解体作業と楽しい洋服製作
牛の血を抜く作業も行われ、皮を剥いで、内臓まで引っ張り出す。
「ううぅ」
「ネセリア。もう止めなさい」
今にも吐きそうになっているネセリアの表情。相当無理しているとライラは思っていた。
ライラとネセリアで牛を一頭、春藍とアレクで牛を一頭を解体していた。
とっても残酷な事をしていると、罪深く感じているネセリア。美味しいと食べていた物を作る事がとてもキッツイ事だとは思っていなかった。
怖い、怖すぎるよって顔を出していた。
「ラ、ライラは…………どうして平気なの」
「別に平気じゃないわ。殺して食うのが、現実よ。ただ殺す側が人間だった事は幸運だったわね」
2人で解体をしているのだが、ほとんどライラがやっているとネセリアには分かっている。自分はただ見て怯えて、触れるのが限界な人間。
これを食べていたという事実が結構重かった。
「生きるってのはしょうがない事の連続なんだから。私はしょうがない事ならやるの、ネセリアには無理をさせたくないからね」
「…………そっか。そうなんだ、ありがとね」
ライラの言葉にネセリアは我慢しきれずに、
「ちょっと、この部屋から出るね」
「ええ。ゆっくりしてて」
とてもキッツイのを見せてしまった。
ネセリアは当分食べられるかどうか分からない。
牛の解体をやった後で、牛を食べる気になるだろうか?ライラはもう一つの心配、春藍の方を見ると。これが意外にも、真剣に丁寧に傷をつけないように綺麗に解体作業を行っていた。
さっき、牛を殺害した時。決意をしたのか、中途半端にはしないでちゃんと美味しい肉をとるように信念を作った姿勢で、牛の解体に取り組んでいる。逆に不安になる行動だ。
「私はネセリア寄りだったなー」
最初は魚から始まって、次に兎と来て、牛と来た。
桂にこれも仕事だと言われて料理というの名の、残酷に食料を獲るという行為を仕込まれた。
戦場と生きれるための術は桂から教わった。その時、魚ですら身を取るのに怖かった。ビチビチと跳ねて、水を求めている目と苦しい呼吸が怖かった。触れた鱗はヌメッていて、触れるのすら気持ち悪かった。
慣れたきっかけは始めてやった事で十分だった。
乾いた目で動物達が、"助けてくれぇ"、"死にたくない"、"食われたくない"。そう最初に聴こえた偽の声が、包丁を一本突き刺した時だ。声が、"美味しく食べてください"っと言っている気がすると、感じてやった。素早く命を断って、なるたけ早く苦しみを忘れさせる。
何も思わず。相手に対しての感情があると食べ物は食えないと教わった。できるだけ旨く食う事、残さない事を思うには十分な出来事。
「ちょっと刺激が強すぎたかな」
世界の良いところだけを抽出しただけでは、世界を見た事にはならない。
悪いところやしょうがないところも見ないと。ダメだと思ったから、この仕事を選んだライラ。ここに来て一番、心の中に来ると思う。けれど、それは悲しい事じゃない。
命は大切にしなきゃって、気持ちができるはず。
カダァンッ
牛の解体が終わって作業員達からはありがとうと言われたが、とても静かに三人はここから去った。暗い部分。キッツイ出来事を毎日やっている者達に素晴らしいと褒めたい。相当な神経でやっている。
「さぁ、最後の仕事よ」
「最後の仕事はなんだ?ネセリアはホントに大丈夫か?」
「あまりこーゆうのはやりたくないよ」
「大丈夫、最後はあんた達が好きそうな事よ。また移動するけど、羊牧場で羊毛の服の作成。裁縫とか得意でしょ?」
気を取り直して。
一時休憩していたネセリアとも合流し、馬に乗って羊牧場へと走らせる。
およそ五分の道のりだ。その中で元気がなくなったネセリアに羊毛による洋服の作成を告げると。
「そ、そーゆうのもあるんですか。わぁー、……楽しみ。私、裁縫も好きです」
「なら良かったわ。一緒に作りましょ」
少しだけ元気が出てきてホッとしたライラ。
春藍もアレクも同じ事を思っているだろう。ネセリアが元気になればとても嬉しい事だ。
羊牧場に辿り着いて、洋服をなんとほぼ人の手で作られている部屋に入った四人。ミシンなどは置いてあるが、それ以外は全部人の手による製作。魂が感じられる動きだ。
そしてやってきたライラ達に配られる、作成すべき洋服の作業工程。
それにしっかりと目に通す四人。
「よーし!やろうか!」
「うん」
「……………(私、これできるかしら)」
道具なども置かれ、簡素のテーブルの上で四人で手芸という。
アレク以外は微笑ましいような光景だ。大男のアレクの手芸には違和感がある。しかしさすが、科学の世界の主任であるだけに、手先器用さが半端ではない。シュッシュッと女子よりも上手く早い手付きで服の形を作り出す。
