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RELIS  作者: 孤独
”酪農平原”モームスト編
23/634

初めての乳搾りとちょっと怖いけどせにゃならん

負け組のクズ共、こんにちは。死ねよ、カス。


…………。


目や耳、鼻、文字でその仕事を一日だけ想像する事はできるだろうが。その仕事を逃げずに365日しているという事はシミュレーションできるだろうか?答えはNOだろう。

お客様というゴミクズ様に謝ること365日中、192日、274回。

一日中、ただただ。同じ画面や同じ行動を繰り返し、見えない、気付きそうにないモノを見つけるデバッグ作業。申し訳ないと言いながら、道路の舗装を行ない、人達を誘導する作業員達。危険な地帯での爆弾解体。酔っ払いの相手や、時に強盗を捕らえなきゃならん治安部隊。売り上げを出さなきゃ潰れちまう自営業や接客業。こんな文面、こんな絵で売れるか分からんけど、売れなきゃ死ぬクリエイター稼業。


いくつも仕事はある。雇われん奴もいるだろうが。それはクズとして思うか頑張れと思うだ。

ムッチャきつい仕事は存在するが、誰だって辛いと感じた時は初めて仕事を自分でやる時だと思う。



「暑いですね。太陽に当てられて……」

「フォーワールドでは冷房を掛けていたが、ここでは無理のようだな」



農業に適した環境は、決して人々が農業をやりやすい気候ではない。

丹精込めて育てている野菜のため、より多く収穫し、より美味しい野菜や卵、お肉、魚を作るためである。人間が行う食事という神聖な行いかつ、命の繋ぎは人間が苦労しなきゃならんのだ。その次に食事を楽しまさせ、命の繋ぎから成長のための食事に変えるのだ。



「アレクさんは涼しそうですね、汗が出てないなんて」

「俺は火の"科学"を操るんだぞ。暑さと疲れで汗を掻いて苦しいと言っていたら、使えないだろう」

「ですね……」



春藍とアレクはこの農作業というのには適正がないようだ。


……え?なんでしているかって?

お食事代と宿代などを払うために仕事をもらって働いているのである。


春藍とアレクからしたら、こんな地味で土と触れ合い、直射日光を浴びる事は好んではいない様子。

インドアで育ち働いていた者は頭こそはややまともだが、体力がやや劣るし作業環境が苛酷なのは好まない。中で感じる暑いですねーと外で感じる暑いは全然違う。

外で暑いと言ったり聞いたりすると、暑く感じるより"ウザッ"、"ウゼェ"、"うるせぇ"の3Uが大抵発動する。

とはいえ、好まないというだけで与えられた仕事は完璧にこなそうとする。

それが春藍達の職人かつ仕事人気質。好きじゃないが手は抜かない。作業時間が決まっているのなら、その時間内に完璧に終わらす事に務める。残業したくない。それは断じて嫌だと、伝えたいように与えられた事をミスなくこなそうとしている。

ミスがなければ少なくとも遅れることはない。嫌いな仕事は定時で片付けたい。早く涼しい部屋でお茶を飲みたい、アイスクリームも好みます!



「ふーぅ」

「む」


レタス畑と大根畑、じゃがいも畑の手入れ。良い食材を作るため、"科学"を使ったりもしているが、とても地味。なんて地味。手間隙というのは地味な作業の繰り返し。

農作業をして春藍は感じとったのが、早く成長して欲しいという気持ちだった。物作りならその日の気合などで急速に発展したりもするが、農作物は天気もそうだし、自分達の手入れを行い続けて数週間以上はかかるのだ。

春藍の性格にはあっていない。頑張れば頑張るほど、先に行けるわけではないのが、ちょっと辛い。

最初はアレクと隣同士だったが、手入れをする畑が代わると離れ離れとなり、この世界のおじさん農民を見かけた。その人はこちらに気付くなり、話しかけた。



「若い者はこの仕事をどう思うけん」

「!え」

「キツイかぁ?楽しいかぁ?」

「あぁ~、普通です」



この暑さの中、よく仕事をしながら話をするなって思う。春藍には意味が分からない。暑くないのか?身体が疲れないのか?


