ライラ+夜弧 VS 蒲生
「はっ」
「よーやく起きたのね!遅いわよ、このクラゲ!!」
ライラは目覚めた。その隣には黒々と変色した両腕を持っている夜弧が立っていた。
「あんまりにも遅いから洗脳してやろうと思っていたからね!」
「や、夜弧…………?」
「トランクケースはどこにやったのよ!!……なんて……どうせ桂に奪われたんでしょ!」
「!……そ、それより。春藍は…………っていうか、傷が」
「あたしの能力は多少の治癒効果があるのよ」
夜弧
スタイル:魔術
スタイル名:トレパネーション
詳細:
暗黒魔法の類に該当する能力。夜弧の両腕からのみ魔力が放出されるという、限定条件がある。その際、両腕は黒々と色が変化している。この両腕に触れた者は夜弧の感情やイメージを流し込まれ、身体に影響を与える。
生命体の自然治癒力を活性化させ、傷口を塞ぐことができたり、夜弧の思いままに洗脳や記憶の改竄、強い思い込みなどもできる(ただし、洗脳などについては一定時間のみ)。
自分にもトレパネーションを使う事ができ、身体能力の強化ができたりするなど幅広い性能を持つが、両腕のみしかトレパネーションを発動できないため、効果範囲は狭い。
「とにかく、あんたがいなきゃロイも桂も追える状況じゃない」
「夜弧………あんたへの質問。後にしていいかしらね」
「当然そうしてよ!ライラ!」
ライラも起き上がった。桂から喰らったダメージは夜弧のおかげで半分くらいは惹いていった。魔力も回復している。
ライラは雲を作り出して夜弧と一緒に上空へ舞った。
「追うなら分かりやすいところからにするわ」
「そうね!」
ロイと春藍、それと桂の位置は上空を飛んでも分からない。上から見ても人は小さくて木々などの障害物も沢山ある世界だ。だが、たった一人。分かりやすいほど巨体を持っている蒲生の位置はライラにも夜弧にも見えていた。
彼の走る姿は何かを懸命に追っている。
「飛ばすわよ」
「ええ」
勝てる相手ではない。ライラの相性でいえば蒲生はとても悪い。雲を軽々裂ける巨体を持ち、その巨体の体術は夜弧も自分も一撃で沈むだろう。
急いで飛ばして蒲生を追いかけるライラ達に一つのアンラッキーが起きた。
「!…………あれはライラの雲か……まずいな」
ライラの雲に蒲生が気付いたこと。そして、すぐに春藍を抹殺するため、落下地点中心に
蒲生は春藍が落ちたと思われる山に向かってその巨体を一番活かしたボディプレスを行った。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
崩壊する山、8割以上の木が折れる。その中で生息していた魔物も殺される。単純な巨大さがどれだけの武器か魅せつけられるものだった。そもそも山にボディプレスをかませる巨体はどーゆう生物なのだろうか?
「!……………」
蒲生によって崩れる山を見た二人はゾッとした。これから戦う相手もまた、怪物。
そして、
「もしかして……あそこに春藍がいたというの……………」
「そ、そんな…………いえ…………まだ分からないですよ」
蒲生が山を潰したところからその結末も推測できたライラと夜弧。だが、ここでどーこう心配しても分からないだけ。役目は心配じゃない。
「…………蒲生を倒すしかない」
「!」
「夜弧。……出会ったばかりのあなたに任せるのは嫌だけど。あなたしかいないから、春藍を探して。あんたの事情にも春藍が必要なはず」
言葉はこの事情を精一杯伝えているようだが違う。夜弧にはなんとなく分かった。
「あたしを巻き込みたくないの?」
「!」
「1人で立ち向かうなんて……無謀じゃない。そもそも、蒲生を倒さないとロクに捜せそうにないよ」
夜弧は魔術師の衣装のポケットから武器を取り出した。魔術師らしからぬ、拳銃が彼女のもう一つの武器である。
「夜弧。恰好と武器を考えなさいよ…………」
「う、うるさい!!け、け、拳銃ってカッコイイじゃない!!あたしは接近の"魔術"だから、剣や杖とかそんなのより銃が良いのよ!!」
