夜弧は自分の正体を春藍に晒す
ザーーーーー
デートの日に雨だ。なんてツイテいないと人は思うだろう。
「けど、ライラの仕業だよね?」
「さ、さぁ~ね?」
「もぅ…………ストーカーなら雲の上からでもしてれば?」
「妨害してやる!あんまり踏み切った事をしたら雷が落ちるから!」
一緒に寝ていたライラはさっさと雲の上へと逃げて行ってしまった。約束をちゃんと守ってくれるライラはとても良い奴。やっぱりきっとそうだよね。
「うん」
三日月の仮面を外してお化粧して……、胸は寄せて上げてと……。あんまりこーいった事をする洋服はないからちょっと残念かな。あははは、デートって感じじゃない。
でも、言ってやる。彼に会ったらそう伝えると決めてここに来た。
「傘、あるかな」
案外、雨は晴れよりも近く入れるかもね。
なんてさ。
「夜弧」
「は、春藍様!」
「出かける準備できたけど、……雨なのにどこか出かけるの?」
「はい。天気なんてどーでもいいんです!行きましょう!」
春藍の恰好もまた冒険者のような恰好だった。これから何かと戦おうとしている同士だ。
雰囲気も飾りも、後になったら笑い話になるだろう。
「傘あります?」
「持ってきてないよ。でも、僕なら造れるよ」
"創意工夫"を填め、医療に持ち込んでいるポケット資源を原料に加工を施す。春藍の創造力と作業速度ならば2人が入る程度の傘を作るのに2分も掛からない。
「色は何が良い?好きな模様とかある?」
「え。何でも造ってくれるんですか?」
「うん、夜弧のイメージ通りに作ってあげる。傘ぐらいだけどね」
オーダーメイドの傘。その傘を後でもらって使いたいと思ったら、自分の好きな形を春藍に告げた。
「お月様の形にしてください!私、好きなんです」
「月かー……うん。じゃあ、夜弧に似合うように造るよ」
そういうと春藍は夜弧の顔をジロジロと見ながら、彼女にピッタリな傘をイメージする。
とても静かな雰囲気に服装も黒が多め。あの黄色に光る綺麗な月よりも、黒と対比する白を持つ月が似合っていた。
また、月という存在は一つだから。水玉模様みたいなデザインは良くない。
バサァッ
「こんな感じがどうかな?」
夜の雰囲気が出ている色に、一つだけ印象が残る白くて模様が細かに刻まれた三日月があった。
開ききった傘をとても嬉しそうに見る夜弧と、春藍は淡々と説明をする顔になった。
「開いた時しか三日月にならないけど、イメージ通りかな?」
「凄い嬉しいです!いいんですか!?こんな傘を造ってもらって、……私がもらってもいいんですか!?」
「気に入ってくれるなら、そうしてくれるととても嬉しいよ。でも、大きいよ?」
そう言いながら広げた傘を春藍が持ちながら、用途に相応しいよう扱った。雨が降る外に招くようにした。
「出かけるんでしょ。入りなよ」
「!え、えぇっ!?い、いいんですか?」
「二つも造ると資源がもったいないから。僕はいつでも造れるから二つも要らないんだ」
ああ、なんか違う回答を求めていた自分が馬鹿だった。
それでも、こんなお誘いはないから嬉しく傘の中に飛び込んだ。
「じゃあ、行きましょう!」
「うん。今日はどこでも良いよ」
晴れた日よりもとっても近くに居られた事に感謝しながら、この街を歩いて行く。
夜弧からは、春藍との出会いはハーネットの事件からであるが、春藍にとってはついこないだ出会った怪我人でしかなかった。記憶や思い入れは大分違っている。歩くペースを夜弧に合わせてくれて、春藍の左肩は少し濡れてしまっていた。
嬉しくもあるけど、きっと見方が違うんだな。……夜弧には分かっていても、この時が嬉しく思った。
「左足は大丈夫?」
「はい!おかげさまで足を取り戻せて、とても……本当にずっと前から」
「?」
「感謝してます。春藍様」
「……あの。なんで僕なんかに様が付くのかな?疑問に感じていたけど」
「そ、それは!やっぱり、人を助けてくれて。私も助けてくれるからです!」
やっぱり難しい理由は語れない。
それとこんなにも嬉しい時間をすぐに手放したくない。
夜弧は春藍のことを知っている。けど、
「あの春藍様はどこかの製造員でしたよね?」
「うん。フォーワールドで働いているよ。でも、今は肩書きだけ残っているかな?研究員みたいな仕事をしているんだ」
「研究?」
「"SDQ"って、平たく言うと危険な物質の調査。"SDQ"の除去が僕達の目標なんだよ」
「それはとても凄いことをしているんですね」
「あははは、僕はまだまだ。まだ、何もできていないかな?そう思わないと戦えない」
いつの間にかこんなにも遠くに行っていたとは思っていなかった。
面影を残しながら、彼は成長することができていた。
「世界が壊れちゃう前に僕達がやらなきゃ。知ることができたから、守らなきゃね」
凄いなぁ。
「夜弧は何を?」
「え?……えーっと……。秘密です」
「えぇっ。気になるけどなぁ。僕よりも強いし、ライラやロイと同じくらいに感じるよ」
少し天然気味が抜けて、戦いに慣れてきている。彼がこうなっているなんて誰も思わないだろうな。
「秘密は秘密です。女性の秘密を訊くのは失礼ですよ!」
「ご、ごめん。気をつける」
「でも、私も。……春藍様と同じで世界を護るためにいます。可能な限り、味方でいますから頼ってください」
教えてあげられないけど、きっと私達は似た者同士。同じ意志がありながら、目的が違った存在。悔しいよね。なんかこう、心が本当に会えないことが辛いなぁ。
「そんな2人も休息しましょう!何か食べて、色々。春藍様の製造員の経験や旅に出ていた頃の話を知りたいです!」
「ぼ、僕の話?あまり話すのは得意じゃないんだけど……」
「いいんです!私は春藍様の事をよく知りたいんです!」
あなたが、どう思っていたか……。




