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RELIS  作者: 孤独
ハーネット編
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万歳したくなるほど嬉しい日と、吐き気がするほど追っ払いたい日を合わせ持っている日はどんな日だ~?

今日は3月28日だった。その日は別に特別な日ではない。それでも翌日に大事なことが控えていれば大切である。


「は、はぁっ!!?」

「いや、そうなんだ」


ライラは怒っているが、アレクは非常に冷静であった。


「な、なんでそんな事を今言うのよ!?」

「しょうがないだろう?俺に言うなよ。教えてやっただけありがたく思え」

「あたし初めて知ったわよ!!」

「俺は前から知っていたわけだが……あと、妹の謡歌も知っているな」

「あーーー、もぅぅっ…………」



帰ってきてからアレクから聞いた事。


「春藍が明日、誕生日なんて……………なんも用意できないし」

「…………ま、それでもいいんじゃないか?歳をとればそんな事をしても意味はないのだからな」

「年長者の言葉は重みがあるわね」


歳をとるほど、ハッピーバースディは恐ろしい。祝いのケーキや品が置かれなくなったのは、いつの頃からか思い出せなくなると、それはもう末期の年齢に差し掛かっている証拠。


「あたしは祝われたくないわね」

「………………俺はとっくに開き直った」


ハッピーバースディを祝ってやりたいと思うのは今年で最後かもとライラは感じている。自分もその、春藍やアレク……それどころか、桂にすら祝われた事はない。もうとっくに大人だからだ。

春藍も十分に大人になったが、このくらいの年齢にならば、祝ってやっても良いだろう。


「というか、あたし達。仲間なのにお互いの年齢や誕生日とか把握してないとか…………まぁ関係ないけどね」


忙しいのにイチイチ祝っていたら面倒である。ケーキなんてゴージャスにせず、市販のクッキーを渡してやるだけでいいはずだ。



「うーーん…………どんなのにしたら良いかしら?」


ライラは空いた自由時間でフォーワールドにあるお菓子のお店を訪れた。異世界から輸入されているケーキやらクッキーなどを眺める。あまり長くいると迷惑……ちゃっちゃっと決めよう。そう決意して、美味しそうなショートケーキを二つ購入。


「…………………」


で?これをどうやって渡せばいいのかしら?久々に戻ってきたからそのお土産だよー………って言ったら、気付かないでしょうし。あなたの誕生日から買ってあげたんだからねっとか……で、良いのかしら?じゃあ、今までなんでくれなかったの?って訊かれたらちょっとどうしよう。教えてくれなかったからって冷たい対応をしていいのかしら?


「うーん」


ケーキを購入するも、渡し方に困るライラ。そもそも戻って来てから春藍に会ってすらいない。もしかすると、この帰り道で会うかもしれない。そうしたらどうしよう。うっかり、ケーキを潰しちゃうかもしれない。


「!あれ?」


ライラは偶然、春藍を外で目撃。さらに、ロイも一緒にいた。あの2人は今、師弟のような関係であることはライラも知っている。そそくさと隠れてロイと春藍の会話の様子を覗くライラ。


「春藍ー。お前、もっと早く言えよーー!」

「な、なにを?」

「お前、明日誕生日なんだろ?」

「!……3月29日…………う、うん。僕の誕生日だよ」



ロイもアレクや謡歌からこの話を聞いた。そして、急いでプレゼントを用意した。というか、いつかは渡してあげたいものだった。


「まぁ、明日になる時にこれを使うんだな。俺から前祝いだ」

「?…………ほ、本?」

「使ってこそ、俺のプレゼントになる。しっかりと大人になるんだな」

「あ、ありがとう」



カバーは剥がれており、本の表紙が見えたライラ。とんでもなく如何わしい。あれ、完全に


「エロ本じゃない!!」


って心の中で強く言ったライラ。口をあんぐり開けている。春藍はロイの言葉を聞かず、試しにその本を開いて軽く読んで、気持ちをロイに伝えた。


「読めばいいんだよね?でも、これって文字が少ないね。女性の身体ばかりだし。読み応えがちょっと物足りないかな?」


エロ本をプレゼントする方もちょっと変であるが、もらっておいてその対応は絶対におかしい。ロイは春藍の言葉を誤って解釈……いや、ワザと思っているのか分からないが、……。


