に動く駒なんてない。
「お前も桂にこいつを届けに行くか?」
「遣いはお前が行って来い。面倒なのはお断りだ」
「ったー……。純粋なブライアント・アークスも、俺だけになったからな。全部俺か」
新入りは今、自動メンテナンス中。消去法か、位かなにかでこんな雑務を引き受けるダネッサ。雑用の有りがたさを知ってしまう。公園のトイレ掃除をするおっさんに感謝したい気分だ。




