史の記録
誰にも記録されることのない戦争。記録する者が死んでしまうだけで、史に空洞ができる。
牢獄の中で今の史を振り返る1人の人物。
「………………」
朴、龍、ベィスボゥラー等、魔術側の管理人が反旗。
ポセイドン、フルメガン・ノイド、リップル相馬等、科学側の管理人がこれを迎撃。
激しい戦闘、"SDQ"を襲来を経て、ポセイドンだけが生き残った。
「しかし、管理社会はここで崩壊した」
その文が続き、ポセイドンがこのまま支配するとなるだろう。
朴達がポセイドンの支配を止めるべく、戦争を仕掛けたという記録はなくなり、まるで彼等が暴走したと書かれる史。
ヒタス、グルメーダ・ロンツェ、新橋、クロネアなどの管理人が戦争前にポセイドン達によって謀殺された記録などは抹消される。フルメガン・ノイド、リップル相馬の死も当然だった記録もなくなる。
ポセイドンの支配に都合が悪い歴史はいらない。
史を作るのは常に勝者。敗者はその名を汚名のみ。真実は時を経て変わっていくものだ。
「歴史の波が来ているんだね」
彼がそこにいれば未来が変わったかもしれない。でも、変わらないとしたらこの牢獄にいて安心だ。いつまでも観測していればいい。歴史に巻き込まれなければ命は護られる。
「一つの支配が平和かな?それとも、"時代の支配者"かな。……もう一つあるかな?」
感じる歴史の波を動かすのは桂とポセイドンだ。その他はただの駒に過ぎない。それだけ管理人という存在が人類の歴史を握っていたという証明だ。
戦争は史を生み出している。
カツンッ
「元気そうか?」
「桂、その傷。大丈夫なの?」
ここに訪れたのは先ほどポセイドンと共闘した桂。牢屋にいる存在に心配されるほど、桂の怪我も酷かった。しかし、自分のこの先を決めた桂は傷のことは話さずに単刀直入に伝えた。
「拙者の愛刀、"一刀必滅"を返せ」
「……ああ。そっちが大事なの?」
「お主が拙者とポセイドンの、武器を管理する役目であっただろう。先の戦争、ポセイドンが二代目を持ってきていた。拙者も全力でなければ勝ち目はなかった」
しっかりとポセイドンが準備をしていることは戦争を傍観していたから分かった。次、ガチで激突すれば桂は負けると分かっており、こうして頼んでいる。
もっとも、その方が歴史の変わりとしては相応しいものだ
「ゆっくり話したいけど、まずは桂が勝つ事が優先なんだね」
「当然だ。勝つ前提の話ができるなど、ポセイドン相手にできない」
「訊くけど、君1人でやるの?悪者になっちゃうよ。私も行こうか?」
「それには及ばない。ともかく、刀を返せ。それから先をいつまでも喋らないぞ」
彼は桂のしぶとい言葉に諦めて、牢屋の中にあった一本の刀を手渡した。ギチィギチィと鞘に納まっている刀が軋んでいるような音を鳴らし、常に刀が胎動しているよう小刻みに動く生きている刀。
「手入れはしてないまま、かなりの年月が経ったよ」
「"一刀必滅"に手入れなど不要だ」
しっかりと本物かどうかを確認する。もしかすると、精巧な偽物かと思ってか。彼を収容する牢屋を叩き斬る桂。
バギイイィィッ
「本物だな」
「当たり前じゃん……というか、これは私の仮釈放?それとも、協力?」
「後者だ」
桂の表情が少し緩んだ。
"一刀必滅"があればポセイドンの持っている、"テラノス・リスダム"が相手でも五分以上には戦えるという自信。
2人が本気で討ち取るのはハーネットとパイスーを殺害する時以来。今度はお互いを殺しに行くために使う。
「気をつけてね。桂が、蒲生や龍を上回るってことを」
「分かっている。馬鹿にするな。うっかり、異世界を消したりはせん!」
前科者だもんねー。
「そんな顔をするな!」
「あははははは」
桂は"一刀必滅"を握りながら彼に宣言する。その姿はたぶん、桂の可愛いところだからずっと忘れないと思う。
「じゃあ、私に教えてくれてもいいんだよね?桂の未来を」
忘れないと思う。これからもそうしたい。最高の友達同士が戦うって言うんだ。
死ぬまでも追い続けよう。
「ああ」
桂は自分の未来を、牢獄内の彼に託した。
戦争最後の、管理人の生き残りである可能性がもっとも高いからだ。




