歴史は答えるが、答えの解説はしてくれない
『私は"管理人"の研究をしているんだ』
『"管理人"ってのは俺達の王国にいる、ふんぞり返っている連中のことだろ?』
『それは一部でしかない』
『?』
ハーネットはある時、気の許せる強者とその仲間を自分の秘密基地に招待した。パイスー達にとってはそこは資料の溜まり場でしかなく、強者がいる部屋ではなかった。
『なんだよ、これ?』
『異世界のデータと、"無限牢"というシステムの解析だよ。とにかくゴチャゴチャしていてすまない。色んなデータをとっているんだ』
自分だけがここを使っていたため、人を招待する場には適さなかった。
『色々話すのも良いかと思ったけど、実演の方が手っ取り早いんだ。パイスー、ザラマ、梁河。とりあえず、この扉の向こうに行ってくれないか?』
『何かあるのか?』
パイスー達はハーネットに言われた通り、向こうの部屋に入った。だが、そこは何もなく。変わっていたのは星空のような壁紙だけであった。ハーネットもその中に入り、扉を守るように立って自分の能力の一つをパイスー達に話した。
『私は"超人"としての能力、"管理人同期"があるんだ。それに特別な力はほぼないよ、管理人が行える基本動作を扱えるというだけに過ぎない。向こうからしたら、私は管理人と思われるそうだけど』
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
『ハーネット。これは動いているのか?』
『ああ。今、マーティ・クロヴェルから別の世界に向かっている。物理的に動いているわけじゃないよ』
『それくらい分かるぜ。魔術の類の動きでもない……。しかし、こんな大層な装置はお前1人で作ったのか?』
『いや。これはこの世界とは違うところにいた管理人から譲られたんだ。研究しやすくなって助かったよ。最初の研究時はこいつと似た物を盗むことから始まったからね』
ガゴオオォォォンッ
『ついたよ。私が好きな世界だ』
ハーネットが扉を開ける。その向こう側は資料が溜まっていた部屋ではなく、綺麗な海を映していた海岸であった。唐突の移動にパイスー達3人は目が飛び出すほど驚いた表情を出した。
『ふふふ、まぁそうなるよね。外に出ようよ』
『お、おう』
パイスー達は初めて異世界の地を歩いた。歩きながら色々な話をハーネットから聞いた。悪い頭では、理解や正しさを考えるには大変であった。
それでも彼がやっていることに力を貸してやりたいと心から思えた。研究者と自ら名乗っているが、それは違う。どう違うか、……もうちょっと先で分かった。
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プッ…………プッ…………
ゆっくりと秒針が刻まれている。春藍が部屋に置いていたデジタル時計は正確に絶対の感度を持っていた。
生まれた日は覚えていても、その時間を覚えているのは珍しいことだろう。0時になったとしても、まだ春藍は19歳だった。
これは彼が20歳という年齢に到達した時にやってくることだった。もし、彼が20歳までに没する可能性もあった。状況が違っていたらその場で終わっていたかもしれない。それでも、そんな賭け事は安いものだとあの時のハーネットは思っていただろう。
プッ…………プッ…………
『私じゃない。君は、春藍が、世界の答えを聞けばいいんだ』
彼がここにやってきたのは全世界の裏側にいる存在。最終的に誰かが、"時代の支配者"と名付けた存在を捜し出すためでしかない。管理人、無限牢、RELIS、SDQ、かつての人類や生活、最悪最凶の戦争。人間が調べてはいけない事に踏み込んだ男はかつて管理人と戦った。自分が残した記録、管理人が隠していること、知らないこと、真実に近づいた者。
ウオオオォォォンッッ
その記録を受け取るに相応しい人物。伝えるべき人に出会える奴。
人間にも、管理人にも、色々いる。それぞれが自分の正義を持っている。抱えている。ちゃんとなるのか分からない。ハーネットは伝えるだけで精一杯、声はもうとうの昔に消えた。残ったわずかな魂とそれを記録した資料集。未来に届けるだけでその時の人間の力になって欲しいだけで精一杯。
だが、ハーネットの魂と資料を得るには彼をまず止める必要がある。
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『春藍という人物かな?』
"RELIS"の披検体でもあった彼は唯一。生まれる場所、時間、個体を選ぶことができた。運命を弄る程度の出来事。しかし、それ以外はできず。まさかこの個体がパイスー達と出会い、別れていたなんて知らない。
『なんでその名を?』
『色々あるけど…………。昔の人々の中に…………』
その個体が生まれ、時が来るその日まで彼は待ち続けていた。