恐怖が和むようなお馬鹿なやり取りから2人はその目を蒲生に向けた。
「ライラと…………?隣の女は何者だ……?……まぁよいか」
蒲生は雲に乗るライラと夜弧に向かって走り、巨大な拳を放った。乗り物の雲は無残にも四散していった。夜弧は地上へ、ライラはそのまま空中で雲を作って足場を構築。
「!」
二手に別れることで蒲生の意識を分散させる。加えて出会ったばかりの者同士だ。信じているなんて言葉は口だけでしかなく、お互いの能力の良さも活かしきれない。ライラは空中から、夜弧は地上からという割り振りのみが精一杯のチームプレイ。
「むんっ」
蒲生は能力を知っているライラから狙った。無視できる能力ではないからだ。雲を潰せる巨体とはいえ、攻撃を潰せるわけではない。蒲生の判断は正しい。
「つっ……」
ライラは雲以外にも霧を蒲生の頭の近くに作り出していた。蒲生の視界を少しでも悪くすることで脅威的なパワーを逸らし、削ぐ狙い。紙一重とかでの回避では絶対に巻き込まれる。モグラ叩きのモグラみたいな、危機感を抱きながら蒲生に対応するライラ。
ダアァァンッ
「!」
蒲生の足に痒みが来る。7つくらい来た。下に視線を向ければ発砲している夜弧がいた。
「弾丸が命中しても全然効かない!?」
"超人"の中でも硬い身体を持つ蒲生に弾丸など、蚊のような物でしかなかった。夜弧にとっては拳銃が最高の破壊力を持った攻撃だった。だから、驚くのも無理はない。
蒲生は夜弧の驚きを見逃さない。さらに、ライラとは違い立体的な動きはないと断言してその巨体から繰り出される水面蹴りを披露する。
「きゃあぁっ!」
木々、岩、さらには山をも蹴りの一周のみで、文字通りの一蹴。まっさらな大地にしてしまう蒲生のパワー。上空に昇る大きな土煙。
「夜弧!!」
空から見ても夜弧の姿も春藍の姿も見えない。
「………………手応えがない」
しかし、蒲生には2人の人間をやったという手応えが感じられなかった。春藍は本当に分からないが、夜弧に関して言えば謎の能力で避けたと思われる。
「2人共生きていなさいよ!」
それは蒲生の攻撃でか、自分の攻撃でか………。正直、どっちになるか分からない。ライラもこの5年間で目覚しく強くなった。台風を作り出すという驚異的な魔術よりも、さらに上の段階へ進んでいた。
キラーンッ
「!!」
ライラよりさらにその上から何かが来ると蒲生は察した。空からやってくる光が何かオカシイ。ライラは右腕を挙げてギリギリまでそれらをコントロールする。使った後はとんでもなくバテてしまうほどの魔力の使い方。放出している距離も相当なところ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「!!?」
「流氷群!!」
さすがの蒲生も怖さを思い出した。隕石ではないが、隕石よりもそれはあり得ない物が上空から降ってきた。
「氷の塊だと!?」
それもとんでもない量と大きさ。群れのように氷の塊が空から地上へ降り注ぐ。
"流氷群"
ライラは雲が発生するよりさらに高い位置で自分の魔力を用いて、強制的に雲を作り出した。中間圏までの高さに達すると、温度は-80度を下回り全ての水分は凍りつく。それはライラが作り出している雲も例外ではない。
ちなみにこの物語は地球が舞台ではないため、大気圏がそもそも存在しているかは不明。ただし、上空よりもはるか上の温度は地上よりさらに冷たくなっているのは確かである。
「くっ」
巨大な氷塊の一つは拳で砕く蒲生であったが、降り注ぐ氷塊の数がハンパではない。
「うおおおぉっ!!?」
巨大な蒲生を物量で押し潰す。大地に降り積もる氷塊は大地にクレーターをいくつも作り出すほどの衝撃を持っていた。
「はぁーー……………」
雲の上で激しく消耗し、両膝に両手をつけて呼吸するほどだった。ライラは息を整えながら氷の絶景を見下ろし、あの蒲生の姿も埋もれたところまでハッキリと見た…………。
「春藍と夜弧…………大丈夫かしら?」
絶対に死んでそうだ……。それだけ広範囲で破壊力がある攻撃を繰り出していた。