分かっていた事だが、この中で一番不器用だと思い知るライラ。服なんて恥ずかしいところを隠しとけば良い程度、動きやすい恰好を好んだ自分は明らかに料理以外劣っている家事スキル。
ネセリアはというと、これは意外。
「うんっしょ」
「ネセリア。あんた、裁縫って得意じゃない?」
「私は裁縫が好きですよ。二人よりは得意じゃないですけど」
丁寧な動きであるが、明らかにアレクや春藍に比べて遅い。
正確に作るということを意識しているが、生産性のない動き。
私と同じくらいのスピードで良かったと思った。
だが、ネセリアはライラが思っている事よりも別のことを考えていて言った。
「あまり得意じゃないけど、頑張って上手くなるのって、結構好きになるんです。服には魅力がありますし。休みの日に作ってたりしてましたし、メイド服は自前のものがあるんです」
「そうなの。服とか自分で作っているのね、私はいつも買ってるわね」
そして、この裁縫という仕事に対して、なんと手袋(”創意工夫”)を填めてやっている男。春藍慶介が、ライラがどのくらいできているか確認する前に尋ねてきた。とても良い事を考えての行動。
「ライラ、訊きたい事があるんだけど」
「なに?なにが訊きたいの?」
「ライラの。バストとウエスト、ヒップ、肩幅、袖丈、裄丈、背丈、ズボン丈、股下を教えてくれないかな?」
「へー、春藍は私のバストとウエスト、ヒップとかを知りたいんだ。………は?」
「うん。知りたいんだ!」
とても悪い事は考えてもない。善良しか考えていない。
その、真剣な顔をしている春藍と軽いどころではないセクハラを喰らった、ライラの怒りの顔。
まずは分からせるために、一発顔面に叩きこむ。
ドゴオォォッ
「この!天然助平!!!女性にそんな事を訊くなんて!変態!」
「そ、そ、…………そんなぁ。僕は。僕は、感謝の気持ちを込めて、みんなの分の服を作ろうと思っているんだ」
「ふ、服を作る!?」
「だって、洗濯なんてそうそうできないから、服は多い方が、気持ち良いと思うんだ」
割とこの先を考えて春藍は発言している事に気付いたライラ。しかしだ。
「なんで私の服なんかを作るのよ!馬鹿!サイズを教えるわけないでしょ!私には女としての人権があるのよ!」
「じゃ、じゃあ。僕がライラの体型を想像して作るよ」
「妄想して作るとか、余計怖ぇぇわ!!サイズが合ったら合ったで、あんたぶん殴るから!!ジロジロ体見て!!」
作業場騒然の口喧嘩。だが、1000%。春藍が悪いだろう。そんな2人に口を挟んでやる、アレクとネセリア。
「それで俺達に作る服はなんだ?俺の希望はやっぱり純白の白衣だ。何着あっても良い、白は正義の色だ。赤は魂の色だ」
「私、新しいメイド服が良いです。ライラとお揃いだと嬉しいなぁ」
「はぁっ!?何あんた達、ノリノリなのよ!こいつに身体のサイズが測られているのよ、ネセリア!あんた!」
「ネセリアにはよく服を送っているんだ。メイド服とかは僕が作った物が多いよ」
女のメイド服を作る男とか、気持ち悪っ!自慢できるわけないでしょ!
「春藍!それはなし!止めなさい!!」
「え、えぇー。でも、せっかく服を作る機会なんだ。作ろうと思うんだ」
「じゃあ、私のは要らない!全然嬉しくない!」
服を作ってもらって嬉しくないっていう女子は、たぶんいると思う。どっちかというと、買ってもらいたい。
ライラの怒りに、理由がそれでも分からない春藍は落ち込んでいたが、ネセリアが優しく援護するような言葉を出した。
「えー。ライラも春藍に洋服を作ってもらった方が良いよ。可愛い恰好をしたり、寒いところに行ったら、そんな薄着じゃ凍えちゃうよ」
「!」
「メイド服とかも良いし、ワンピースもライラには似合うと思うなー」
まるで女同士で服を買うかのような誘い言葉。
しかし、作るのは無自覚な変態の春藍。いや、問題はそれじゃない。大切な身体のサイズを人に教えるという事は大変な個人情報。
ライラはすかさず、ネセリアに耳打ちした。
「あんた、自分のサイズを春藍に教えているの?」
「そうですよー。ちゃんとバストもウエストもヒップも測ってもらってます。春藍なら無料です」
「無料とかじゃねぇーし!そーゆうのは女子同士で計りなさいよ!馬鹿!」
「へ?」
ダメだこの子。ホントにダメな子。天然って危なすぎ。危機感がなさ過ぎる。
「あの、ライラは春藍に計られるのが嫌なんですか?なら私が計るので、それで春藍に作ってもらいません?」
「えっ?」
「服は多い方が良いのは、春藍の言うとおりだと思います。多く作っても私の"掃除媒体"に収納すればいいですし、次に服を作れる世界ってないかもしれません」
ネセリアには服を買うという手段は頭にないのかしら?
