ハーネットの資料を巡る攻防②
管理人が集う、エクスピーソーシャル。
「ヒタスを倒せる者がいるだけで驚きです」
「それよりも蒲生様の後任はまだなんですか……あの人がもうこの世からいなくなったとなると悲しいです、新橋」
蒲生の死をメインに捉えているが、…………。本題はそこよりも、ハーネットを狙っているとされるブライアント・ワークスという組織の調査。及び、ハーネットの資料の処遇。
「誰が倒されたって!!!?このヒタス様が、……!!げほぉっ……げぉっ……」
「無理しないでくださいよー。あなたがやられた事に私達、結構驚いているんです」
この会議の集まりは010~020の管理人達。
ポセイドンや桂にも、緊急に対策を練るように伝言をもらった。グルメーダ・ロンツェを中心に調査、及び討伐チームを作る必要があり、全員に召集が掛かった。
「はいはーーい!このハイデルモットちゃん、質問がありまーす!」
「なんですか。そして、どうぞ」
その対策の話が始まるよりも先に不満を持っているハイデルモットがグルメに質問をする。
「いくら龍の弟子だからって、調子のんじゃねぇーよ!」
「ギャルの言葉は汚くて嫌いですねー」
「なんで人間があたし達、管理人に指図すんだよ。馬鹿が移る!引っ込んでろ!」
「やれやれ…………参りますね」
まだ信用や信頼がないグルメはやや困った顔をするが……。とりあえず、簡単なアピールをする。とても簡単に誰にでも見られるように魔力を放出する。
「私の魔力の総量はあなた方を潰せる程度にはあります」
「!!」
「番号に興味はありませんが。それだけに相応しい器量と実力があってのことです。ハイデルモットさん。私はね、ここにいる管理人達を殺すことくらいできる」
"魔術"の使い手はグルメとクロネアしかいないが、魔力の量がどれだけあるか、ハイデルモットもヒタスも、その他の管理人達も目の当たりにした。
「くっ…………」
「人間とは思えぬ、恐るべき魔力の総量の持ち主だな」
管理人達は多くの人間達を見て来た。グルメの魔力の総量は見て来た人間達の中でも上位に食い込むことは簡単に分かった。豪語することだけあって、並の管理人よりも上であった。
ベィスボゥラーと同じレベルの魔力の総量。それに加え、回復力があるとしたら、やはり管理人になるべき実力はすでに持っているのが分かる。
「いかがですか?これでも信頼って得られません?どうです、ハイデルモットさん」
「……ちっ…………それなりの器量があるのは認めるけど、あたしはあんたを管理人にするなんて認めないからね。この人間!!」
「それでも結構です。他の方々は納得してくれますよね?」
グルメの振りにほとんどの管理人が頷いた。
「実力は龍管理人のお墨付きなら分かります」
「そうですね」
その反応にグルメはホッとした。口には出せないが、とても息苦しい気持ちになっていたのだ。
「はー…………」
危ねぇーーー。私はなんて危ない挑発をしているんだーーー!!何、今の私!!超、死ぬかと思った!!何がここにいる管理人達を殺せるだーー!!無理に決まってるだろ!!ぶっちゃけハイデルモットより弱いし、この中どころ管理人最弱だーーー!!!
魔力の総量が凄いからって何!?だからなんなんだ!!?私の魔術、"ライブラリー・マインズ"は管理人としての業務能力に優れているだけで戦闘においてはまったく役に立ちそうにない!!ステータスがいくら高いからって、使える能力がしょぼかったらゴミじゃんけ、ボケがああぁぁっ!!
