ダネッサの陽動と30秒クッキング
予想外の強敵の出現。アルルエラ、そして、春藍慶介の出現はダネッサからしたらまったくの計算外。
「ちっ…………」
体がさすがに持たない。
ズポォッ
「助かったぜ、春藍」
「間に合って良かったよ、ロイ」
「ここはもう俺に任せろ。お前……アルルエラを治療しろ」
「謡歌から聞いているよ。そっちは大丈夫。それより、あいつを倒さないとまともな治療はできない」
頭と胴体が離れているアルルエラの生存に自信があるのか、それとも諦めろって言っているのか……。ロイにはわかんねぇが、いつになく頼りになった。
「1分で奴を止めよう。それからでもアルルエラさんは救える」
「馬鹿野郎、春藍」
「?」
「30秒もかけねぇ、俺達なら造作もねぇ」
「………そうだね。ロイ」
ロイの傷も酷い。春藍はその部分を認識していなかった。少しだけ、まだ差があることを知る。それでも良い。まだ自分が未熟だと分かれば学べる。
ロイは春藍の機動力のなさを見て、ダネッサの逃げ道を塞ぐようにダネッサの後ろに周りこんだ。挟み撃ちをされるとダネッサはやり辛い。
「くっ……………」
春藍は"創意工夫"を填めた両手を床につける。彼の心と肉体も成長したが、"創意工夫"もまた何度も改造されており、ライラの資源集めの余り物を用いたことによって大幅に強化されている。自分の創造力の再現度、再現速度はのび、防御と修復に抜きん出た"科学"は攻撃も行えるようになっていた。
「造形製造・軍隊」
春藍の"創意工夫"はこのフォーワールドでは抜群の効果を発揮する。科学の世界だからか春藍の力によく反応し、住宅タワーの床を瞬時に改造し、春藍の周囲に人を殺すためにある武具が造られる。銃、剣、弓矢、ボウガン、モーニングスター、フレイル、ハンマー、バット、十手などなど……。ライラの歴史本を参考に色んな異世界で使われている武具を知り、その扱いも確認、そして完全に創造し、製作及び可動までキッチリできている。しかし、ハンマーなどの鈍器による武器の攻撃はなぜか投げ攻撃になっている。まだイマイチ、攻撃の組み合わせができていないからだと思われる。
知識を得ることで春藍は応用力を増す。これはライラの"ピサロ"やロイの"紫電一閃"にはできない、科学特有の利点。
「いけ!!」
春藍の合図を気に、作られた武具はダネッサに襲い掛かった。室内では逃げる術がないほどの数であり、ダネッサがそれらに槍で向かい合ったのは必然。
バギイイィッッ
「ノロいぞ!」
量あれど、全ての武器の攻撃は並の"超人"以下。身体能力に優れるダネッサが喰らう攻撃ではない。しかし、春藍のそれはただのひきつけに過ぎない。
ダネッサの背後からロイが迫っていく。無論、ダネッサも警戒している。
「ガキはただの援護!!本命がテメェなのは分かってる!!」
「へ」
ダネッサの視界、360度が敵や障害物になろうとも彼は戦い続ける。ダメージが残っているロイとはいえ、彼の拳にも対応して隙を見せない。前後左右からでは"超人"レベルに値する槍捌きに止められる。
ロイは余裕を残し、春藍の方に視線を送った。それに春藍も頷いた。確認後、すぐに後ろに飛んでダネッサから距離を置く。
「!」
ダネッサ、数手遅れた。
春藍の攻撃からロイが間合いに入り、ロイが春藍のために時間を稼いだこと。
「造形製造・接合」
真正面でのやり取りでは隙がない。だから、真下と真上からの挟撃を選んだ春藍。罠のように効果が現れるまで時間がかかるが、罠に掛かった者がいれば通常の製造時間よりも早く効果が現れる。
ガジャアアァァンッッ
「うぐおおぉっ!!?」
ドスゥッ
ダネッサの周囲に値する天井と床が勢いよく接合しようと、強く、早く、ダネッサを押し潰す。身動きすらとらせず、その隙間から春藍はボウガンを手にとってダネッサの腹へ撃ち込んだ。攻撃に対する迷いは一切なく、2人掛かりとはいえその強さは大きな成長を示す。
「くっ…………こ、このガキ……」
「僕は……変われたよ」
春藍にとってはダネッサが最初の倒すべきと抱ける敵となった。
「あなたのおかげで自分の強さに自信が持てた」
興奮はしない。むしろ悲観的な表情をみせている。これしかないことを知っている。そして、守れなかった命もあることを知れた。
「ロイ。僕はアルルエラさんの治療をする。あとは頼むよ。(たぶん、大丈夫だと思うけど)」
「おう。終わったらこっちも頼むぜ」
