クロネアの伝言
管理人には役目がある。
人類を保護するように作られており、我々によって人類は存亡の危機を乗り越えた。
様々な人間社会を支え、慎重かつ正確に歯車を動かし続ける。存亡から一転、安定して人数を増やしていけば人類の飽和という問題にぶつかった。
管理人のプログラムの多くが、人類を保護することから世界を守ることにシフトされた。
様々な問題に対し、幾通りの解答が用意できるよう難解な"魂"を管理人は持っていた。
【私の役目ですか……】
時間が止まった中でも、クロネアは思考だけができるようになった。心という不安定な存在の冷凍はクロネアの能力を持ってしてもできなくなった。止まった時がカタツムリより遅く動き始める。
体や物理法則はほぼ止まったままでも、心は当たり前のように動いていた。体が動けないのに心が動いているという奇妙な状態で、クロネアは管理人としての自分を振り返っていた。
【人類にしてやれたことはあると思います】
同じく製造された管理人達との思い出に浸る。
人間を管理するため、人間らしく作られている。人類の存亡のため、人間が作った人間と言えば分かりやすい。
【心残りはない。多くの仲間と出会えた私は幸せでしょう?】
フゥッ
「……!時間が動いたか。長い間、止められていたようだな」
"クロツグ"が完全に解除されてから半日ほど経った。
外の明るさと気温が大分変化しており、タイムスリップした気分になった黒い仮面の博士。任務遂行時間は大幅に過ぎ、ラッシを取り逃がしてしまった。
「まぁいい、1人逃しても結果は変わらない」
意外にもクロネアを優しく掃う、黒い仮面の博士。
タバコを吸いながら、これからの考えを纏めていた。彼はポセイドンとは協力関係にあるが、個人的な思想を持っており別の狙いがあった。
「!」
考え事をしていると、ドーピングの反動によって体が疲労し切っているクロネアにまだ息があることに気付いた。
「き、…………君は」
「なんだ、気付いたのか?」
「あの時と、逆の……立場だね」
クロネアはにじり寄る。這いながら彼に近づく。
「ライラちゃん達に……伝言を…………頼む……」
「………………」
クロネアには敵とは思えないと判断できた。彼を頼り、バラバラになる者達への伝言を頼んだ。
「迎えが来る……と」
クロネア、力尽きる。
全力で彼を足止めし、ラッシとロイを逃がした。半日も時間が経ったことで天気は変わり、ライラ達もどこかへ逃げてしまっただろう。
「……してやろう。クロネア。丁度、俺もそのことを考えていた」
グルメーダ・ロンツェ、死亡。
クロネア、死亡。
010~020の管理人はブライアント・アークスによって全滅したのであった。