「そっかそっかぁ。残念じゃ。2人共根気があるし、ちゃんとしちょるからえれー子達だぁって関心しとったんじゃ」

「そ、そうですか」

「農作業ってのはキツイんじゃ。体験して分かるじゃろ?」

「はい」

「ワイ達は農業しか知らんが、これが一番じゃ。御天と光で健康一番、汗も流せる、育てた野菜、牛達を食べた時はいつも感激するねん」



イビリィアでは異世界人は、かなり怪しまれていたのだが。ここではまるで、もう知り合いだよと思っているような親近感がある。

というか、おじさんの話は春藍にとっては耳が痛いでしかなかった。訛りがとにかく強烈で、雑音のような音として捉えてしまう。外の暑さも相まって、農作業よりもこれの方がキツイ気がする。

人間関係というのは向こうでも悩みだったが、腕次第でどうにかなっていた。だが、これはもう。おじさんが僕に話したいだけだろう!!



「うぅ~」



おじさんが過ぎるまでに大きく体力と根気が消耗した春藍。

集中力が切れて、みんなの位置を確認してみた。アレクさんは僕と同じように農作業のおばさんに捕まっているようだが、……凄い。無視してちゃんと仕事をしている。なおかつ速い!おばさんが驚いている!

…………ネセリアは。ああぁ、おばちゃんとおじさんのダブルで捕まっている。でも、ネセリアは2人と楽しそうに話している。コミュニケーションが上手いなぁ。でも、仕事をしてないね。ライラはおばさんと話しながら仕事をしてる。

あれ?意外にも楽しそうにやっているね。ライラって働けるんだ。(春藍に悪気はない)



「よーし、僕も頑張るぞ」



休んでいられないと感じ取り、作業時間までに終わらせるよう務める。

虫の除去や雑草取りなど地味な作業の連続。それでも分かりやすいから作業は進みやすい。1時間くらい頑張って、ようやく一時休憩の合図が鳴る。

今度は畑から牛と羊牧場で働く事になっている4人。無事に僕とアレクさん、ライラは仕事が終わった。けれど、ネセリアは手がよく止まっていて仕事が残っているけど。



「私のところはおじさんとおばさんがやるから良いって言われたの」

「え、なんかずるいなぁ…………」

「おじさん達は私達が働くよりも話を聞きたかったみたい。私達みたいな旅人がやってくるなんて初めての事で、どんな話があるか知りたいって言ってたわ」



休憩中にネセリアが教えてくれた。

なんだかそう言われると真面目に働いていた自分がショックを受ける。

見ていて思うが、ここの人達は休憩中もよく話して楽しんでいる。仕事中に無駄な話も多い。

僕達の世界、"フォーワールド"ではあまり馴染みの無い仕事風景だ。

僕達は生まれた時から、どんな事をさせられるのかがほとんど決まっていた。マグレで職業が代えられた僕やネセリアと違い、多くの人達は生まれた場所で未来が決まっていた。アレクさんもその1人だそうだ。

ほとんどの人は。以前の僕も、ただ同じような仕事しかなかったから。楽しさを失い、機械のように動いていた人間だった気がした。

ここはどうだ?外を見渡した限りだけれど、生まれたらやる仕事は何か決まっている。ここも同じだ。



けれど、楽しく笑って仕事をしている。とても楽しくしている。これは僕達とは違う。

なんで差が出るんだろう?僕はこんな仕事は好まない。そして、おじさん達も仕事が好きとは思えない。よく喋っていて手が止まっているのは、労働的にはマズイだろう。



「働く事と楽しむ事は一緒じゃないわよ」

「ライラ」

「飲み物を持って来たから。この牧場の牛さん牛乳。後で搾りに行くのよ」



春藍、ライラ、アレク、ネセリアの四人が揃ってテーブルに座って、休憩+食事タイム。農作業は腰に来るというのはホントで、アレクはなんか肉体的に辛いといった顔をしていた。

春藍は仕事環境に心を痛めていた。ライラとネセリアは慣れだったり、コミュニケーションの高さで普通そうな顔をしていた。


「情けないわねー、それでも男なの?」

「俺はあーゆう地味で泥まみれになるのは好きじゃない。逃げるように仕事をした分、腰が痛い」

「アレクさん、とっても大きくて力持ちなのに」

「農作業と力持ちは関係ない。とにかく疲れた。これがまだ7時間あって仕事が二つあると思うとキツイな。この歳で新しい事にチャレンジするのはキツイぞ。歳はとりたくない」



一番、疲れた顔を出しているのはアレクだった。

30はとうに超えた肉体。心が若くても、肉体はそうなっていてはくれないのだろう。しかし、アレクは戦闘だと凄まじい動きを見せるだろう。実際のところは飽きたというのが正しいだろうと春藍には思えた。


