新入りの実力
「ぬしゃあ…………怨みっちゅうの。知っとる?」
敵と対峙したクロネア達。ブライアント・ワークスの新入りの彼女と戦う時だった。
先陣きって彼女と戦ったのは怨北王子。ヒタスに次ぐ実力者であった。クロネアとホルォ・レインゼーなどは彼を援護するつもりであった。
「管理人管理人管理人管理人ぶっ殺すううぅぅぅっ☆」
新入りから感じられる特別な感情は怨北王子にとって好都合であった。
「オ・オンオ・ン・ガワ(恩怨河)」
怨北王子
スタイル:科学
スタイル名:恩怨河
詳細:
水の科学。怨む気持ちが強い者ほど、その者の近くの水が増水し、最終的に溺死に追い込む科学。この水は蒸発や冷却ができない。水かさを減らすには恩を怨北王子に売らなければいけない。
相手が存在し、敵意などを剥き出しにすればあっという間に溺れ死ぬ。新入りの感情は怨北王子が出会った人間の中でもっとも強い恨みを抱いていた。
勝負は一瞬でつく。
「!?」
新入りの周囲に水のベールが突然現れ、彼女を包み込んだ。決して水は離れることなく纏わりつく。それを振り払おうとするも決してとけない。むしろ、さらに水は増していく。
「んんんん!」
「勝負アリじゃ……」
一瞬で戦闘が終わったかに見えたが、新入りは水の中でも生存することができた。そして、水がどんどん増えるたびに新入りの恨みはより強くなった。恩怨河に包まれれば新入りもロクに攻撃はできないが、怨北王子等も彼女を攻撃することはできない。
怨みが強くなり、そして加速していけばその分だけ水が生まれる。意図した攻撃ではない。ただ、新入りの恐るべき恨みと、生存能力が誰も想像していなかった奇手を生んだ。
「ちょ」
「逃げましょう!」
彼女を中心に生まれたのは津波だった。それもどんどん巨大化していく。強すぎる恨みが溺死する水を超える量を生み出した。現在進行形で怨みは強くなっていた。
クロネアは"クロツグ"を使ってなんとか脱出経路を作り上げる。
「うおおっっ!?」
「いかん!」
しかし、他の者達は新入りが作り出した津波に飲まれていったのであった。怨北王子は津波に飲まれながらもまだ生命を保っていた。全ての水が引けるのは遅かった。
「……………仕方ありません。先に行きましょう」
クロネアは新入りとの戦いを諦めた。自分の能力を自覚していた。怨北王子を欠いたことにより、まともな戦闘はできない。この先にいるであろう、新橋とヒタス達に合流するつもりであった。
「!」
そして、この時クロネアは無花果のスカイツリーが消失していたことに気付いた。向こうでも何かがあったと分かったが、様子を見るよりも合流するべきと判断した。
クロネアの判断は正しく。
無花果やハイデルモット、リゾウがいる地点ではもう1人のブライアント・ワークスが襲撃し、3人を殺害していた。
「ふーっ……………」
仮面を被りながらもタバコで一服する黒い龍の仮面の博士である。ダネッサ達とは遅れる形でここにやってきて、ハイデルモット達の情報網を掻い潜った形になっていた。
「…………しかし、随分と遠くで戦っている。俺に山登りをしろというのか」
クロネア、ヒタス、新橋、グルメを除く管理人は殺害された。
一方で戦闘不能となったダネッサとケチェリ。大塚は新橋と交戦中。
黒い仮面の博士と新入りの位置は、ヒタス達との距離がとても離れている。ダネッサ達のところまで30分以上は掛かるだろう。2人の絶命は必死。
ガヂャァンッ
「ん…………こうか」
黒い仮面の博士はダネッサのピンチをなんとなく分かっていた。ヒタスと交戦し、その実力が並のダネッサでは太刀打ちできないと比べられる。
彼は不慣れな科学を扱っていた。
スタイル名:LD仮想
詳細:
様々なアンテナが接続された複雑なスーパーコンピュータ型の科学。ライラ・ドロシーの魔術、"ピサロ"を再現している。ただそれだけの再現のために、とてつもない複雑さと簡単には持ち運べないサイズがある。
ピーーーー
「…………なるほど」
まだ彼では完全に操る事ができない科学。それだけポセイドンの科学力が進んでいることでもある。しかし、ライラの魔術を再現する科学を作り出すとは本人が知ったら、製作者を訴えるだろう。
綺麗な空に灰色の雨雲が発生し始める。小雨がすぐに彼等の山だけに降り始めた。完璧な再現ではないが、この戦場においては十分であった。
「援護はしたぞ、ダネッサ」
雨を降らすこの科学を守るためか、黒い仮面の博士はそこでただ待っていた。
「…………お、……おぉぉっ……」
小さな雨でもダネッサの体は濡れた。海パン=パンツ以外は裸だぜという意味だ。体が濡れると傷が徐々に癒されていく。ヒタスから浴びたダメージもなくなっていく。
「!」
「だ、……だ、……第2ラウンドだ……管理人…………」
ダネッサが再び槍を握り締めた。ヒタスによって半壊されても、彼の武器はこれだ。




