ハーネットの資料を巡る攻防①
「まだハーネットを殺すな!!」
『?なんだと?』
「やってくれおったわ…………小細工をしおって……」
ポセイドンは黒い龍の仮面の博士に連絡を入れていた。欲しかったハーネットの資料を手に入れたのはたったの半分であったことに気付いた。
「まだ、研究資料は残っている!!急いで聞き出せ!!」
『…………落ち着いて聞け』
「!」
『ハーネットはもう眠らせた。もう目覚めない』
「!!ぐっ……この役立たずが!!」
『そうか。だが、半分あれば研究の下準備はできるだろう?それくらい、頭を回せ』
「舐めるな小僧!!」
ピィッ
「………………ふん」
春藍とライラを置いて、黒い仮面の博士も去る………。彼はライラのところにその資料があることを知りながらも見逃していた。
彼とポセイドンの関係はどうやら複雑なようである。
ハーネットを巡る戦いはこれにて閉幕した。
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その出来事から10日は過ぎようとしていた。
「本当にもう大丈夫なのね…………」
「うん!大丈夫。なんだか、変な気分になっていたけど。僕はもう大丈夫」
春藍はフォーワールドに帰還後、ベッドで4日ほど安静していた。本人も、医者からも、大丈夫のサインが出て体を伸ばして歩いてみせる。
「まったく心配していたぞ」
「お前はちゃんと守ってやれよ。謎の海パン野郎や管理人やら、とんでもなかったんだぞ!」
「その話を何回俺にする気だ、ロイ。仕方ないだろ」
「ホントにテメェは薄情だな」
ロイだけじゃなく、アレクも研究の間の休憩時に春藍のところへよく訪れた。
「アレクさん……ご心配をおかけしました」
「ああ。俺もお前の傍にいられなくて悪かった…………」
とても久しぶりに4人が揃ったような気がした。
ライラは春藍に戻ったことに嬉しいことを感じた。だが、もう春藍にはハーネットの事をよく思い出せなくなっていた。記憶などが非常に曖昧で、自分がハーネットから譲られた研究資料を見させても、なんとも言えない表情を出していた。
春藍が無事なだけで嬉しいが、ハーネットもまた結局どこに行ってしまったのか………。
「ライラ?」
「!あ、ははは、ごめんね。久しぶりにみんなで研究所に行かない?」
「うん!!」
今、研究所では"SDQ"の研究はもちろん、ハーネットの資料の解読を進めている。彼が残した資料には、問題を解決するものが隠れているとライラは思っているからだ。
アレクを中心にその資料を見ているわけだが…………。この後半部分は"SDQ"の文面は一つもない。何かの装置を作り出す設計図に近いようだ。
どんな装置かはアレクにも、春藍にも、他の科学者達にも見てもらったが、理解はできなかった模様。
「これがハーネットの資料なんだよね」
「何度も見てるでしょ、春藍」
「うん……………。うーん…………色々足りないような……」
春藍はよくハーネットの資料を眺めている。眺めながら記憶を辿っているのか、……。もしそうだとしたら、早く思い出して欲しい。ハーネットが自分達に伝えたかったことを教えて欲しい。
「……やっぱり分からないな………」
「そう。……でも、無理はしなくていいわ。まだ復帰したばかりなんだし」
「おそらく科学の何かだとは思うが、この時代では到底作れない代物なのだろうな」
「アレクさんもそう思っていたんですか。……僕もです。見た事も聞いた事もない資源や作業工程、色々な技術、それにこれ、文字もところどころ違っているような…………読めない部分もありますね」
「他の者に見られ、作られては困るからだろうな。ハーネットが用いていた言語も使っているような気がする」
ハーネットが言っていたことを思い出す、ライラ。万が一の保険で二つに分けたのだから、もう一つの資料を発見しなければ役に立たない。
「アレク、春藍。ハーネットの資料は役に立ちそうだと思う?」
「!………それは間違いないと思うぞ」
「僕もそれは分かるよ。きっと……その……言葉にできないけどね」
ライラは2人の信頼できる科学者に確認をとって決意する。
「ならあたし、片割れの資料を探しに行く」
「!心当たりがあるのか?」
「一回だけあたしが手に持っていたし……桂と戦った後、どこに行ったか分からなくなったけど……………アテがあるところは3つある」
春藍とアレクにはまだ会ったことがない奴等も、ライラは教えた。
「一つはやっぱり桂、……管理人達が大切に持ってるかもしれない。もう一つはマーティ・クロヴェルであたし達を襲ったブライアント・ワークスとかいう組織、……最後はやっぱり夜弧ね。春藍とアレクには二つわかんないと思うけど、……ハーネットを狙っていたのは事実だから」
「……………………」
「……も、もしかして。ライラは1人で桂さんや、その組織や、夜弧って人を捜すの?場合によっては戦ったりもするの?」
「持ってなかったら無益なことはしないわ、心配しないでよ」
アテがあるとはいっても桂以外、どこにいるのか検討もつかない。だが、一つの情報は桂から聞いている。
「ブライアント・ワークスって組織。管理人達は追っているわ。何しろ、ハーネットを手に入れようとしていた。その危険性を見て討伐の編成チームを作っている。あたしもそこに協力して接触を試みるわ。桂からも事情を訊けるし、一石二鳥」
ライラの言葉にちょっと不安になる春藍。それに気付いたのか、単なる自分の気持ちが出たのか、ロイは自らもそれに参加しようと発言した。
「俺も行ってやろうか、ライラ。春藍がこうして無事だと分かった今、ここに留まる必要はねぇぜ」
しかし、その言葉に対して返したのはアレクであった。
「馬鹿だなお前は……」
「なんだとアレク!!?俺はライラと春藍を心配して言ったんだぞ!」
「俺にはそいつ等が分からないが、ハーネットの資料は俺達が半分持っている。となれば、ブライアント・ワークスもその夜弧という奴も、……下手をすれば管理人ですらも、ここにやってきて奪いに来るかもしれない。そいつをぶっ叩けばぶんどれるかもしれない」
「!!」
アレクの言葉にロイもピーンッと来て納得。言い方をちょっと考えろってロイはアレクに言いたくもなった。
「アレクの言っていたことは100%正解ね。ハーネットの資料を守るのが、アレク、春藍、ロイ……それにクロネアやラッシも含めれば十分な戦力だわ。パイスーみたいな化け物でなければ、十分に捕獲もできて情報も得られる」
その守るのに春藍の名前が出ていて、春藍はちょっとライラに認められているんだと気付き、小さくガッツポーズをしていた。今までありえなかったから、なおさらだった。
「何名か、あたし達は見て来たけど……特別強そうな感じはしなかった。パイスーやハーネット、蒲生、……もちろん、桂のような連中じゃない。でも、強いっていう枠には入るわね。ロイ、あんたはここにいてとっ捕まえる役目よ」
「い、言われなくても理解したぜ!!」
「……あ、……そ、それでライラはいつ。それを実行しちゃうの……」
春藍は少し浮かれからとけて心配そうな顔でライラのことを見た。
「いきなりは無理だから明日か、明後日から、クロネアにも話しをしてからじゃないとね」
「心配だよ」
「別に心配されなくても、あたしは大丈夫だから。ちゃんと、良い成果をあげなさい」




