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RELIS  作者: 孤独
ハーネット編
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ナルアとヘット・グール①


龍になれる身体を手にした男。人を食い、裂き、討つ。炎を吐き、両翼はこの巨体を浮かし、四足は大地を揺らした。生える牙は岩を砕いた。

ただ強くなりたい。人という容姿を犠牲にしてでも、得たい姿のイメージをついに手にした。

なぜ?この姿を得た。



「守るためだ」



彼女を、仲間を、…………。

人間であったら立ち向かえない相手。立ち向かえない出来事。人を捨てることで自分は立ち向かえた。この世に向けられる強さに対して、強く向き合える。

刀の軌道は見える。体が開かれる音も、感覚も分かる。



「……あっ……………」

「…………………」



ナルアの右の前足が桂によって斬り落とされた。


「これでも届かねぇのか……」


人を捨てても桂という強大な敵に太刀打ちできていない。前足の一つがなくなった。



「逃がさんぞ」



桂はナルアの左翼を斬り落とした。全ての移動を断ち切った。

退路なんて最初から決めていない。ナルアは足と翼を失った時、自分が得ていた強さを知れた。痛みがまるで感じられない。

それでも大きな両目から涙が溢れる。



「うぐぅっ………………」


俺の身体が感じている痛みで泣いているわけじゃない。俺が弱いから泣いている。


「はっ……………」


桂はナルアの頭を斬り落とそうとしていた。全ての感情を断たれる一撃であることは間違いない。楽になれる。



ダメだ。それはダメだ。ダメだろう。



何秒も、稼げなかった。ただの犬死に。



痛いだけで泣かない身体と心を手にした。立ち向かえるんだ。強くなれたのに…………。もっと強くなって守れないと………。

得た強さは何も価値にならない。



ズパアァァッッ


ナルアの首が吹っ飛ばされた。


パシイィッ


グルグルと空中を舞った頭を優しくキャッチした者。


「大丈夫」

「!……へ、ヘット………グール……」


液体化を解除し、人間の両腕でヘット・グールがナルアの頭を抱きしめていた。桂はナルアの終わりを確信していたが、ヘット・グールの続きは予想していなかった。


「あたしがいる。一緒になりましょう…………ナルア」


こうした奇妙な関係があった。彼女が彼を喰らった。人を食べたのは初めてでとても不味くて、とても嫌な味で、でも…………心からふつふつやって来る一体感と安心感。

お互いの温かい皮膚と筋肉。心が分かった。痛みが分かった。悲しみが分かった。喜びが分かった。


「もっと……食べろ……………」


一口しただけでヘット・グールの身体も変わっていく。牙が生え、身体もすぐに大きくなっていく。ナルアの気持ちが伝わった。


「いただきます……」


ナルアの頭を丸呑みできた。ナルアの心からの言葉がそうさせてくれる。勇気をくれる強さだった。綺麗な頭が身体の奥まで染みこむよう噛み砕き、胃袋に彼を収める。温かく見守ってくれるよりも、温かなことだった。身体の中から彼が守ってくれる。もう彼の姿はなくとも、心は一つになれた。



メギィッメギィッ



「むっ」


ヘット・グールに緑色の両翼が生え、長くて鋭い牙も爪も生えた。龍とは言えるような部位が生まれたが、ヘット・グールは人型でいた。桂は彼女の変体に警戒した。食った物の能力を得られる"喰人"という科学。


「悲しいわ…………」


ヘット・グールは泣いていた。胸に両手を当てて泣いていた。


「ナルアと一緒になれたのにその時間も僅かな間。このお腹にいるナルアが溶けたら、あたしはナルアを忘れてしまうかもしれない」


合わさりあえた感動と決められた別れの辛さをヒシヒシと味わっていた。



「悲しい」



そんな独り言に構ってやれる桂ではない。残酷にもナルアと同じ目に合わせようとヘット・グールの頭を撥ね飛ばした。


「!」


斬ったヘット・グールは水のように弾けとんだ。受け流されていた。首から上が吹っ飛んで、それ以外のパーツが動き始めて桂に襲い掛かった。



ガギイィッ



「首なしで動くか」


ヘット・グールの動きはナルアの能力もあって俊敏であった。わずかながら桂が防御に回っていた。魂の感じる攻撃。そして、徐々に弱りそうな猛攻がさらに勢いを増している。


「!む」


先ほど吹っ飛ばしたはずのヘット・グールの頭。液体が集まり出して頭を再構築し、ナルアの死体の方へ移動していて彼を食い漁っていた。


「ナルアナルアナルアナルアナルアナルアナルアナルアナルアナルア、好き好き好き好き好き好き好き、一緒に一緒に一緒に一緒に一緒に、いよいよいよいよ。とってもあなたは美味しいよ」


ナルアの身体を食いながら、彼女は頭から下の身体のパーツを彼の栄養分で作り出す。かたや首なしで桂と戦う身体、頭だけで死体を食う身体。


「興味が沸いてきた。ハーネットの知る理由、ここにいられる理由、これだけの能力」


人間が到達できる"科学"ではなかった。


「お前等の後ろには何かが隠れているな」


あの可愛いくて女性らしい身体ではなくなった2人のヘット・グールは桂を挟み込んで襲い掛かった。背後をとられることを嫌った桂は左へ緊急回避する。初めて抱き合えるほどの距離までに達した二人のヘット・グールは互いを食い合った。



「もっと一緒になろう」

「ナルアとあたしが一緒に」


2人は1人となり。頭だけでなく、身体まで全て一つになれた。深い悲しみを知りながら、同時にとても強くて近くて、言葉通り溶けている恋をしている。



「あたし達、今一番の幸せ」



ヘット・グールは無敵でいられる気持ちだった。




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