目標ってやつは己がゴミクズに飛び込んで拾う感じだろ?
この世は真面目に生きていても報われないことがある。多々ある。
所詮。そんなもの。逆に。そーいったものは特別な価値を秘めているのだ。努力じゃ手に入らない物、普通じゃ与えられない物。よく分からなくても欲しくなってくる。
好奇心と欲望はそーいったものを擽ってくれる。
ギヂイィッ
「!……」
龍に何かがあったな。"ラ・ゾーラ"が消えてしまった。でも、ベィスボゥラーがまだいる!早くぶち込んでくれ!今しかチャンスはないんだ!
ピィィッ
ベィスボゥラーから放たれる赤い光はポセイドンの装備を持ってしても防げなかった。
「むっ」
ポセイドンの頭にぶちこまれる記録。
「ペナントレース」
対象者1人限定。"ラ・ゾーラ"と違い、ポセイドンを抑える朴には届かない。記録を流し込んで頭を破裂させるグロテスクな殺害を試みる。
「ぐぅ、ああああぁぁぁぁぁっ」
高い知能を持つポセイドンといえど量が違う。記録を行うためにいる管理人、ベィスボゥラーとは容量が形が違っていた。ポセイドンの頭が記録だけで膨れ始めた。
「うがああぁぁぁっ!あああぁぁっっ、あああああああ!」
間近で苦しみ方を感じる朴。自分も喰らっていたら、ロクな死に方じゃなかったと気付ける。ベィスボゥラーの攻撃はオゾマシイ。
ポセイドンは体が繫がった朴に助けを求めるように、必死に腕を揺すった。しかし、叫び声だけしか上げられず、言葉が伴っていない。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「苦しそうですけど、お似合いの罰ですよ。ポセイドン様」
記録を見る。
例えばポセイドンが好みそうな実験データの記録。けど、そればかりではない。むしろ、それは極一部に過ぎなかった。ベィスボゥラーは最大出力で放った"ペナントレース"は記録の宇宙。
たった一人の歴史はたとえつまらなくても、生きてきた記録である。今日、呼吸をした。飯食った。眠った。働いた。それほど陳腐な行動しかとらない人生であると1人は感じていても、生きているというのは詳細に刻まれる。覚えを忘れるほど、人生。いや、忘れなきゃ生きられない。
「ぐああぁぁぁぁっ」
忘れることができない苦しみは精神の崩壊を意味する。
笹いすぎる動作までも常に憶えていたら、大切という存在はなくなるだろう。
「がああぁぁっ、あああっぁぁぁぁぁぅぅぅううううう」
また流れる記録はたった一人の記録ではない。
ベィスボゥラーが知っている多くの人、多くの生命体。数え切れず、美しいとも醜いとも思え、散っていった物、未だに語り続ける物。
「ふうぅぅぅぅっ」
記録という概念。それさえあればなんだって、ポセイドンの頭に流し込んだ。これまで生まれた人間達の名前。死んでいった人間達の名前。生きた者達の誕生、行動、歩み、挫折、感動、成長、劣化、老化、限界、希望、絶望。
生物達だけじゃない。異世界にも記録がある。胎動、変動、形成、休止、気象、人類来訪、時代確立、文明開化、戦争、再生、破棄。
スポーツ、芸術、音楽、生活、歴史、社会、移り変わり、運命……。
記録は終わらず、死なず。誕生を繰り返し、塗り替えを続ける。
ポセイドンの体の異変は頭だけでなく、体型にも影響を及ぼしドンドンと痩せていった。
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この世には意味のないことが多い。
だが、意味のないことというのは感じる奴がそう思っている。
故。
「宝石はお金よりも価値がある」
意味は、自分自身で発掘すれば良い。自分で作ればいい。
「お金はあくまで世界を基準とした価値。自分が決める価値ではない」
ポセイドンは丁度、彼と話していた。
まだ"無限牢"ができたばかりの頃。世界の定義を桂も含め3人で話し合っていた。前人類から託された管理は壮大なものであり、人類の歴史を遡ると絆を作り史を築いた。その歴史には人類しかいなかった。なぜなら人類が生命の頂点に君臨していたからだ。
「今は目の前にあることをしよう。人間は価値を知って良い段階ではない」
価値は人によって異なる。人は同類ではない。
意味のない事、価値がないもの。とても多くポセイドンは見て来た。意味と価値は時代と共に変化していく。
つまり、ゴミがゴミじゃなくなる日は……。
「そんなものはこない」
ポセイドンは結構冷たい。リアリストだ。
なにせ、宝石は宝石のまま。宝石を見つけた人物の目が腐りきっているせいでゴミの山に投げてしまっただけだ。
だからさ。
ゴミに期待することは捨てろ。
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「ぐううぅぅぅっ」
死は覚悟している。しかし、朴や龍、桂では死ぬ覚悟はない。
ベィスボゥラーの中にある物をポセイドンは狙っていた。彼が命を賭けてでも、手に入れたい宝石があった。