「そ、それでも嫌よ」
「そ、そんなに春藍に服を作ってもらうのが嫌なんですか」
「いやその」
ネセリアの綺麗な形の身体と比べたら、すっごい凹む。けれど。理由はなしにたまにはお洒落に飛び込むのも。
「分かったわよ。分かったから。お揃いでも良いから、たまには良いかもね」
「じゃあ今すぐ計ろう!データが分かれば、春藍と"創意工夫"の力で10分くらいで作れちゃうから」
ネセリアはライラの方へ回り、手をとって見えた更衣室に駆け込んだ。
メジャーもここで働くおばさんに借りる。ネセリアがシャーッとメジャーを伸ばして楽しそうな表情を見せたが、ライラは少し複雑かつ、恥じらいを足した顔を出していた。笑われるかもしれないとちょっと思った。ネセリアがデカイだけ
シュルゥッ
測れるように薄着になったライラ。そこを楽しそうにメジャーでネセリアが計る。友達のようにやっている表情だった。普通の胸を測られて。
「ふんふん」
「声は出さないで良いから、紙に書いてよね」
「分かっているよー」
次にウエスト。これはネセリア並に良い。むしろ、キュッと締まっているからここから下は自信があるというか、何を言われても大丈夫。
「わ、ライラって鍛えているの?すごーい、このお腹!」
「!ふ、ふ、腹筋が割れているわけじゃないわよ!ちょっと人より肉がついているけど!し、し、脂肪じゃないし、締まっているだけって言って」
「私はちょっとぷにぷにだよー。ライラの腰は良いね」
「あ、ありがと」
小さい時から桂に鍛えられ、闘う術を得ると自然に肉体も手にする。
"魔術"のスタイルであるが、身体能力の磨きも忘れず、旅に出る前はよく走ったりなどして身体を鍛えていた。おかげで手に入れた引き締まった身体だ。
「うん、これでオッケーだね」
「ありがとね、ネセリア」
「どういたしましてー」
メジャーを閉まったネセリアだったが、ライラは少しだけ。勇気じゃなくてそのちょっと女としての好奇心で
「ネ、ネセリアも測らない?その……胸とか」
「え?私もですか?」
「嫌?なら良いんだけど、その…………ね」
ライラの視線は明らかにネセリアの顔よりもその下にある胸だった。お風呂で見たが、ネセリアは相当デカイ。服で大きさを隠している。
「全然良いですよー。じゃあ、これメジャーです。お願いしまーす」
ネセリアが服を脱いで、ブラを外した瞬間。ライラは見逃さなかった。
ブルンッと音が聴こえた気がした。プルンッじゃない!プリンみたいな表現じゃない。例えるなら島に地震が襲ったような胸の落ち方。そして、下に落ちたブラのサイズを見た瞬間。超デケェッ!いや、それでもなんだろうか?
「このブラって」
「小さく胸を締めるブラ(科学の一種)です。春藍が作ってくれました」
あいつ、ブラまで作っているとか変態過ぎる極みね。
「って胸を小さくするブラって」
「大きくて、可愛いのはオーダーメイドなんです。小さくしないと服も着れない物があるので」
巨乳も。いや、こんなに大きい胸をする人間を見たのは初めてかも。すでにこれは敗北感よりも、本当のサイズはいくつ?ってくらい開き直りたいほどの女性への憧れ。
春藍のことを変態と罵りながらも、人の身体には興味があるライラ。人の事が言えない。
「は、は、測るわよ」
「お願い」
慎重に、メジャーに巻きつく胸はとても大きく柔らかく……そして、数値は…………
「嘘っ」
小さく声を出すほど。まさか。自分では勝負にならない。この数字はアリなのと疑いたくなる。
逆に大きすぎて手に余るほどではないか?分けてくれ、少し。
「さ、さ、さ、三桁に行っているのね」
「はい。後半の方です」
100を超えているバストに。ライラはとてもその驚きにお願いをした。
「今度お風呂に一緒に入ったら、その…………少しだけ、その胸を触らせて」
「へ?」
「お、お、女同士だから良いじゃない。た、た、体験させて。その3桁のバスト。べ、別に疚しい事なんかないから!」
こいつは自覚があるけど否定する。春藍よりおっさん的過ぎる変態であった。