「?どうしました、グルメーダさん」
「いえいえ、では会議を行ないましょう」
心がとても情緒不安定を現しながらも精神は非常に落ち着き、表情もキッチリとしまっている。誰もグルメがこんなアホみたいなことを思っているとは思えないだろう。
「それではブライアント・ワークスやハーネットの資料の処遇。これらについて話し合いましょう」
管理人達には色々な事件、仕事の判断基準を設けている。
「箇条その38.管理人の機密事項を知りえたこと。箇条その21.異世界への不法移動。箇条その11.管理人への傷害…………」
グルメはブライアント・ワークスの違反条項をゆっくりとみんなに伝えていく。
「全8項目。私、グルメーダによる判断で採点致しました。8項目、26点。(項目ごとに点数が違う)ただちに捕縛。万が一抵抗がある場合、殺害しても構わない。以上の処置となっております」
ガイドブックを丸暗記しているグルメに対し、このような裁判のような業務を初めてやるハイデルモットやノーリ・ディアはガイドブックを読みながら頑張ってついていっている。
「私から処置についてはほぼ問題はないと判断します」
一方で、このような業務もこなしていたカミューラがグルメなどに対して進言する。
「組織であるため、現状確認されている4名(ナルアとヘット・グールの死亡は知っている)は全てこの処置に収めましょう。ただ人間が作り出している組織となれば何かあるともとれます、もう一点として事情聴取、及び、彼等の行動の原因究明なども盛り込むべきでしょう」
「そうですね。再発防止として、学ぶことも重要でしょう」
11人の幹部達が話し合う中。クロネアがとある疑問をグルメにした。
「一つ、質問をして宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
「我々が彼等の討伐に参加するのは納得いきますが、龍管理人や桂さんなどは協力を仰げなかったのですか?ハッキリ言って、新しく構成された管理人達の多くは非戦闘員です」
桂やポセイドンの指示というのも分かるが、数で上回っていても戦闘力が高いといえばヒタスと怨北王子、ノーリぐらい。11人が一斉にかかって勝てるとしたら、フルメガン・ノイドぐらいまでといったところ。戦闘における戦力に関しては、前の11人の方が圧倒的に強かった。
グルメはクロネアの質問にしばし考え、鉛筆回しを4回ほど回してから答えた。
「あーっとですね…………あんまり大事にしないでくださいよ?」
「?」
グルメは彼等が使用しているとされる"科学"がどんなものか、龍から聞いている。とはいえ、黒い仮面の博士がブライアント・ワークスなのかどうかはまだ不明。憶測でしかないが、脅威とは感じている。
「師匠…………いえ、龍管理人がその1人とどうやら対峙したようですが…………。あの方が、"ラ・ゾーラ"を発動してなお、負けたという事実は根本的に驚きがあり。龍管理人曰く、対峙した彼は龍管理人を倒すための科学を所有していた……との事です」
ポンポンっと机を叩き、今一度それを押す。
「万が一、ブライアント・ワークスがベィスボゥラー管理人より上の方々に対抗できる科学を所有していた場合、あの方々を戦場に出すのは危険であると私やポセイドン様、桂さん、龍管理人が判断なさいました」
「……確かにのぅ……グルメ達の考えにも一理ある」
「私達はまだ構成されたばかり。対策はないと言えるでしょう」
「でもさー。ヒタスって、真向勝負して負けたんでしょ?ダサくない?かませ犬?」
「うっせーぞ!!このギャル!!ヒタス様がぶっ殺すぞ!!」
「やってみなさいよー、バーーカッ!!」
「はいはい!そこまでになさい!!!」
グルメが一喝してヒタスもハイデルモットも黙らせる。
「ともかく、我々だけでブライアント・ワークスを捕縛、殺害を実行します」
グルメの言葉の真意を見抜いているのはなんとクロネアだけだった。グルメが口を閉ざしていた理由も分かったため、彼は発言しなかった。
対策をされている……ということは、パイスー達のような人間達で組み上げられている組織ではないことである。
クロネアは何かが裏にあることを理解していた。そのため、グルメ達にも内緒で一つの策を講じようとしていた。ある程度の何かはグルメやカミューラ、怨北王子なども薄々は気付いているが、その奥までは読みきれなかった。
キュポンッ…………
クロネアが想像している裏にいる人物。
少し苛立ちを覚えているが、大好きな赤ワインをグラスに注いで休息をとっていた。隣に自分の部下である1人を置いていた。彼に一つ、言葉を掛ける。
「貴様、服くらい着ろ」
「"お主様"、ここは深海の世界でっせ。水着が私服」
当然であるが、ダネッサとは知り合いではなく部下でもある。彼の能力は高く買っている。
「我はしばらくハーネットの資料を元に作業に当たろうと思う。半分のハーネットの資料を必ず手に入れる」
「へーい。……って、言いますけど。俺はどこに行けばいい?」
すでにマーティ・クロヴェルは消滅。その周辺の異世界も処分されることとなっていた。
「フォーワールドに決まっている。お主等も、桂ですらも、手に入れてないとすれば奴等が握っている可能性が高い。ハーネットが二つに割って、双方を失う事態にするとは考えられん」
「…………とにかく行きますぜ。でー。全員、今度はぶっ殺していいのかよ?春藍とかいう、ハーネットの皮を被った人間も」
「構わん。あれにはもうハーネットが現れるとは思えん」
ポセイドン、ダネッサをフォーワールドに派遣させる。
あと少しだけ遅ければ未来がまた違った事になっていただろう。




