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RELIS  作者: 孤独
ハーネット編
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半殺しの人生こそ、正義

すでに決着していた。"ラ・ゾーラ"の空間内にいる生き物は龍によって生殺与奪をされる。



「一番抜かれる感覚でキツイのはなんだと思っていた?」


味覚を奪われたら楽しみを得られないだろう。触覚を奪われたら温かさを得られず、幸せになれないだろう。嗅覚を奪われたら興奮できなくなるだろう。聴覚を奪われたら二度と音楽が聴けなくてショックがデカイだろう。視覚を奪われたら好きな人を見つめられなくて不自由な生活は強いられるだろう。

足を奪われたら松葉杖の練習が必要だ。腕を奪われたら足で頑張って物語を作ろうと思う。

幸福感を奪われたらずーっと廃人だろう。金銭感を奪われたら借金ばかりになるだろう。恋愛感を奪われたら異性と付き合えないだろう。まぁ、自分には関係がないだろう。ロイにとっては一大事だがな。平衡感覚を奪われたら両足があっても、永久に立てないだろう。



「………………………」


ロイは龍に瞬殺されていた。

悲鳴すら上げれず、それでも苦しい苦しいと喚き、乾ききった酷い容姿で倒れていた。



「俺の"リミットレスレンチャン"は拷問。半殺しを的確に現したもんだ。気分はどうだ?あ?聞こえもしねぇし、見えもしねぇだろうがな」



"ラ・ゾーラ"でロイの感覚をぶっ飛ばしたのはたった一つである。しかし、それだけでどんな感覚が無くなるよりもオゾマシイ状態に陥る。



「"空腹感"をぶっ飛ばす。それはこの世で失っちゃいけない感覚だ。つまり、お前の体に起こっている異常は飢餓だ」



感じている人、感じていない人。世界には多くいるだろう。これを触れて読める者はきっと、飢餓を味わった事がない。握られるお金がどれだけ価値がなく、読める本も、学ぶという行動すらも……何の意味にも、価値にもなれない。

ただ食う。食わなきゃ。


死ぬ。


しかし、食えない。なぜなら食い物がないからだ。食える物がないからだ。



「………………………」



惨い。

ロイの体はとても痩せ細り、舌から滲み出る唾液すら出ず、目玉も乾いている、筋肉が萎んでいて血管が浮き彫り、骨が見え、ボロボロと朽ちていく。歯茎がズルズルと剥けていき口から薄い血が吹き出た。歯も痩せ細る。

馬鹿な脳みそでも、ちゃんとした大きさがあった。しかし、萎み始めていく。外部からの強い圧縮ではなく、内部が供給する栄養そのものが無くなるという地獄。胸を打つ脈が減ると同じ。カルシウム、ビタミン、アミノ酸、鉄分、炭水化物、脂質、ミネラル。6大栄養素を中心に駆逐していく"ラ・ゾーラ"……。人間というのは生き物であると同時に、奇跡としか言えない物質の集合体と言える。

忘れちゃいけない。怠ってはいけない。栄養管理。精神の管理。その手と目、足。それが動くというだけで幸せ。そのエネルギーを食べられるという幸せ。



「………………………」



何も考えられなくなり、何も動けない。ただただ苦しいだけ。腹減ったという言葉で締めていいのか?喉が渇いたという言葉で締めていいのか?良くはないな。ロイの苦しみが良く分からないならそれで良いが、もっとも困るのはこんなに苦しいのかって思われることだ。

飢餓とは。真の空腹とは。何も体内に残っていないとは。

体の中で虫が何百匹も突然生まれ、もぞもぞと動きながら虫が血を飲み、便意を食い、胃液すら飲み、血管に喰らい、筋肉を喰い、喰った分だけさらに虫が生まれ、臓器を齧り、骨を齧り、神経にその汚くて何百本もある足を乗せ、脳みそに虫がこんなにもいますよって伝わり。体中に最後の塩がついた汗を流す。塩水すら飲んでも虫の喉は渇かず、首の上に迫ってくる。脳みそを食っていく。願望と恐怖がどんどん生まれて、それ以外がどんどん無くなっていく。脳みそを全て食われたら死ぬ…………願望も、恐怖も、虫もいないところへ連れて行かれる。



吐き気がしても、吐くことができず。熱を生む栄養分もなく。咳き込むだけで骨が軋んだ。




残酷。

人間が絶対にそれを失っては在り続けられない。


「どの生命体も食べるという幸福を持って生まれている以上、一番身近な幸福を奪われた時。どんな意志も砕かれる。どーにもならねぇ、生命体という構造上」



龍はタバコを吸い、ポケットから缶ビールを取り出した。


「げほっ…………ビール、飲めるか?」


と訊いといて、龍はロイの顔面に缶ビールを垂れ流していく。


「とはいえ、飢餓にされたお前の体。ビールが体内に入っても消し飛ぶだけだ」


龍は相手を飢餓に追い込める能力者だから知っている。


「水分が体に入ると当然だけど潤うんだ。その潤いは確かな希望を生み出す。だが、すぐに潤いは消え、希望を吹っ飛ばす死の淵を思い出す」


IT WILL BE EQUAL 矛盾。

この生きられる希望を与えられ、死の淵という絶望状態。


「だが、それが命って奴でさ。なーに。ただの俺の感覚?思想?」


ロイが飢餓状態であり続ければ死んでしまう。龍は彼と戦う前に宣言していた。半殺しっていう定義で抑えるため、わずかな希望を垂らしてやっているだけ。生きていると殺しているのループを繰り返させる半殺し。



「ただ生きているだけの時間ってのは死んでいると同じ時間で。希望の価値が見えてこない。生きるってのは半殺しされ、半殺しにすることで喜ぶんだよな」


龍のせいで死なないロイ。けれど、龍のせいで動けないロイ。


「頭がイカれてるくらいの半殺しが。丁度良い。麻薬やるくらいイカレるところが良い」



……………さすがに麻薬はアカンと思うが。

それもまた一つの選択かもしれない。辛いところを出るという希望のアイテム。


「お前は今。幸福と不幸を同時に体験できる、刺激ある良い人生にいる」



……んなわけあるか。飲めてギリギリ生きられることが刺激ある事?冗談ではない。龍はやはりアホである。五体満足のロイが急にこうなれば垂れ流しされるビールが悪魔の液体と思える。飢餓のまま、晒される。

ただ、アホと思えるのは自分がそんな目に合ってないからかもしれない。本当は、ロイは生きたいのかもしれない。

しかし、この非常に気の狂った思想。管理人だから出してしまう、命の遊び方ではないか?



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