ナルアとヘット・グール②
人はとても弱い生き物であった。痛みにとても弱くて、苦しくなるとダメになる。
両思いでいられたけど、どれだけこの絆と恋が強いのか。カップル用のパフェだって人前で食べられて、お互いで家事をやりあってその関係は夫と妻そのもの。休日では一緒に映画館やスポーツに勤しんで。お互い働いて疲れて、お互いを癒しもした。
それでも、どれだけこの好きって感情がいつまで。いや、……男性と女性は死ぬまで絆を思っていけるのかな?
気になるね。俺、興味ないけど。すっごく気になるわ。むしろ腹立たしいから永年爆発しろ。
ある者と出会えたことをきっかけにナルアとヘット・グールは力を手にした。失ってしまう恐怖が消えた。力や強さがあれば、なんだって守れる。なんだって自信になる。自分達が絆を切らないという関係が生まれるだけの力だった。それは人間同士だったらありえなかった。
ありがとうございます。ありがとうございます。それを繰り返してヘット・グールは涙ながら桂と戦っている。一人だったら殺さないでと泣いていただろう、本当は助かりたいと泣いていただろう。この体の中でナルアが自分を守ってくれる、力になってくれる。
強くて、愛しくて、……これこそが絆だって。自分もナルアも想ってくれる。
人だったらできないな。
必死に、それでも恐怖すら克服してヘット・グールは桂と戦った。
バシイィィッ
「っ………………」
「遊びはこれまでだ」
沢山斬られてもこの身体で戦って戦って………もう止められないと察した時。
「どこまでも一緒に」
ヘット・グールは力を振り絞って
「好きで居続けようね、ナルア」
自分の命を閉じた。消化されていくナルアと共に天国に行く。もっとも高い絆を知り、彼と共に戦い、彼と共に死ねた。向こうにいっても隣同士なら幸せだ。絶対、一緒だ。
去り行くこの世に、ナルア(ヘット・グール)と出会えた幸せをありがとうっと…………。2人は想っていただろう。
「…………先に逝かれてしまったか」
ヘット・グールとナルア。桂と戦い。戦死。
「まぁいい。じっくり調べれば分かることか」
桂はライラから奪い取ったトランクケースの中身を確認した。どのような資料かは桂には読めないが、単語だけなら読み取れる。資料に書かれている名前を見て、これがどれだけ貴重かも理解できる。
「ハーネットの研究資料か…………その未発見部分と推測できるな」
事態は思いのほか大きかった。桂や管理人側の目的はこの資料の優先順位は3番目だった。1番目はハーネットの殺害。2番目はダネッサ達の殺害であった。
桂はトランクケースを閉めて大切に持っておく。管理人以外の者達にとってはこれが必要だと分かった。もしかすると、奪いに来る可能性もある。
「さすがに今じゃないか」
桂がヘット・グール等と戦っている間にダネッサ、ケチェリ、大塚の三名はこの異世界から脱出していた。それだけの時間を稼がされた。
そのことに桂が気付くのには少々時間が掛かった。
そして、ロイと蒲生達。
「!」
いかに速いロイでも、蒲生とは歩幅があまりにも違っていた。場所を間違えているんじゃないかと思えるくらい巨大さはロイの発見と同時に目の前に立ち塞がることができた。
「お前がロイだな」
「!……そうだが…………」
ロイも知っている二人。一度だけ、フォーワールドで出会ってもいる。管理人としての実力は自分の師、インビジブルよりも上位にいる二人との戦い。
「お前が背負っている春藍慶介を殺せば命だけは助けてやるぜ。俺達は1人だけ殺すのは向いてねぇ」
蒲生から降りてロイと向かい合う龍。2対1ではなく、龍がどうやら相手をするようだ。ロイには管理人の言葉を聞いていなくても、予感はしていた。あれだけの巨体が自分と春藍を狙っていたのだから。
「ふざけんじゃねぇ!そんな気がしてたからよー!!」
「!」
「テメェ等と戦う覚悟はしてきたんだ!」
ダネッサとの戦いとは違うことは分かっていた。だから、ロイの手段はとんでもない暴挙。
「生き残れよ!!春藍ーーーーー!!!!」
「?」
ロイが行動するまで龍と蒲生には分からなかった。
意識を失っている春藍を無理矢理、空にぶん投げる。まるで星のように春藍は飛んでいく。
「ば、馬鹿かお前!!とんでもないところに投げるんじゃねぇ!!」
「龍!春藍は俺が追う!ロイを止めるんだ!!」
「おう!」
完全な賭けであり、仲間を信じた投げ方。空に浮かぶ雲のどれかがライラが作った雲ならば、ライラが感知できるはず。桂と戦っていることは知らないロイだが、春藍を救える手段はこれしかなかった。
蒲生はすぐに春藍を追い、龍はロイを決して追わせないように"ラ・ゾーラ"の空間を作り出して広げた。
「お前を殺していいかは指示されてねぇ」
「だからなんだ!!」
「残酷って言葉の半殺しは決定だぞ!」
ロイ VS 龍。
「俺は管理人だって殺すつもりだ。仲間を殺されてたまるかよ!」
それはとても残酷な痛みが使われた……。
ロイの高ぶる気持ちはどれだけ持つだろうか。