「ったく」


ライラは情けない男共を見ながらもらった牛乳をコップに注いでみんなに配る。どうせなら麦茶にしろよって顔をしているアレクはコップをとり、一口飲んだだけで


「!!旨い……なんだこの牛乳は!?」

「ホントですか?」


アレクに続いて春藍とネセリアが飲むと


「ホントだ!美味しいです!!」

「こんなに美味しい牛乳は初めてです!」


三人はかなり驚いて次々に牛乳を飲んでいく。

本当の牛乳というのを初めて飲んだ気がした。農業がとても大変だと思っていたアレクと春藍だったが、見返りはやはり大きいと感じた。

舌と喉が興奮するような旨みを体験したことはない。食の楽しみを味わえるのも悪くはないなんて不覚にも思った。食えれば良いじゃんという経験が少し否定される旨さ。


「もう一杯良いか?」

「僕も、ライラ!」


コップをライラに差し出す春藍とアレク。それにライラは少し渋い顔をして


「継ぎ足すけど、1Lにつき200円よ。働けって事よ?」

「構わないですよ!200円なんて10分働くだけじゃないですか!」


ネセリアは喜々として言ったため、渋々ライラはまた牛乳を取りに行く。しまった、春藍に行かせればよかったと思ったのは、牛乳を買ってからの事。




畑では食べ物を作る手伝いをした。そして、これから向かうところは牧場の中にある、牛牧場だった。

先ほど飲んだ牛乳が造られるところに向かう。畑からやや遠いので馬での移動だ。四頭借りていざ向かう。


「アレクー。急ぎなさいよ!」

「待てお前達!なぜそんなに速く、使いこなせている!この!言う事を聞け!!馬が!」

「アレクさん……」


ライラは自分のいた世界では馬にも乗っていたため、みんなの手本となるような馬の扱い方を見せてやる。ネセリアと春藍の乗馬の仕方は明らかに感覚でやっており、知識がまだ全然足りない。特にネセリアは馬を飛ばしすぎである。でも一番の問題は、馬に嫌われているアレクだろう。タバコ臭のせいだろうか?それともアレクが馬に嫌われているのが問題なのだろうか?


「クソ!言葉が通じれば容易いのにな!!」


畑仕事よりもアレクがイラついて見えた春藍。

言葉を交わせないのなら黙っていたり、物であって欲しいのだろう。

無能とは言わないが、言う事が理解できていない輩を上手に扱うのは非常に大変でストレスの溜まることだ。

馬は大きく重いアレクを乗せたくないような表情を出している。それに加え、手綱の使い方が雑なため振り落とそうとしながら前に進んでいた。とても危ない。ネセリアや春藍にぶつかってもおかしくない暴れ方である。


「アレク!やっぱりあんたはネセリアか春藍の馬に乗って大人しくしなさい!」

「待て!悔しいだろう!若いのに」

「つべこべ言わない!下手くそ!」


事実だけど酷い!

アレクさんがかなり落ち込んで渋々馬から降りる光景は、滅多に見られないと春藍とネセリアは思ってみた。アレクが降りた馬はライラが引っ張り、アレクは春藍の馬に乗っかった。とても悔しい声で


「春藍、あとで俺に教えろ」

「は、はい!」


やっぱりアレクさん。


「できないままでは終われないんですね」

「当然だ。色んな異世界を回るとなれば馬に乗る機会は多いだろう」


もし、車がある世界に行ったらライラに仕返ししてやらぁって、小声で言ったのは春藍の気のせいだと思う。そうだと思う。2人乗りになった分、春藍の馬は少しキツイ様子を見せた。ペースを少し落とさなければならない。


「もうちょっと我慢してね」


馬を軽く撫でて伝える春藍。そして、再び走り出す一向。ネセリアが先頭となって牧場へと向かっていき、少し見えただけで。


「よーし!一着はもらっちゃーう!」


疲弊している馬の事なんか気にせず、飛ばすように馬を操作するネセリア。ちょっと鬼だと思って見ているライラ。相当馬は疲れている。


「まったく、ネセリアは」


ピューッと行ってしまってすぐに辿り着くネセリア。しかし、ライラと春藍はゆっくりと進むため、牧場前で5分ほど休む事になってしまったネセリア。春藍達が到着したら



「遅いよー!早く早く!」

「こっちは馬二頭と、下手くそ乗せているんだから」

「下手くそって。この」

「事実かと思いますよ、アレクさん」

「くそぅ」



ともかく、今度の仕事場所にたどり着いた四人。ドアを開けて中に入り、牧場で働く人達に挨拶をする。ここでは牛の乳搾りを行ない、牛乳を製造するのである。

牛小屋に入り、牛乳を生産するための牛達と対面した春藍達。とくにアレクは訊いた。


「牛は俺に対して平気だよな?」

「ど、どうでしょうか?」

「ちゃんとやれば平気よ」


動物に嫌われても良いとは思うが、仕事上。ムカついたり遅れなどが出る場合。克服せにゃならん。苦手があって職人になれるわけがない。しっかりと勉強をする目つきになっていた。っていうか、部下には負けられない。

