そりゃなんだって生きたいだろう
ハーネットの力が蘇った事で蒲生が喰らったダメージは相当なモノだった。多くの異世界を飛び回った両翼は折れた。9つあった首は3つほど弾けとんだ。
【ぐううぅぅっ】
地に墜ちた神獣。巨体さは脅威だが、傷付きボロボロになった生物はどこか痛々しい。もう人間型の状態に戻ることはできないと蒲生は知る。
しかし、それが困った事ではない。
「!…………」
ハーネットは攻めに攻めた。この体で出来うる限りを尽くしてもなお、……
「蒲生、死ぬけど…………なかなか死なないな」
【…………ふふふ】
狩る者はいたが、トドメを刺すほどの力はなかった。死の宣告はされても、それはきっと遠い遠い未来でありえ得る死と同じ。蒲生の生命力は尋常じゃない。管理人として、危険人物であるハーネットを抹殺する。
「私、生き返ったばかりですから道連れは止めて欲しいですね」
【いや、してみせよう】
蒲生が動ける範囲には限度がある。それでもハーネットが取り逃がさないでいける距離にいた。傷付いても"超人"、肉体の強さは飛び抜けていてハーネットに襲い掛かった。
「あいつに似ていて、一番戦いにくい相手だ」
蒲生の闘志に少し嫌な気分になるハーネット。これが恐ろしい。"超人"というのは生死を賭けた場面で力を発揮してくる。一方で"魔術"はガス欠になると何もできないに等しい。いくら魂が高揚しても力は発揮できない。
一方的な攻めをした後で、蒲生の捨て身の攻めを受ける側となったハーネット。障壁を作るもそれモロとも蹴り飛ばされるハーネット。
弱った蹴りだというのにかなりの大ダメージを喰らう。
「っ……………」
このままでは蒲生に殺される。何か策があるわけじゃない。
「だから止めようよ。意味はないよ、蒲生、犠牲者を出さないでくれ」
ハーネットは穏便に言葉を作っていく。だが、それで止められるとは思っていない。
「君達の役目に終わりはある。それが"時代の支配者"が作った運命、人類が自由を手に入れるというシナリオなんだ」
【…………関係はない】
「どーゆうふうに?」
【俺の役割は俺が決める。だから、俺がする事を止めるなら力をみせろ】
バギイイイィィッ
ハーネットを踏み潰しながら蒲生は答える。
【自分の終わりは俺が決める】
「だからって私を殺すの、止めてくれません?」
だから戦いたくない。彼等の戦いは勝ちを重視する。長期戦は"魔術"にとってかなりの不利がある。仕留められなかった自分の能力不足…………。
「それもまたですか」
【!!】
ハーネットは踏まれた後、"天変地異"で空と地を逆さまにする。空に落下する蒲生、そして、ハーネットもそうだ。
【なにが狙いだ?お前はもう魔力がなくなったぞ!】
「残念ですが」
落ちて行くハーネットの下に新たな雲が作られ、ハーネットはその雲の上に乗った。だが、蒲生はドンドン落ちて行く。
「私はどうやら1人じゃなかったみたいです」
【!!】
なんであれ、間に合ったようである。
蒲生は雲に乗り込んだハーネットを破壊光線で消し去ろうと放った。
だが、蒲生からしたらその下に待ち構えていた雲の海を狙うべきであった。
「ふーーーーっ」
休憩をとっていたのはハーネットだけではないし、動いていたのもハーネットだけではない。ハーネットは時間稼ぎに徹していただけなのかもしれない。
多くの世界が繫がったことで大地だけでなく、空すらも繫がって雲を大量に集めることができた。また、多くの人々から魔力を吸収し、その全てをライラに託した夜弧。
【………………………】
繫がったからこそ蒲生を葬れる。
「単純なタイマンで君に勝てそうなのは限られていただろう。多勢で申し訳ない、これが人間のやり方かもしれないね」
蒲生は見たし、知る事ができた。
沢山も重なり合う事であれだけの力が生まれることを。分厚い雲から生み出された雷槍は蒲生に狙いを定めていた。
「海星雲天雷槍」
放たれた雷槍は蒲生の体を真っ二つにし、そのまま直進して大地に突き刺さって、その世界の大地全てを葬った。
………………………………………………………………………………………………
管理人か。
「うむ……………」
遠い昔、"和の国"吉原で蒲生は桂と一緒にお茶を飲んでいた。この巨大な手に相応しいだけの容器と量があった。
「美味しいな。これが人間の作りし物か」
「口にあって何よりだ」
天から見下ろすような巨体から見ればこの世界はとても平和である事が分かるほど、穏便な空気に包まれていた。生に汗を流し、発展を心がけている。
「時に桂さん、…………俺は一体、いくつ壊せば良いのだろうか?」
「悩み事か」
「……俺の役目は全てを破壊すること。俺の能力は向いているが、性格が合っていないと思っている。こんな景色が好きなのだ」
「まさか……。お前は性格でも向いているよ」
桂は人を殺している。だが、それ以上に蒲生は世界を破壊し、生命達を根絶やしにしていた。
「もし、……お前がこんな悩みを抱えなければ世界の秩序は守られない。拙者とて、お主とやり合うのは気が引ける。ポセイドンもだろう」
「……………………」
「蒲生の力は守ることよりも、破壊することであるのは間違いない。だが、蒲生自身はその力を大切に扱うこと。使わないことを前提にしなければいけない。その加減までこなせる蒲生だからこそ、世界を潰す役に向いている」
「……………そうですか。少々、気に病んでおりましたが。スッキリしました」
本当ならば穏便に。できるだけ壊さぬように…………。
心優しき破壊者。だが、場合によっては鬼ともなれる破壊者。
「自分はそのための役でございます」
決められた役割は決して嫌ではなかったが、……。ただ、人間達の可能性を見るのはこの美味しいお茶を味見するように楽しそうに思えた。潰す世界の以前にも、きっとこんなありがたさがあったんではないかと思うところもある。
ならば、この力。封じ続けるために安定を作ろう。それが管理人であろう。
………………………………………………………………………………………………
「壊し疲れた」
蒲生はホッとしていたようだ。
「少しだけ…………お暇いたす…………」
体を真っ二つにされてもなお、その生命力は強い。
「…………今度は……生きる目的を知る者になりたいものだ……………」
管理人ナンバー:005
蒲生。
その実力は圧倒的は破壊神であり、ハーネットとの戦争ではマーティ・クロヴェルだけでなく、9つの異世界を葬り去った。しかし、それほどの脅威を持ってしても敗れることもある。例えば多勢、例えば陰謀、例えばそれ以上の強者の出現。それらが起こり得るのが戦争だ。
「逝ったか……………」
蒲生、戦死………。




