人体改造
「ハ、ハーネットの資料は奪われて、アレクが意識不明ですってーーー!?」
ライラがフォーワールドに帰還した時、その事態を知り大きな叫びを上げたのは当然であった。
「ちょっと、……なにしてんのよ!?」
「お、俺達のところは守ったんだがな…………」
「アレクが負けるところを想像できる奴がいるか?あの野郎は俺の体を真っ二つにしやがったんだぞ」
ロイとラッシはライラに説明していた。アレクのところに駆けつけた時、死んではいなかったがいつ目覚めるのか分からないほどの重体となっていた。
彼と戦った敵が誰なのかすらも分からなかった。
「最悪…………超最悪だわ…………」
ライラは頭を抱えてしまった。口に出すようにあってはならない結果。自分がいれば良かったと後悔した。
「しかし、慌ててはいけませんよ。落ち着きましょう」
「クロネア」
「ロイとラッシの功績である捕虜がこちらにいるんです。彼から話を聞いてみるという手があります」
捕縛したダネッサは今、厳重な檻に入れられており、科学も取り上げた。彼から何の情報が手に入るか分からないが、ブライアント・ワークスであることは分かっている。
「って、なんでこいつまた海パンなのよ!服くらい着せなさい!」
「そんな余裕あるか、こーゆう姿で襲ってきた奴に言え」
ダネッサと再び会ったライラ。マーティ・クロヴェルでは少し戦闘したくらいで終わり、その正体も特に確認していなかった。
「あんた、ダネッサって言ったっけ?」
「だからなんだよ?」
「あんたに色々質問するけど、全部答えてくれるかしら?嘘を言わずにね」
脅しの声に反応したわけでもなく、ダネッサはあっさりと
「まー語ってやろう。俺様の話、なんでも語ってやるぜ」
「……………あんた達もハーネットの資料が欲しいようだけど、あれにはどんなことが書かれているの?」
「それは知らん。俺はそこまで興味なかったから聞いてねぇ」
「あんた達、ブライアント・ワークスの中にはまだヤバそうなのがいそうね。なんであたし達と違って平然と異世界を移動できるの?」
「それは"お主様"に許可をとっているからな。ああ、先に言っておく。ブライアント・ワークスは"お主様"こそ、ポセイドン様が管理している組織だ」
「!…………!?は?」
二回目の質問にライラとラッシ、ロイは!?を飛び出した。はぁ?って、一瞬信じられないことを平然とダネッサが空気を読まずに言ったことが原因であった。しかし、1人だけそれを理解していたように尋ねた。
「やはりポセイドン様と繫がりがあるのですね」
「おう。理解早くて助かる」
「…………であるならば、ポセイドン様もタダじゃ済まない事は分かっているのでしょう?」
ダネッサの失言に対して、クロネアは威圧するような声で言ったが…………
「……ははは…………そーゆうことか」
「?」
「いやいや……こっちの話だ。別にかまやしねぇ。たぶん、そうだ」
しかし、これについてダネッサは顔色一つ変えないどころか、笑ってみせる。その行動にライラ達はやはり馬鹿だコイツと思っている目をした。
「あんた、それを本気で言っているの?」
「ああ。ポセイドン様が俺達のボスだ。嘘なんか突いちゃいない」
「じゃあ、ポセイドンに問い詰めれば全部答えてくれるのか?」
「そこはポセイドン様次第だろう。だが、ポセイドン様が俺達のボス。管理人の最高責任者であると同時に俺達のボスだ。それは間違いねぇ」
ダネッサがこれをバラすことに意味はある。しかし、それにはライラもクロネアも答えまで到達できなかった。
「次の質問はなんだ?」
「…………逆に聞く。なんであたし達の質問に快く答えるの?」
「それは俺が捕虜をやっているからだろ?痛い目に合うくらいならどーでもいい事を答えた方がいいさ。……ああ、俺に重要な情報はないぞ」
ダネッサはこの状況を楽しんでいる。それが逆に不気味であった。
「………………あなたには残りの仲間がいるはずです。その能力とお名前まで教えてくれますか?」
「ああ、いいぜ。つっても、俺が知っている範囲内だぞ?」
仲間の秘密でさえ、ダネッサは売り始める。
「オタクでデブみたいな姿をした、ケチェリ・リーヴァー。こいつの"七曜表"には空間を操作する力がある。細かい原理は知らないが、隔離されやすいから気をつけろ。あと生身の戦闘も強ぇ方だ。あとはキレマークをいつも付けているガキ、大塚。あいつの科学名は長いから忘れたが、引力を操作する能力だ。あれに逆らうのは無理だな」
サイテーとも言える行為。
ケチェリと大塚の能力をばらしたダネッサ。だが、彼が知っているのはここまでと言えよう。黒い龍の仮面を被った博士の科学はダネッサも未知、新入りがいることも彼は知らない。ロイが唯一、黒い仮面の博士と遭遇していたが、彼がブライアント・ワークスかどうかは分かっておらず、ロイもその発言をしなかった。
また、アッサリとダネッサが語った事がライラ達の求めている要求を下げたとも言える。他にいる仲間は?という質問をしなかったのは痛いミスだろう。(ライラはこれで出会っている五人を知れたので、省いたとも言える)
「お前、"超人"じゃねぇだろ。それなのに理屈に合わない身体能力はなんだ?」
「理屈に合わない?原始人だなテメェ」
「んだと?」
ロイは彼等の仲間よりも、ダネッサにある強さに興味を持っていた。それに対してもダネッサは答えてくれる。
「俺達、ブライアント・ワークスはお主様によって、人体実験された人間だ。機械と人間で造られた改造人間じゃねぇぞ。生物学的な部分からの改造人間」
「あたし達からしたらどっちも同じよ」
「同じじゃねぇよ!俺達からしたら違う!物理と生物学はどう考えても違うだろ!それほどだ!」
人体実験。
魔物と人間を混合させるような実験や、肉体改造するためいくつかの生物の遺伝子や血液などを用いることで身体能力を強化する。ポセイドンが長い年月掛けて成功率を高め、その精度も優れた物になっていた。並の"超人"と遜色ない身体能力、龍になったりできる身体、異次元の胃袋など…………。
人間そのものを科学としていると言えよう。
「だいたいそんなとこだ。ポセイドン様は俺達にとっては神様みたいなもん。科学を頂点にしてやりたいのさ。それが、子供の気持ちだろ?」
「…………親孝行ね」
ライラはダネッサの話を理解して
「分かったわ。情報ありがと…………」
「?もう良いのかよ?ライラ」
「いいのよ、ロイ。春藍に聞いてみたいことがあるから、先に戻るね」




