ヤバ過ぎるのが来すぎだろ
「ちょ…………管理人。それも、桂と龍に、蒲生って……ほぼ最高戦力じゃない!!」
夜弧は雷を喰らいながら意識を保っていた。だが、眼に映った強者3人に気を失いそうだった。この3人にはたとえ、全員が一致団結しても勝てない。逃げるしかない。
「ただでさえ、管理人との接触は避けたいのに~~」
夜弧は右手を自分の頭に翳して、ライラからもらったダメージを少し回復させた。そして、彼等から逃げる夜弧。敵わないし、目的とはそぐわないからだった。
「くっ…………管理人までおでましか。それも桂か……」
「ハーネットをその前に奪わなければいけないのに……最悪ですわね」
ブライアント・ワークスも顔色が悪くなる。ロイと春藍を見失い、奪還はほぼ不可能。そして、最悪なのは桂が口にしたように、ハーネットこと春藍慶介の抹殺。
それだけは困るが…………
「…………仕方ない!一旦、退くぞ!!」
「デュフフフフ。さすがにあの面々には敵わないな」
「とにかく、散りながら!」
五人はバラバラに逃げる。固まっていたら桂や蒲生に一網打尽にされるからだ。
人間達は当然逃げるものだった。だが、彼女だけは違っていた。無謀だって頭の利は言っていても感情はそれを飛び越えていた。
「桂ーーー!!あたしは、あんた達を殺すわよ!!!」
持てる魔力を全部放出し、雲の国を作るようなとにかく巨大な物を作り出した。ライラとの相性の良さから蒲生は手をくだそうと動いたが、桂がそれを止めた。
「拙者がライラを止める。蒲生と龍はハーネットを追え(場所は掴めてないが)。おそらく、あの場にいなかったロイと共に行動している可能性が高い」
「!良いのか?」
「下にいた連中は無視で良いのかよ?」
「ライラを止めた後、拙者が下にいた連中を追う。すぐ終わる」
バギイイィィッ
その言葉の後、桂は"雷光業火"の瞬間移動でライラの顔面に拳を叩きこんでいた。音が後からやってくるほどの衝撃はライラを向こう側の雲へと叩きつけた。
「うっ、くっ……………」
「拙者と戦うことが分かっているか?」
桂がライラと戦っているところを見て、蒲生と龍はロイを探しに向かった。
「!」
ライラの雲は桂を外に出さぬよう、周囲を覆い始めた。
「て、手加減かしら…………」
全力であったら即死であった。"超人"の一撃はライラにとっては致命傷であった。ライラは立ち上がり、痛みを味わっても同じ口を吐いた。
「春藍は殺させない……絶対に、殺させない」
「…………………」
「そうなったら、あたしは今まで何してたのって……また自問する」
ライラVS桂。
元々の実力差は浮き彫り。雲の上とはいえ、空中戦もこなせ接近戦では無類の強さを持っている桂に対して、ライラはいかに全力の力を尽くしても桂には敵わなかった。
彼女がいかなる技や、攻撃を仕掛けても桂にはまったく届かず。斬られ、殴られ続けた。躾のような暴力を浴びても、ライラの心は耐え切った。
「春藍……………」
「もういい。ライラ」
ベキイイィッ
だが、動けないように身体をボロボロにされてライラは倒れた。雲も徐々に薄れていく。痛めつけたライラを抱えながら、地上へと降り立った桂。
「ゆっくり休め」
命はとらずに木の横に彼女を寝かせてあげた。
また、ライラが怒りの中で守っていたのか分からないが。雲の上に置いていたトランクケースも桂が回収した。
そして、桂はすぐに"雷光業火"でブライアント・ワークスの五名を追いかけていった。3分ほど足止めされたが、そう遠くまでいけないだろう。"雷光業火"から逃げられる時間でもない。
桂は色んなところを駆け回って、発見したら即座に襲い掛かった。
「!!」
「きゃぁぁっ!」
ズパアアァッゥ
最初に見つけたのはヘット・グール。逃げている彼女の背を躊躇無く刀で真っ二つにした。周囲に飛び散る液体。
「む」
だが、ヘット・グールもただ逃げるだけが芸じゃない。無論、斬られることも芸ではない。
『くっ』
そして、ライラとは違う意味での覚悟を持っていた。
『勝てぬ相手と戦うならば時間を稼ぐのみ』
「お主、液体でできているのか?」
ヘット・グール
スタイル:科学
スタイル名:喰人
口に入れた物をなんでも消化できる胃袋型の科学。消化した異物は一定時間の間、ヘットに影響を与える。(例、水を飲むと身体を液体状態にすることができる)
また、身体の中に道具をしまうことができる。が、とんでもない体液が付着した状態なので汚い。
桂が出現したこともあって、ヘット・グールは水を飲んで自分の体に液体になれる力を宿した。桂が強力な拳、剣術を用いようと所詮は物理的な攻撃。受け流すことができる身体になれば倒れにくい。桂は液体化したヘット・グールに連続して襲い掛かる。刀に裂かれる液体だが、元に戻ろうと液体は動き始める。
「拙者の攻撃を無力化するか」
防御の策。生き延びる策。時間稼ぎの策。桂はヘット・グールの能力を推測する。
「どれだけの時間、どれだけの攻撃まで凌げる?」
『!!』
「痛みが分かるか知らないが。拙者の攻撃で無傷はない」
桂の読みは当たっていた。受け流せる身体になったとしても、ノーダメージはあり得ない。液体の身体をくっつけるだけでも重労働。身体が離れる感覚はとてつもない気色悪かった。
「それから拙者を甘く見すぎだ」
一つの水溜りに向けて集中する桂。抜刀と同時に水を斬り、細かい水分子をバラバラに切り刻んだ。見た者にはその場で蒸発させたと思わせる芸当。
『!!っあああぁっ!!?』
液体が気体になる。それはヘット・グールの能力外の出来事。液体の5分の一を気体にされたとはいえ、身体をそれだけ失ったこと。膝から下が吹っ飛んだようなことだ。
「次は全部消すぞ」
液体になっているヘット・グールに抵抗する術はなかった。桂の前では単なる悪足掻きでしかなかった。殺されるという瞬間。その瞬間が、時間稼ぎの覚悟を上回る恐怖だった。
自分には桂への対策があるという心の支えを失ったヘット・グールにとってはそこから先の時間が恐ろしくて悲鳴を上げたかった。声帯すら液体になっていれば誰にも届かない想い。
「!!」
桂が刀を抜くその瞬間。森を揺らして、彼の真上から襲い掛かる龍。その姿はまさに特攻だった。龍の牙と桂の刀が激しくぶつかり、桂が退くように吹っ飛んだ。
「むっ。龍だと…………」
魔物と思われる風貌であった。
『ナルア!』
「逃げろ!ヘット・グール!!桂は俺が抑える!!」
ナルアがヘット・グールの窮地を察知し、とてつもない速さでやってきた。桂にも、ヘット・グールにも聞こえる龍の声で叫び。
『待って!!』
ヘット・グールの声が生まれる前にナルアは桂に飛び掛った。彼女を守るため、この身体に全てを賭けた。




