刺激ある相手
「!」
龍は何かに気付いた。
ロイに垂れ流していたビールはもう尽きた。投げ捨てた缶ビールは風に揺れ、地面に強く転がっていく。
「新手か」
"ラ・ゾーラ"の範囲外からの生物じゃない攻撃。
ピィッ
それはロイを守るためじゃない。自分に定めた掟を守るため、あえて"ラ・ゾーラ"を切り、ロイが苦しんで味わった飢餓から解放させた。
殺しはしないし、死なせるつもりもない。
「あぶねぇ」
ロイを蹴り飛ばし、相手からの攻撃にも当たらないようにする優しさ。無論、龍もとても遠いところからの攻撃は避けられる。
木々はもちろん、地面に生える雑草で焼き払う炎の龍が、龍に襲い掛かっていた。
「追尾もあるのか?」
避けたつもりであったが、その追尾性能まで計算に入れておらず。炎は龍を喰らうように襲った。何もかも燃える炎……………。
「誰だよ…………」
再び、"ラ・ゾーラ"を発動する。自分に対しては細かくて多彩な感覚のふっ飛ばしができる。しかし、あくまで感覚のみであるため、ダメージはちゃんと蓄積されている。
黒焦げの龍は炎が飛んできたところに目を向けて、質問をしたが誰も答えてくれない。見えないところから狙撃とは卑怯な奴。
「!?」
「…………………」
ならば狙撃せず、接近した状態から始めれば卑怯ではないか?まぁ、背後とっているけど。
「な!?」
龍が驚き、"ラ・ゾーラ"を発動するよりも先に、黒い龍の仮面を被った大柄の博士は彼を殴り飛ばしていた。
「がはっ…………」
いきなり……俺の後ろに現れただと!?
「な、なんだ」
問いを投げかけるわずかの間。
「テメェは!?……!」
「…………………」
完全な瞬間移動だと龍は理解できた。声を出して、龍が動くまでの間にもう黒い仮面の博士は背後に回っていた。多少の身体能力を持っている龍だが、"ラ・ゾーラ"に依存している。しかも、相手の黒い仮面の博士の方が龍よりも高い身体能力を有している。
ベギイィッ
「うごおぉっ…………」
「確かにこの目で確かめた。"ラ・ゾーラ"は脅威であり、そして、タイミングも理解した」
「なんだこの筋力……"超人"……?なんだ……?」
「空間内にいる生物の生殺与奪ができる力といえど、空間内で瞬間移動する相手にはできぬようだな」
自分が少し調子に乗っていた。飛んできた謎の炎のダメージもあって、この打撃の強さ。アカン。これ負けパターンだ。体の修復が必要だ。
「お、お前は何者だ……………」
「お前が知る必要はない」
黒い龍の仮面の博士
スタイル:科学
スタイル名:暗殺者靴
詳細:
対、管理人004:龍専用の科学。靴型の科学。
相手を限定させることによって、その能力を爆発的な物としている。それ以外の相手には使えない。龍の"ラ・ゾーラ"に反応し、彼の死角に瞬間移動し、"ラ・ゾーラ"を避けてカウンターのチャンスができる。たったそれだけのために造られた科学。龍以外の相手には何も使えない。
バギイイッ
「ぐぉっ…………」
体術も"超人"並か……。ヤバイ相手だ……。ロイやライラの仲間か?俺だけを狙ってやがる。正体もわからねぇ。つーか、意味のわかんねぇ強さだ。
「く」
「"ラ・ゾーラ"を使うか」
タイミングを完璧に読まれ、再び龍の背後に黒い仮面の博士が瞬間移動する。決め手を封じられる。ボロボロに滅多打ちにされる龍。
「うおっ………………」
「しぶといな」
しかし、なかなか死なない。さすが、桂の次のナンバーを背負っている人物。馬鹿だけど、耐久力もあるようだ。ボロボロにやられながらも、鋭い目で牽制してくる。
「!」
そして、何かを悟ったのか。黒い仮面の博士は急に龍から遠ざかった。対龍への科学を持っていながら弱気な行動をした。彼の直感が退けと言ったからの行動だった。
「…………………」
「い、……いい判断だ…………」
龍は自分を中心に半径2mにも満たない、"ラ・ゾーラ"の球型の空間を作り出した。とても小さい空間が退けさせた。その理由。
「これくらい狭い空間ならテメェが後ろをとっても、すぐに感覚をぶっ飛ばせる空間範囲内。どこに居ようが全部飛ばせる。俺の無敵のバリアだ」
「…………………さすがに強い。そして、この靴もいらなくなったな」
今、龍に近づいたら感覚が全部吹っ飛ばされるだろう。それも魔力が尽きるまでやる気の目だ。そして、やりかねない魔力の総量がある。
対龍用の科学も簡単に看破されたことで彼は破壊してしまった。
「はぁっ…………はぁっ…………」
だが、龍がもらったダメージは深い。無敵のバリアを張っただけで彼を返り討ちにする余力がない。長期戦は不利……何かのきっかけが欲しいが、この現れた男は分からんが強い。不意でここまでやられるとは驚いている。
なんのきっかけがある?
