ブライアント・ワークスの新入り
「デュフフフフフ」
「きめぇよ。だいたいなんでいつもメイドカフェで会議なんだよ!?」
"萌える美術館"キバアハラに2人の男がやってきた。お店のメイドさん達は常連さんよ、常連さん。っと連呼している。ヒソヒソ話が盛んであった。
「デュフ」
敬礼するようなポーズで笑いを一つ、メイドに送るケチェリ。汗だくの額、綺麗な眼鏡、ヌメヌメの指先、ダルンダルンした脂肪満点のお腹が揺れていれば
「ひぃぃっ」
「ちょ、ウィンクしてきた…………」
「うぅっ」
「おぇっ、気持ち悪っ」
いかに接客業やアイドル業が苦痛か分かることだろう。それでも笑顔を見せたり、誠意を見せなければいけないなんて社会はどこかおかしい。なぜ、キモイ生物が存在するのだろうか?なぜ、俺はキモイ生物として生きなきゃいけないのか、神様というのはやはり万物ではないな。
「思いっきりキモがられてるじゃねぇか、止めろケチェリ!」
「メイド服を着た者はどんなことにも奉仕せねばならんのだよ。というわけで、この"熱々に愛情込められたケチャップクマさんオムライス"を"出来立てクマさん生まれちゃいました"コースで頼むでごわす」
「馬鹿なの?ここのオーナーって馬鹿なの?なんだそのメニュー名!?ただのオムライスでいいじゃん!」
「それを二つ頼むのだ」
「え、俺もそれ食うの!?」
鋭くまともなツッコミをこなす大塚。中学生という年齢であり、職業でもあるわけだが……ブライアント・ワークスでは際立ってまともであり、容姿も人気がある。(ここのメイドからしたら)
しかし、やはり中学生といったところ。毛の生え方も、体の出来具合に至っても、社会の重みの知らなさも子供であった。
「大塚ぁぁ~。大人って奴は馬鹿なんだよ。だからお前は中学生なんだよぉぉ。大人って子供より馬鹿だからな、馬鹿をやって白い飯食ってるんだよ!馬鹿をやるから馬鹿が生きられるんだよぉぉ。そうじゃなかったら、計算しかできない連中だけが残って数学の証明を永遠にやっている世界だろぉぉっ?違うかぁ?」
「俺は数学の証明は好きだし、得意だぞ」
「得意か不得意かどうかは人生観に必要ねぇっっ!大切なのは、俺の命が……何を求めているか!そうだろう、JK!」
「……………女子高生?メイドカフェ来て、女子高生の注文?」
「女子高生サイコー!……女子高生じゃねぇだろ、JK=常識に考えてだろ!そこは!女子高生もたまんねぇーすが、メイドこそ至高なんでごわーす!」
あーだーこーだ話し合っている二人。
ダネッサから待機を命じられており、暇をしていた。
以前ならばナルアとヘット・グールが近くでイチャラブをしていたわけであるが、もう二人はいなかった。
「お、お待たせ致しました~~」
とてもビクついた声を出しながらメイドはオムライスを二つ持ってきた。大塚には優しく、ケチェリには腕を震えさせて置いた。ケチェリの注文である、"出来立てクマさん生まれちゃいました"コースにするためにケチャップを取り出し、彼の前で頑張って
「え、え、えと…………」
震えながらケチャップでクマの似顔絵を作り出すメイド。真剣のようで、超ケチェリに恐怖していた。
「ちょっとおぉぉぉっ!」
「ひいぃっ!」
「そこは魔法の呪文を言いながら作ってくれよぉぉ!萌えが足りないじゃないか!」
な、なんなのよこのお客は。いつもいつも汗だくで気持ち悪いし…………。
怯えるメイドに躊躇なく、ケチェリは彼女の右腕を掴んで頬ずりまでしてしまう。超違反プレイ。メイドはヌメヌメしていて気持ち悪いという結果を、表情だけでは耐えられなかった。
「罰として俺と一緒にクマさん作るんご!」
「いやああぁぁっ!止めてください!離して!」
バヂイィッ
炸裂した平手打ち。その衝撃でケチェリのオムライスは床へとこぼれた。メイドは泣き出して厨房へと走っていった。
「なんたる萌え!ナイスツン!ここからデレも期待するんご!」
「デレは絶対起きねぇよ。キモッが100%占めてただろ!いい加減に止めろ!」
ぶたれたというのにむしろ喜んでいるケチェリ。鼻息を荒くしてガンガン注文を頼もうと、ベルを何回も押していた。迷惑なお客様である。
店側もケチェリの行動にはいい加減困っていたのだ。そんな中、1人のメイドがケチェリの方へ歩いて来た。
カツカツ…………
「ん?」
「むほぉ」
そのメイドの姿はこの店の物ではなかった。灰色のメイド服を纏まった可憐な美女がケチェリと大塚の前までやってきた。
「…………あなた方が、ケチェリ・リーヴァー様と大塚様で宜しいでしょうか?」
「むほぉーーー!そうだおぉー!」
「!……あんたもしかして…………」
ケチェリは現れた彼女の腕を握ろうとたるみきった肉を揺らして抱きつこうとするが、
「汚い寄るな」
ドゴオオオォォッッ
先ほどのメイドとは打って変わって本気の拳がケチェリに放たれた。柔らかい肉とは違い、完全な鋼鉄の拳がケチェリの顔面を叩き、店を破壊するほどケチェリをどこかへ吹っ飛ばした。ケチェリのサイズに合う壁の穴が生まれ、大塚は
「ケチェリだからたぶん大丈夫だが…………」
「…………布巾はありますでしょうか?」
「ああ。これどうぞ」
「ありがとうございます」
入念に彼女はケチェリに触れた右手を布巾で拭いた。その間に大塚は尋ねた。
「あんたがナルア達の代わりに来た新入りか」
「はい、そうです。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。これからよろしくお願いいたします、大塚様」
この日、ブライアント・ワークスに謎の新入りが加入した。