四人にそれぞれ牛がつき、レクチャーしてくれるおっさん。しっかりとメモを取る三人。ライラは自分の世界で経験済みなため、復習する程度であった。人にちゃんとやり方を教わり、体験してからもう1人で仕事ができるように判断される。


「よーし、やるぞー」


春藍、アレク、ネセリアの初めての牛の乳絞り。畑より三人が楽しそうなのはここが室内で意外と涼しいからか?さすがインドアな世界からやってきただけある。

まだやり始めただけであるが、


「んっ、んんっ」


シャーーーーッ


意外とこれがみんなできた。蹴られるのではないかと、春藍は思っていたが教えた通りにやればちゃんと牛はミルクを出してくれた。

とても楽しく分かりやすい作業で楽しめたのだが。


「ちょっとこれって、生産性が悪いんじゃ?」

「牛一頭に対して、1人で生産するなんてね」


10分くらいやって春藍達は少し思った事を口にすると、おじさんが少し困った笑いを見せながら教えてくれた。


「いやー。今時手作業でやるのは稀なんだよ。でも、今はしなきゃならくなっちゃったんだ。専用の"科学"が壊れちゃってね……」

「え?」

「なんだと?」

「本当ですか?」


その言葉に目の色が変わり出す三人。しかし、おじさんは


「異世界から送られてくる"科学"を直せないもんかねって……。ちょっとしたお願いもあってここに来てもらったんだよ。"管理人"様はとても忙しいし、修理料金を払えるほど余裕もなくてね」



答えた瞬間。牛もビックリして飛び上がるほど、目の色を変えておじさんに詰め寄る三人。ライラは呆れてしまうが、まぁ良いかと思った。そして三人は


「ぜひ、俺達に直させてくれ!」

「任せてください!」


むしろそれをさせてくれと伝える目を見せ、おっさんに襲い掛かる春藍達。


「どれですか!タダで修理します!」

「あ、ああ。こっちだよ」


おっさんは驚きながらも、牛の乳を搾る科学のある倉庫を三人に見せた。とても大きな物であり、三人はすぐにチェックをする。破損箇所はどうやらパイプのようだ。……というか……。


「こ、これは。"フォーワールド"で作った物じゃないでしょうか!?」

「確かにこれは"フォーワールド"で作った物を証明してくれるロゴが貼り付けてあるな」

「私この"科学"の製作に取り組みましたよ。"掃除媒体"を参考に吸引部分が作られているはずです」

「また鍛冶屋と同じ予感」


頭を抱えて見守るライラ。科学に触れ、壊れていると分かった瞬間。三人の魂が燃え上がって、修理および改良を始める。

服装が農作業用になったとしても、道具は手放していない三人。農作業とは比べ物にならないほど機械的な行動と会話をとりながら連携している。しかも楽しそう。



「ネセリアは吸引部分の改良!春藍は乳搾りが行える数と及び効率を上げる事に着手!俺は操作性をより簡素にし、耐久性をあげる!」

「素材はどうします!」

「"創意工夫"で作り出してよ!」


1時間乳搾りのはずが、50分もの間。乳搾りの科学を修理する事となった三人。一番困っているのは、何もする事がなくただ呆然として見ているだけのライラ。何もしないってホントに辛い。何か手伝える事はないかと尋ねたいが。三人揃って"邪魔"とか言いそうな雰囲気だった。


「あー、この三人。ホントに大変」


だけれど、この三人なら。どんな科学も操ってしまいそうな気がする。それだけは収穫と思う。

1時間が経ってついに修理が完了。牛達に取り付けてすぐに起動するおじさん達。



ドルゥドルゥゥゥン


「おおぉっ!ホントに直っている!いや、パワーは前よりも上がっている!!」

「いやー!気合を入れました!」

「俺達の"科学"が活躍しているところを見ると嬉しいな」

「やっぱり科学が一番ですぅ!」


4人が大喜びするが、ライラは取り残されたように、やっと終わりやがったかこのヤローという顔を出した。ここからまた別の仕事になるのだが、思った以上にお金をもらってしまってもう宿も食事も十分行けそうな額になったが。


