夜弧の看病①
「まいったわね」
ライラ達が街へ帰還した時、ラッシとロイの姿はそこにはなかった。また、他の管理人達もおらず、残されたのはこの世界の住民達だけだった。
「これじゃあ、あたしと春藍が元に戻れないでしょ!」
雲を散らし、この世界で管理人を探すもすでにブライアント・アークスが殲滅済み。
ラッシだけでなく、ロイがいないことも心配であった。
「私にとっては好都合です。春藍様の治療を受けられます」
夜弧にとってはこの条件ほど望ましいことはない。
「いきなり炎の龍に襲われた時は驚いたけど。みんな無事に地上に落ちれてよかったよね」
「良くないわよ!気付くのが遅かったら全員、燃やされてたわよ!まだ敵がいるかもしれない」
ヒタスが死にダネッサ達もどこかへ行ってしまったのに、まだいる見えない脅威に警戒するライラ。だが、同時に夜弧にも警戒をしている。
今は春藍の手厚い治療によって足の再生を行っている最中だ。
「いたっ」
「だ、大丈夫!?」
治療しているわけだが、夜弧は春藍に気があるような言動が目立つ。
別の苛立ちも感じている。
「ライラ、これからどうするんの?」
「管理人がいてくれなきゃ、私達はずっとこの世界に閉じ込められたままよ。……だけど」
ライラは治療をうける夜弧の頬を指で突きながら、
「夜弧は不思議ね。管理人とは出会いたくないと言いながら、こうして異世界に移動しているのよね」
「うっ」
「あたしは目的地を決められないけど、あんたは目的地を決められる移動手段を知っているんじゃない?」
意地悪な表情で的確な違法を指摘するライラ。月の形をした仮面を剥ぎ取って、夜弧の困った顔をちゃんと確認する。
「結構可愛い顔するじゃん」
「や、止めてください!返して!」
「だーめ!」
ライラが仮面を取り上げ、投げ捨てる。手の届く位置から離れた仮面に夜弧は手を伸ばすが、どう頑張っても届かない。春藍が拾おうとするもライラの鋭い目に止められてしまった。
「ハーネットの資料も探さなきゃいけないし。ブライアント・アークスって連中も注意しなきゃいけない。無論、あんたも警戒してる。色々条件を飲んであげるから、こっちの要求にも応えなさい」
クロネアやラッシ達との連絡が断たれたライラには苦肉の策であるが、上手くいけばリターンも搾り取れる考えだった。
春藍を絡めれば敵になりそうだし。協力して戦い、夜弧が仲間なら戦力であると計算できる。
アレクとロイの不在もあって、戦力を整える必要は先々ある。
「……私の移動ではあなた方を連れてはいけません」
「なんで?」
「一人用だからです!」
夜弧も必死な顔だった。ライラ達と組むことにはまだ賛成できない。
もっともらしい理由をライラと春藍に伝えて、春藍は納得したように頷いたがライラは違った。
「嘘でしょ。絶対、嘘」
「嘘じゃないです!」
ライラもまたハッタリであったが1人用という設計で異世界を移動するという行為をすれば、何かの目的を持つ夜弧にとっては不便であり、トラブルに対応できずリスクが大きい。仮に1人用だとしたら管理人達が使っているような携帯でき、複数所持することだろう。そんな可能性で返すようなハッタリだった。
「任務などがあるのなら最低、2人用。もしくは1人用をいくつか持っているんじゃない?それならあたし達も移動可能。スタイルの適正が"魔術"な夜弧が春藍以上の"科学"の使い手とも思えない」
「っ…………」
「深くは訊かないであげる。だけど、あるんでしょ?何かしらさ」
夜弧は観念したかのように小さく、首を縦に振った。
しかし、それっきりにしようと言葉を短くした。
「……あるわよ」
「よろしい。良かったわー!」
小さな希望にライラの声は喜びが大きかった。
一方、春藍は根負けしたような夜弧を励ますように
「だ、大丈夫!夜弧の足が治るまで僕達はここにいるから!ちゃんと治療するまで僕達はいるからさ」
「あ、ありがとうございます。……は、春藍様……」
「うん!治るまでは安静がいいよ!」




