"銀座山脈"チヨダという資源の異世界
その移動の仕方は特別なものに思えた。クローゼットの中に入っていたんだから、ワープのようにクローゼットにいるもんだと思うのに
「はっ」
「ひゃぅ!」
四人が同時に気付いた時、クローゼットの中ではなく、外の空気を感じる。さらに、冷たい風を喰らっていた。
「!?」
「!!?」
「ど、ど、何処ですか!?ここ!?」
「…………」
空の色はモームストなどと比べると非常に黒く不安定な空。
雲を作り出せるライラにはそれがすぐに分かった。そして、その雲との距離が思ったよりも近い。
ここは平原ではない。景色を見ればよく分かる。
「ここって」
「え……」
山の頂上付近じゃない!!
「さ、寒いよ。ここ。凄く寒い」
「落ち着け、春藍。ライターを点ける」
アレクがライターを点けて、全体の空気をやや暖める。景色は山の上だとは分かるが、これはもう、イビリィアで登った山とは分けが違う。
「と、登山をするような超級の山じゃない。ここがアーライア!?」
ライラは少し慌てながら景色を見ている。
なんだこの異世界。山の上にいる自分達。その上に雲があるのは当然であるが、なぜ、自分達より下にいるところに、雲がそのさらに下を隠すように存在している。どーゆうこと?
「ここが本当に」
「いや、アーライアではないだろう」
「は?」
異世界に移動する科学を使用したアレクがライラに伝える。
「俺のミスだ。どうやらアーライアではない世界に飛んでしまったようだ」
「えええええええ!?」
それを聞いた瞬間、ライラはアレクの胸倉を掴んだ。春藍はまたかと思って見ていた。怒りの声で
「アレク、操作ができるって言ったじゃない!」
「できたが失敗したんだよ。完璧じゃなかった」
「せっかく管理人の科学を使えたのに!あー!どうするのよぉ!?この世界でまた見つけなきゃいけないし!モームストのようなチャンスが来ると思っているの!?」
「ねぇと思っているが、とにかく。失敗した以上しょうがねぇ。離せ」
アレクはライラを離したついでにタバコを取り出して一服。
「ともかく、ここがどこなのか?どんな管理人がいるのか、見れば分かるが、この世界は平地が見えない。地形が異常だ。空にも随分と近い」
「そ、それくらい分かってるわよ!」
四人は歩き出す。山の頂上付近、それもとても寒い。アレクの"焔具象機器"で周囲の気温を温めてくれるが、アレクから離れると寒さが襲ってくる。春藍達は彼からなるべく離れないようにして歩いていく。
「こ、こんな過酷な世界があるんですね。とても寒いです」
「アレクさんがいて良かったー」
「俺は暖房器具じゃない」
四人が進んでいる方向は下と言った方が良い。ドンドン下っていき、とにかく人影でも良いから見つけようとしていた。だが、この環境は人が生活するにはとても厳しい事だ。
「空気が薄い。おまけに建物も一切ない。とんでもないところに出たかもね。どっかの誰かさんのせいで」
「おいおい、失礼な事を言うな」
「そうだよ!ライラ!!異世界に行っただけ良く考えなきゃ!進んでいるんだよ!!」
「私はモームストの方が良かったわ!進んでもないから、馬鹿春藍!!」
ぷんすかぷんすかっと、怒っているライラ。
四人は誰も人が登りも降りもしていない山をどんどん降りて行き、1時間は経過しただろう。
その間に見える景色は風に揺れる雲が幻想的で、雲の美術館のように思えた。
超特大サイズの泡風呂のようになっている山の下にある雲の海。少なからず四人は過酷な山降りと急な突風にヒィヒィ思いながらも、元気付けられる物を見た。
「キレーな景色。形も自然な物ばかり」
「確かにな。白はやっぱり良い色だ」
「そうね。こんな雲の動きは自然でしかできないから、良いわよねー」
………景色に魅了されているライラの言葉を聞いて、春藍は嬉しそうな顔で
「来てよかったよね、ライラ」
「よ、良くないわよ!馬鹿!」
べチンッと頬を突然叩かれ、春藍にはなんで殴られたのか分かっていない顔を出す。
景色に魅了されながらも降っていく四人であったが、ただ1人だけ、この景色に魅了されているが、言葉がまったく出ずにただ三人に合わせるように歩いているネセリア。
「はぁっ……はぁっ………」
「?ネセリア?」
ライラがネセリアの異変に気が付いて、全員の足が止まった。汗の掻き方がネセリアだけ多かった。ライラとアレクがネセリアの身体に触れて訊いてみる。
「どうしたの?ネセリア?」
「気分が悪いのか?」
「だ、……大丈夫です……けど、……少し疲れてるみたいで」
イビリィアでは山を歩いていても大丈夫だったが、違うとすれば高度と寒さくらい。高山病の何かと思ってライラは様子を見ていたが、ネセリアが苦しそうなところを教えた。
「お、お腹がちょっと、痛いです」
「!アレクは退きなさい。私が見る。春藍も見るな!」
男2人を取っ払って、ライラはネセリアのお腹を見る。イビリィアでは、確かに肌の色が少し酷い色をしていたが。
「!何よ、これ」
それがまだ良かったと思えるような、どすの利いた赤で染まっているお腹を見た時。ネセリアの命が危機だと直感で分かった。
そして、思い出した。ドタバタしてたし、本人がとても普通そうにしていたけれど。ネセリアの身体は一度、ラッシの雷に貫かれていた事。完璧な治療も受けていなかった事。自分の事ばかり頭にいっていた事。
「ラ、ライラ……?」
「……心配しないで、ネセリア」
アレクに何を言ってんだ、私。
また私は何もできそうにない。一番、この三人の中で何も役に立ててない。
「必ず、良くなるから。ゆっくりしてて。ずっと私が診ている」
「?……」
「寝てていいのよ」
ライラに優しく言われたネセリアは。甘えるようにそこで眠ってしまった。それに春藍やアレクはライラに訊いた。が、すぐにライラは質問よりも早く答えを言った。
「ネセリアを助けるわよ」
「!」
「春藍。あんたは言ってたわよね?ちゃんとした材料があれば大丈夫って。ネセリアのお腹が赤グロく染まっている傷も治せる?」
ライラの顔はとても悔しそうで縋っている顔だった。
その言葉はもう、春藍には別の意味で有無を言わせずに。
「治してみせるよ!ぼ、僕にできる限りを尽くして」
「……ありがと」
ネセリアを治療するべく。この異世界で冒険をする事になった春藍達。
この世界は"銀座山脈"チヨダと呼ばれる異世界であり、主に鉱物を採取している資源の宝とも言える世界の一つであった。
運良く、春藍達はここに流れ着いた。