「まだ陽は落ちていないですし、働きません?楽しそうな事が多いかもしれません」

「僕も、時間があるなら、世界を楽しみたい」


春藍とネセリアの無駄な働く意識にしょうがなく付き合うライラ。その世界で働く事して何が良いのやら分からないけれど、楽しんでいるなら楽しませてあげたかった。


「いいわよ」


けれど、次の場所はちょっと。刺激が強すぎるようなところだ。ここと同じ施設にある部屋に行く。地下にある部屋だ。

四人がそこに辿り着くととても変な匂いがした。


「血、血の匂い?」

「なんなんでしょうか、この部屋は」


引きつった声になる春藍とネセリア。無理もない。

お金になるので引き受けた仕事だが、楽しさとは明らかに無縁過ぎる仕事場。ライラが一番に入って春藍達に教えた。


「次の仕事は牛の解体作業よ」

「牛の……」

「解体作業……?」

「だろうとは思ったが」


牛の乳を搾り、時には牛の肉団子を食べていたが。

そんな平和的な光景とはかけ離れた場所。残酷な絵図だが必要な所為。想像できない事が二つ、予想より超える難題と見たくはない現実は……想像できないだろう。

アレクはタバコを一本吸ってから。


「2人は無理すんな。ここで休んでても良いぞ。行こうぜ、ライラ」

「ええ」


牛の解体作業部屋と入っていった。その後すぐに


「ぼ、僕も行きますよ!」

「私も。働きます!」


勢いのような形でその部屋に入っていく春藍とネセリア。とても怖いような表情を出しながらも、勇気とは違う方法で中へと入った。

そこにいたのは恐怖で怯えて泣いている牛達、解体の仕事をする二人の男性の他に


「うっ……」

「!」


考えたくはない。それと



「嫌な感じだな。これは俺と春藍が作った屠殺とさつする科学じゃねぇか。楽に綺麗にぶっ殺せる物だ。血も付いている」



アレクはなんでもないように、大きなショットガンの形をする自分達の"科学"を触れていた。

牛の汚れを拭いて少しは綺麗にしてやった。春藍とネセリアは少し、顔を現実から背けていた。確かにこれの製作に関わった。

ただ、資料が渡されて作っただけ。危険な物だとは知っていた。事故で死んだ人もいたからだ。作ったが、どのように使われているのかその先をまったく知らなかった春藍。



「こ、これってこんな風に使うんですね、アレクさん」

「そーゆう事が多いんだよ。春藍、しゃーねぇよ」


この科学の向こう側には防弾ガラスを挟んで、弾を避けられないように一頭一頭にバリケードが張られ、恐怖に泣いている牛達。一頭一頭、こいつで綺麗に殺していく。


「やるわけないよな?」

「あ、アレクさんはやるんですか?」

「これも仕事なんだぞ。俺達が旨いって言ってた、牛肉を用意するための仕事だ」


アレクは仕事と割り切って。春藍とネセリアの声が届くよりも早く。躊躇もなく。



ドガアアァァンッ


牛を一頭。屠殺した。それは紛れもなく設定通りの、牛になってくれる殺し方。牛が一頭、死ぬ光景を見せ付けられた春藍とネセリア。とても怖かったが、目を離さなかった。それどころか、


「ぼ、僕はやってみます」

「春藍、無理はするな」

「いえ…………僕にはそれを試す理由があります。性能を確認しないと…………」


無理矢理の理由であることは自分でも分かっている。

こんなのは望んじゃいない。だが、自分が作ったという罪を感じて。作った物をちゃんと活かせるかどうか。

しょうがないじゃんって。使う前に呟いて。



ドガアアァンッッ



春藍は牛を一頭。殺した…………。

まさか、自分がこの引き金を引くことになるとは思わなかった。

ホントにしょうがないこと。これは牛を綺麗に殺すための科学なのだ。科学としての役割を全うしなければならない。製造した物はちゃんと使って欲しい。

そう願いを込めて作った科学だから。しなきゃ……ね。使命か(笑)と思うかもしれないけど、人間と違って物にはちゃんと役割がある。

消しゴムは鉛筆で書いた字を消すという役目を持っているように、そう使わなくてどうする?



「も、もう一頭…………」

「もういいのよ。牛を解体するのは大変なんだから、四頭も殺す必要はないのよ」



ライラが、震えている春藍の身体を優しく叩いてあげた。




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