ヒタスの支配感
支配とは。
【支配とは何か、教えてください】
【辞典引け】
支配とは、組織などを自分の意のままに動かせる状態にすること。
それが分かりやすい表現。しかし、ヒタスは
【支配は俺を広げることだ】
全てが俺であるならば全てに向き合えるだろう。
俺を嫌いなあいつが、俺となる。あいつの悩みも俺が考える。
全てが俺ならば、俺でしかなく。俺以上も以下もない。管理だけでは生まれない思想は、ただ1人にして全てが一つとなった状態。
【あまりにも危険な思想だ。それは幸福というのか?】
【お前がヒタス様ならYESと言うぜ。嫌とかカンケーなく】
【君が一番、管理人には向いていない。だから君はここに置かれていたんだ】
【元々、管理人のつもりはない。それとよー…………ヒタス様はもう釈放だぜ】
【……………………】
【朴だが、なんだか知らないけどな。投獄生活は終わりだって通達が来た。お前と違って、こっちはただの考え方の違いだけなんだぜ】
【嘘は良くない】
インビジブル等に匹敵する戦闘力を持ちながら、管理していた世界を潰したことで投獄されていたヒタス。
………………………………………………………………………
噴火は止まらず、広がっていった。恐怖の伝染と同じ速度でいくつもあった火山は噴火していく。山頂付近の空気は灰一色に包まれ、地面には溶岩が流れている。足の踏み場も良好な視界も失われつつある。
「くっ…………!……?……おい、あいつはどこ行った!?クソ!」
ダネッサはヒタス達の戦闘で夜弧を見失った。まだ追うことはできることを考え、重たいケチェリを背負って火山の噴火から逃れるダネッサ。
「うおぉぉぉっ、急いで降りろーーー!」
もうポーカーフェイスでいられないグルメも急いで山を駆け降りる。だが、3人共ヒタスが生み出した火砕流から逃れることはできなかった。
灰色の大波に飲み込まれ、温度に焼かれる。灰を吸い込めば咽る。走って降りるから転がるように自分達が山から落ちて行く。
「な、なんだ……この揺れ」
「?」
大塚と新橋にも火砕流と地震はやってきた。二人も寝転がっている状態だ。100kmを超える速度でくる火砕流は彼等を動かすことなく飲み込んだ。
「危な~」
新橋には"隅土"がある。火砕流であろうと絶対に触れることはできない。一方で大塚は大ダメージだ。防御する手段はなく、逃れる手段もない。
自然に殺害されたのだ。
ヒタスの攻撃は広がっていく。敵味方カンケーなく、大勢を巻きこもうとしていた。感情一つで巻き込むレベルの限度が酷い。負けたのならば勝手に1人で死んで欲しいものだ。
「派手な葬式をしてるんじゃない」
「退くのですか?」
「ああ。用事はダネッサに任せている。あまり俺も抜け出せないんでな。お前も、ポセイドンの指示を待っていろ」
黒い仮面の博士は別の異世界に行ってしまい、新入りもまたアジトの方に戻っていった。
それと入れ替わるようにやってきた4人組。
「お前等って行く世界度々、壊して行っているよな」
「あ、あたし達はカンケーないでしょ!!」
「…………否定はできねぇかもな(話が成り立たないだろ?)」
「すでに何か起きてますね…………凄い灰色の空…………」
春藍、ライラ、ロイ、ラッシの4人がこの世界に辿り着いた。
少々やってきたタイミングが遅かったが、ブライアント・ワークスの居場所もしっかりと掴んでいた。
「発信機って奴、ちゃんとダネッサの槍に仕込んだのでしょ?」
「うん。位置はちゃんと分かるよ」
ダネッサの"櫓厨"に春藍が仕掛けを施し、少しの間泳がせていた。
管理人達と協力することも考えたライラだが、ブライアント・ワークスと戦うという点では協力できるが、一点だけ協力できないと思われる問題があった。
それが夜弧の存在である。
かろうじでライラが思い出したのは、夜弧は管理人とは相対したくないと言っていたこと。彼女を探る場合、管理人がいては不都合であると直感がいっていた。
「ラッシ。あんたはここの住民達を安全な場所に避難させなさい」
「あ?なんでお前が」
「あんたが管理人だから!!」
「この世界にもちゃんと管理人はいるっつーの。そいつ等に任せろ」
ライラとラッシの話を静かに聞いていた春藍が2人の口を止めた。
自分で何かをしたいという意志は昔から作った。それを成し遂げるのが今からだと分かる。
「避難は難しいかも…………」
「!春藍」
「けど、僕が止める。"街全体を要塞化させる"」
"創意工夫"を填めて、出力を最大限にする。まだ実践投入には早いが、しなければいけない時もある。
地面に両手をつけ、春藍は街の大きさを目で確認する。距離を間違えれば逆に壊してしまう可能性もある。しっかりと頭に図面を引く、イメージをさらに大きくして、作業場を地面と捉えて両手を押し込んだ。ヒタスの力とは別の力で街全体が揺れ始める。
「お!」
「な、なんか。やばいことをするつもり?」
集中力が聴覚を奪い取っていた。ロイやライラの声は春藍には届かなかった。
地面に"創意工夫"の力を流し込み、街を造り出して建物にもそれは流れた。見えないが、春藍の両手がこの街全体を改造できるように包んでいた。大きな力は容易く、物質の性質を変化させて欠陥を補修。強固にさせる。迫り来る火砕流を受け止めるように街の外側には塀と壕を作り出す。また、そのさらに上から入ってくるだろう灰を寄せ付けないよう、薄い壁も作り上げる。
「………ふぅ……………」
長くは持たないが、一時的な耐久力はある。初めてにしては十分だと春藍は手応えを感じた。
オレンジ・ボーインヘットーの街は桶のような形になった要塞になった。突然の変化に住民達は戸惑ったが、それを説明する状況ではない。
すぐそこまで火砕流は来ているのだ。
「ぶつかるぞ!」
春藍の造り上げた要塞に火砕流が激突した時の衝撃は大きかった。春藍の持てる力で造り上げた要塞であったが、
バギイイィッ
火砕流の中心で不吉な音が鳴った。ただ1人の力ではやはり自然には勝てない。削られていることが分かる。
「ちっ…………しょうがねぇ。貸しだぞ!テメェ等!大人しくしてろよ!」
「!ラッシ。やってくれるのね?」
「当たり前だ。俺が管理人だからだ。それと、どうやらお前等じゃ自然には勝てねぇみたいだな」
ライラとラッシは似たような能力を持っているが、使い方などが違えば似ているという言葉は不適切だろう。
火砕流が春藍の要塞の一箇所を破り、街に侵入した時。ラッシの左腕が唸った。
「この世界の頂点は自然じゃねぇ!!管理人様だ!!」
火砕流に直進する竜巻を生み出し、灰も溶岩も全て要塞の外へ押し返す。要塞に空いた穴をラッシが埋めてくれることとなった。
「行くわよ、春藍、ロイ!」
ライラは"ピサロ"で2人を連れて上空へと飛ぶ。目指す相手はダネッサであった。