「!」
「!」
2人が同時に気付く。
「な、なんだ。そこの大男は!?」
飢餓状態から復活したロイ。
「…………………」
「ちっ…………」
どう判断すれば良いか龍には分からない。ロイにも分からない。だが、奴だけは分かっていたように言葉を使いやがった。
「貴様。俺と戦うのか?」
「!」
「分かるぞ、そーゆう闘志を感じられる」
「なんだこのデカイ仮面野郎は……」
ロイもこいつがなんなのか分からない。だが、見た感じ。龍をあそこまで追い込んでいるところを見たら、相当な腕前。
「止めておけ。俺と貴様が戦う理由はない」
「なんだと!?」
「低い知能で考えもできないのか?俺はお前に興味はない、そして、お前もまた俺よりも大事なモノがあるはずだ」
「!!」
馬鹿にされつつ、とるべき行動を教えられるとなんかムカつく。その特徴的な仮面と姿をちゃんと頭に叩きこんだロイ。
「うっせーー!」
すぐに行動してやろうとするが、ムカついてなかなか動けない。
「ちっ」
その時、仮面の博士は舌打をした。ロイはその仮面の下を覗いてやろうと一発顔面にぶん殴ろうと考えていた。龍はまた別の奴が接近していると気付いた。
仮面の博士はロイの方へ突如走った。そのスピードは"超人"そのもの。ロイは奴が近づいたことにやってやろうと拳を作った。
だが、黒い仮面の博士の狙いは別だった。
バキイィッ
「急いで自分の役目を全うしろ!この低知能人類!!」
「!!なっ!?なんだ、お前は!!?」
第四者と呼ぶべきそいつは気まぐれに現れ、龍からしたら狙うべき対象がちっと違うだろと言いたかった。病弱そうな体から本気でやったと思われる、管理人としては常軌を逸した発言。
「は、はは、は、ははははは!!刺激のありそうな人間じゃねぇの~~~~、このヒタス様。ついさっき、町一つを皆殺ししても足りなくてよ~~。快楽ある殺害を求めていた」
ロイに向けられたヒタスの攻撃を黒い仮面の博士が防いだ。もし、彼が防いでくれなかったらやられていたかもしれない。ロイは彼に二度も救われた。
「行け!こいつは俺が相手をする」
「!…………ち、あとでテメェをぶん殴るから死ぬんじゃねぇぞ!!」
ロイは黒い仮面の博士を置き去りにし、すぐに春藍の方へ走り出した。段々思い出してきた。自分が春藍を投げた方角へ一直線で走っていく。
「どーゆう状況だ、龍!!?」
「せ、説明できるか!ぐっ…………気まぐれ馬鹿のヒタス!そいつは任す!俺は体を治療しないとさすがにマズイ…………別世界に行く」
「そうか、なんとなく分かったぞ!」
「そいつは強いから気をつけろ!」
ヒタスは涎を地面に零しながら狂気の笑みを作り出す。
「殺すと楽しそうな相手だから獲物をくれればそれでいい」




