情報収集担当の敵は早めに潰すべし
大塚を倒した新橋であったが、彼女のミスはその甘さだった。そして、大塚の体に触れて倒したことが綻びであった。
「!」
大塚に触れたことによって、新橋の体は引力が付加される。人間サイズの引力が付加されれば石とは比べ物にならない力となっていた。
周囲にある物が新橋に向かって引き寄せられる。引き寄せられるというより全方位からの攻撃であった。多少は打撃で撃ち落すも、大きかれ少なかれ新橋にくっついていく。決して離れない引力。
「ちょっ、待った!!」
新橋は慌てて自分の背中を地面にくっつけた。"隅土"でこの場をやり過ごそうとしていた。"隅土"は自分の体の少し外側部分にバリアができるようなものだ。体に一切寄せ付けないという能力だとしても、
バヂバヂバヂッッ
異音を出しながら、そのバリアに張り付くように周囲の物体は動いていた。"隅土"を解除すれば一気に新橋を圧死する攻撃となっていた。
「うーん。まぁいいか。ドーナッツ食べれるし」
大塚も地面に転がり、新橋もまた地面に転がった。2人は膠着。新橋にとっては役目である時間稼ぎを成功させたと言えるだろう。
グルメと新橋の時間稼ぎは、ヒタスがダネッサとのタイマンの決着まで十分にあった。グルメにとっての切り札は彼であり、ケチェリ達もダネッサには信頼をしていた。
完全な素手の男と槍を持つ男の戦闘。リーチではダネッサが上を行き、攻撃手段ではヒタスに軍配が上がった。だが、2人の総合的な強さはほぼ=。
メギイイィィッ
ヒタスはダネッサの突きに対して、真向から拳を叩きこむ。刃に拳が突き刺されようとカンケーなく真っ直ぐに突いた。ダネッサの槍を一定時間支配して機能をストップさせるだけでなく、細かな部位を操作し始める。ケチェリの腕をへし折ったように槍を破壊する狙い。
「!」
武器を破壊する事に腕一本で済めば安い物だ。ヒタスはダネッサの次に戦うだろうケチェリの事など思考になく、その行動ができたのだ。
「いいかぁぁ~?」
ダネッサは槍から手を離せない。彼はどんなになっても、武器を手放す事がどれだけの事か理解できているからだ。冷や汗を流していても、離した方が良いと周りの奴等が言ったとしても決して離さない。ヒタスは酔っているような声を出しながら、血塗れた拳で槍の位置を固定させた。
「この状況で敵を出し抜くには、相手より強くならなきゃいけねぇ。科学野郎にはそれが理解できるか?」
槍に突き刺さった拳をさらに奥へと進ませる。手を切り落とすよりも先にある肘へ行き、上腕まで差し掛かるほど刺されていく。最初から腕を捨てている。そのど捨て身はダネッサには理解できても、実行はできない。
ダネッサの強さの理論は立ち会い、戦闘に入るその瞬間のパラメータを競い合うことだと考えている。
一方でヒタスの強さの理論はただ勝つ事を美徳とし、あらゆる手段、あらゆる強さを扱うのだ。
ただの戦闘に対する姿勢はヒタスには強く。逆にダネッサの姿勢は戦場に適していた。
その差はこの場でハッキリと現れた。しかし、どちらが優位かは決められない。
腕を捨て、ダネッサに対して拳が届く間合いに持ち込んだのなら、超人で体術を駆使するヒタスが絶対の有利であった。片腕であってもダネッサを叩きのめした。
バギイイィッ
打撃+支配。ダネッサは殴られた時、痛みをそこまで感じなかった。しかし、殴られたところが裏返るようにされている光景を眼にし、ゾッと表情を変えた。支配が解かれると痛みを理解した。
「ぐふぉっ」
ダネッサの膝が折れる。
ヒタスの蹴りをモロに浴びればすぐに痛みが来て、拳をもらえば体を変型させられて痛みが遅れてやってくる。ダネッサが感じる痛みも多彩であり、精神を虫に喰われるような感覚に陥った。脳裏に敗北を刻む。ここんところ、負けがかさんでいる。
次がありゃいいと、願いながらヒタスの攻撃を浴び続けた。ヒタスの戦闘を唖然として見ていたケチェリ、そして、グルメ。
「だ、ダネッサ……負けるのかよ………ほ、本気出せお!」
「!…………つ、強い。あの槍使いを一方的にしてるとは…………」
龍管理人から聞いていたが、これほど強かったのか。
欠番要員という役割であるが、決して劣らない能力をちゃんと保持している。穴埋めに掛かる時間を無駄にしたくないからだ。また、それすらできぬのなら欠番要員など始めから存在しない。
「ダネッサ!今、向かうんご!」
「むっ(やった、助かった。死ぬかと思っていた)」
ケチェリはダネッサを助けるべく、グルメとの戦闘を止めてヒタスに向かった。自分との相性の悪さなど忘れていた。単純に2人で戦えば倒せるという判断。
「おい!グルメ!ちゃんと時間を稼げ」
「へ?」
「俺は今、片腕がねぇーんだ!2人の相手は面倒だ!」
戦いながらグルメに注意するヒタス。しかし、言葉とは違って注意する余裕があるほど、グルメから見たらとても簡単に二人を同時に相手していたのだ。そもそもダネッサが抱えているダメージが大きい、彼の動きが明らかに鈍っているのがある。一方、ヒタスは"支配拳"によって自分の感じる痛みを消していた。
メギイィッ
「デュホォ~!?」
ケチェリの腕がまた折れた瞬間、勝敗は決まったのであった。
ダネッサとケチェリではヒタスには勝てない。
「おしまいだな」
ヒタスの言葉もそうだし、目の前にあるちゃんとした光景は確かに俺達の勝ちだと確信できたグルメ。だから、すぐに他の戦況を聞こうと"フレンズ・リンク"を用いた。
「他の戦況はどうなっていますか」
『……………………』
「?……あの……応答を……」
『……………………』
「応答を…………!……!?」
簡単に情報交換をできる科学を使っているのに誰も応答がない。ようやくグルメはあれがないことを気付いて、倒れそうな顔になった。偵察を行うために作り出した、無花果の"スカイツリー"がいつの間にか消失していたのだ。
先に情報処理専門の管理人3人が、死んだかもしくは倒されたと察知した。この広い戦場で情報交換ができないことは不安になる。特にダネッサ達と出会うまでの敵の数は4人だったはず。
「誰か応答してくれませんか!?」
『……………………』
察することは他が全滅しただった。
「怨北王子さん!クロネアさん!カミューラさん!新橋さん!応答願います!」
新橋を除けば、他は集団のはずだった。たった一人を相手に全滅したという事実があるとしたら……。今のヒタスで勝てるかどうか分からない。自分が死ぬかもしれない。
そして丁度、雨が降り始めた。




