支配という名の生を永遠に続けて俺を生かす
「!」
ライラ達は上からダネッサの槍捌きを見た。そして、ヒタスの体が割れたことで勝負は決したと思われた。
ロイがライラと春藍に一言も言わずに雲から飛び降りて、ダネッサに狙いを定めた。
「ちょっと!……………!!」
「!」
3人は気付く。終わってはいないこと。
そして、ダネッサもそれに気が付く。クロネアもグルメもだろう。ロイは空中にいる状態からダネッサではなく、ヒタスに狙いを変える。
ダネッサが粉砕したヒタスがまた再び結合し始めて立ち上がろうとしていた。
「往生際が悪い魔物だな!!」
バギイイィィッ
一体を拳で粉塵に変えたロイ。細かく破壊すれば再生力は失われる。これがヒタスが死亡する一例だ。
しかし、もう一体はすぐに起き上がって再生と発達を繰り返す。
自分の支配を広げていき、周囲の物体を操作し始める。自分という存在が消えないように…………。
「!あ、……テメェ!来たのか!!」
「うるせぇ、海パン野郎」
ロイとダネッサが目を合わせた瞬間。戦いこそはしなかったが、ヒタスに向けている意識は減った。わずかなよそ見の間にヒタスは体勢を整え、体からマグマを噴出し始める。
ダネッサ達を襲った火砕流の準備段階。
「止せ、君達!今はヒタスに目を向けていろ」
「!お前は…………管理人……じゃない?」
「お前と仲間になった気はないぞ」
「良いから、ヒタスを攻撃しろ!再生される!」
グルメは自分が戦いに向かないから司令塔に徹する。いざって時は動くつもりである。
ロイとダネッサはグルメの言葉を聞いて再びヒタスを見る。体を再生させるようだが、遅い。2人は同時にヒタスに突進した。
「とれーぞ!」
「殺す!」
ロイが鉄拳で、ダネッサは突きで残るヒタスを破壊する。
と同時に。ヒタスは体内に溜め込んでいた溶岩と灰を爆発しながら外へ放出した。
「熱っ!」
ロイとダネッサ、それにグルメがヒタスの作り出した灰に飲み込まれた。
「!……?……おっ…………」
「う、うぐ……………」
火山灰に取り囲まれるとロイとダネッサは体の自由が効かなくなった。痺れを味わった後、感覚を奪われたという実感。何度か経験したダネッサにはこれが分かる。
ドガジャアアァァッ
「な、なんだこりゃ……体が動かねぇ!?」
「こ、こいつ…………」
灰は2人を押し潰した。火山灰は徐々に固まりだし、ヒタスの体が物体を利用して再び形成されていく。それはロイもダネッサも、彼の一部になろうとしていた。
周囲が火山灰とマグマに覆われた時、上空にいるライラと春藍は様子を探ることで一杯だった。
「あの馬鹿…………まったく状況が判らなくなったわよ」
「ロイが殴り倒した魔物。まだ生きている気がする」
「そうよ。気配がまだ死んでいない…………どうやれば倒せるか……」
ライラと春藍の考えがグルメとクロネアと比べて遅れていたのは、ヒタスの能力を知らなかったことであった。火山灰が固まり出して、中にロイとダネッサが包まれたままヒタスは胴体を造り出す。噴火をすることで支配できる範囲が広がっていくようだ。
「ぷはぁっ………」
"ライブラリー・マインズ"によってヒタスの支配から逃れることができるグルメ。
「クソ……どうすれば良い」
考えろ、私。今、どうやらライラ達が空にいるようだが、彼女達の力を持ってしても勝てるかどうか分からない。ロイもダネッサも、あっさり火砕流にやられてしまった。
ヒタスの能力を中途半端に引き継いでいるようだが、それよりも生命力がある方が厄介だ。これではいくら戦ってもキリがない。大雨もどこまで持つのか…………。
「……………!」
そういえば私はヒタスの能力を受けない。ヒタスの能力は物体に自分の支配を流すことだと推察できる。自分の命を守ったり、増やしたりするのなら分身や生成が多いはず。
ヒタスを全部潰すよりも、ヒタスの支配する力を狙う方が早いか?
「精神を操作する能力が、ヒタスには有効か?」
グルメが描いた作戦は正解であった。支配する力を治めればヒタスの永続的な生命力を封殺できる。
「誰かここに精神系の能力者はいるか!?いれば、ヒタスを倒せる!」
グルメの声はライラ達のいる空にも届いた。……そして、自分で気付く。
「俺しかいねぇじゃねぇか!!(しかも、俺しか適応されねぇから意味ねぇ)」
策略を描くことに集中していたグルメ。もう目の前にヒタスが彼を襲おうとしていた。声が届いたこともあって、ライラもグルメを発見し、さらに警告する。
「危ないわよ、グルメ!!」
「え?」
ポーカーフェイス能力であるのに表情が豊かになっているグルメ。それは度重ねる連戦で、あの莫大な魔力の消耗を意味している。ヒタスの超人技が迫り来るところ、グルメよりも冷静沈着なキャラであるクロネアが守ってくれる。
「クロツグ!ヒタスの時を止めろ!!」
巨大なヒタスを見事に封じ込める。しかし、巨体をずーっと封じられる力はない。
「ぐっ」
「クロネア!た、助かった!」
「は、早く!指示をお願いします!可能な限りの時間は稼ぎます」
「!…………ま、まぁ待ってくれ!」
アイディアはある。しかし、それを実行できる戦力はグルメには思い浮かばない。こいつ等、単純な戦闘力しかねぇ。力任せで倒せる倒し方を模索するも、ロイとダネッサは……クロツグでヒタスごと時間止めてるからあいつ等も止まっているだろう。
残りはライラと春藍であるが…………無理じゃね?
むしろ、これ逃げて龍管理人を呼ぶべきじゃね?
「あんた達!!」
「!」
そんな時、ライラの声が聞こえた。それはグルメにとって最悪の言葉であった。
「グルメの言葉は本当でしょうね!?あたしにアテがある!なんとか4人でその怪物の時間稼ぎをしなさい!!」
「な、なんだって!?(君がいなくなったら、誰が私を守る)」
それを言い残し、ライラは雲にどこかに走らせてしまった。グルメはそれを彼女の逃げだと感じられた。
「ちょっと待ってー!!私も雲に乗せてくれ!!」
「ライラの言葉……信頼できます。時間を稼ぎましょう」
「え、……マジで!?」
クロネアとグルメの共闘。ともかく、ライラと春藍が彼女を連れて来るまで必死にヒタスを止めなければいけない。
大ピンチであるのは変わらず、策を講じることに奮闘するグルメ。