春藍はアルルエラを捜しに行こうとする。しかし、彼女を持ってきたのは自分の妹、謡歌であった。重そうでグロイ姿となっている彼女の体と頭を台車に乗せての登場。
「お、お兄ちゃん……」
「謡歌……運んできてくれたのか。……これはちょっと酷いな」
「た、助かるの?ホントに……助かるの?」
「大丈夫」
春藍は"創意工夫"でアルルエラに触れながら彼女の傷口を防ぎ、黴菌を除いていく。
「アルルエラさん。……アルルエラさん。……アルルエラさん」
まるで死者に声を掛けているような声で呼ぶ春藍。死んじゃっていると悲観している謡歌の表情であった。
「…………うっ………」
「アルルエラさん」
「ううっ………」
「い、意識が戻った!!?い、い、今、アルルエラさんから声が……………」
頭と首が離れているアルルエラに意識が戻るという奇跡。しかし、それは春藍の力ではない。
「"超人"の人達は生命力がとても強いんだ。僕達では死んでしまうダメージでも、命を繋げたり命を守ろうと力を発揮できる。……アルルエラさんの生命力があるから、まだ生きていられる。だけど、ちゃんと修復しないと死んじゃうよ」
「そ、そうなんだ………」
「謡歌、悪いんだけど何でも良いから金属を持ってきてくれないかな?」
謡歌。おそらく初めてのお兄ちゃんに頼られる。わりとブラコンな彼女にはとても甘いご褒美であった。何でも言ってどうぞっという顔をして了承する。
「分かったよ!お兄ちゃん!」
「!」
謡歌が駆け足で向かう途中、ダネッサが持っている槍を床に落とした。"科学"使いにとってそれがどれだけ致命的かは春藍がよく知っている。刀身が自分と謡歌に向いていることを察知した春藍。次の瞬間、
「ナミノレ!」
ダネッサは槍に命令し、一気に伸ばしながら謡歌を狙っていた。ロイはそれに気付きながら、春藍がダネッサを抑えるために床と天井を閉じようとしていたため、向かう事はできなかった。それでも、春藍は対応できて再び床に"創意工夫"を当てる。
「造形製造・要塞」
完全に春藍とダネッサの距離を突き放すため、強力な壁その物を製造して槍を通さない。壁すら軽々と突破する槍でも、ダネッサの手から離れたら力が弱い。一方で春藍は一度造った壁をさらに補強する。自分も謡歌も、ダネッサの攻撃から守る。
「くっ…………」
「僕じゃなく、謡歌を狙うなんて……ズルいですよ」
ダネッサのやれることは完全に春藍に封殺された。そして、…………
「あ、ありがとう!お兄ちゃん!!守ってくれるなんて嬉しい!!」
謡歌、兄に守られるということを知り、自分が大切にされていると再認識ってかなり表情を良くしていた。しかし、春藍にとってはそれが普通だと思うし、守らなかったら謡歌が死んでしまうからという。善良な考えであるためそれ以上はない。
「う、嬉しいなぁ……………」
やっぱり、ライラさんよりあたしが守られるべきじゃないか?妹だし、歳もあるし…………。お兄ちゃん、知らない間に結構強くてカッコイイ人になっている。可愛いところが好きだったけど、意外一面も分かって好きになった。
「は、早くとってこなきゃー。アルルエラさんを救わないとねー」
………………。
わりとダメな面も伺える謡歌であった……。それはちゃんと春藍にも他の人達にも内緒であった。兄が好きだなんて普通は良くないことは分かる。好きという限度を超えていることは秘密である。
………………。
「あぶねぇーな。往生際が悪いぜ」
「く…………」
なんとか春藍に窮地を救ってもらった。ロイはアルルエラの回復を待ちながらダネッサに尋ねる。
「とにかくお前。ここに何しに来た!?」
「へ…………言うとでも思うか!?」
「住民達を殺しに来ただけだったらぶっ飛ばすぞ」
「ちげぇーよ!!俺は陽動の役目だから、派手に暴れてたんだよ!!殺したのはついでだ!!………あ、しまった!!」
「普通に言ってんじゃねぇか!!バーカお前、バーカ!!で、なんの陽動だ!!」
「そ、そこまで言う俺じゃねぇ!!」
ダネッサはうっかり目的を言いかけたが、これ以上は何も言わないように口をしっかりと閉じた。ロイはライラ達から奴等の目的を聞いているため、ダネッサに遠回しで無理だと伝えた。
「何しに来たか、もう聞かないがよ。お前等にどんな強い奴がいてもな。お前等じゃ絶対に勝てない奴がまだいるんだぜ」
「……なんだと?」
ロイがしっかりとダネッサを見張れるのも、アレクが別行動で守っているからである。春藍もライラもアレクには絶対の信頼をしているため、彼に任せている。
 