「そー言うと思ってたぜ、それはまだ1巻だ。俺はそのシリーズを10巻まで持っている。これを丸ごとプレゼントしてやる。勉強になるぜ」

「あ、ありがと……でも、どんな勉強になるの?女性の身体しか分からない気がするよ」


春藍の両手に10冊分の本が渡される。それも全部カバーが剥がれている。しかも、使用されていた形跡もある。話の内容を聞かなかったら、完全に春藍もロイレベルの変態である。エロ本、一冊じゃ足りないからって10冊ももらうとはつわものである。


「……あの、ロイ」

「なんだ?」



ここでロイも、ライラも想像を超えた言葉を春藍から聞くこととなる。


「僕は文庫本の方が好きだから、ロイがこーゆう感じの話ので、文庫本になっている物があれば貸してくれないかな?そっちが僕は合うかも」

「な、なにぃぃぃっ!!?」

「ええぇぇっ!!?」


またさらに要求。写真や絵じゃなく、小説を持って来いと言っている。しかも、手に持っている本がどんな本か、超勘違いしている。エロ本を持っていてエロ本と感じていない。


「つ、つまり。官能小説が希望というのか…………」

「か、かんのー?……こーゆう本ってそーゆうジャンルなんだ」


知らないジャンルに出会えて嬉しそうな顔をしている春藍。遠くから見るとエロ本もらって喜んでいる男にしか見えない。


「わ、分かった。俺も持っている。明日、持ってきてやるから楽しみにしてろ。今日はその10冊で我慢しろ」

「うん、楽しみしてる。寝る前にこの10冊、読んじゃうからさ」

「お前はそんなに早く使ってしまうのか!!?」

「?まぁ、10冊でもこんな文量じゃ、すぐに読み切っちゃうよ」

「天然でそう言える男はお前くらいだ。すげー、変態だぜ。俺とは別ベクトルで」



ロイは春藍の誕生日にエロ本10冊と官能小説もプレゼントすることになる。春藍はもらったプレゼントを家に持って帰ろうとしていて、ライラも春藍に気付かれないように彼の後ろをついていく。

でも、家まで入れないから外で待機。プレゼントを渡す機会を伺っているが、さっきの展開で渡したくても渡せなくなった。なんか、男が男にするプレゼントは女のプレゼントより愛以上の何かを詰めているような気がする。本能を揺さぶるプレゼントって感じだ。エロ本とケーキどっちがプレゼントされると良い?って聞かれたら、長年使える冷蔵庫のような消耗品の方が良いのかもしれない。


「と、というか。春藍はそーゆう気があるような…………!」


待っていると今度はアレクが春藍の家の扉をノックしていた。


「!アレクさん」

「おう。俺も少し早いがお前にプレゼントを渡そうと思っていてな」

「プレゼント……えっと、それって…………」

「明日が春藍の誕生日だろう。丁度良いプレゼントができたから、すぐに持ってきた。技術開発局が作り出した、一大プロジェクトだ」


春藍とライラはアレクの横にいる人物に目をやった。フォーワールドに何度も足を運んでいるが、あんなに若い女性を見た事はない。動く口は少しぎこちなく、声はとても機械らしい音であった。



『一日早いですが、お誕生日、おめでとうございます。初めまして、NM_Hと申します』

「!…………こ、この方は…………」

『驚きましたか?私はここの技術開発局で開発された者です。この手、この足、この声。まだまだ改良されることですが、いずれは人間様と同じだけの再現になることを目標としています』

「す、凄い!!ここまで技術があったなんて、……僕、初めて知りました!!」



春藍はただただ嬉しいという気持ちを一杯にして、NM_Hの手をギュッと握った。その手は"科学"とは思えないほど温かくて、それだけで春藍は感動して大胆にも、NM_Hに言葉を通すこともせずに彼女に抱きついた。


「うわぁ、凄い!これは細胞から生み出す生物学の方じゃなく、この方こそ本当の芸術です。香りもするし、柔らかいし、声もちゃんと出ていて、体がとても温かくて、こんなにも感情が詰まっているなんて。感動します!」

『ありがとうございます。沢山の言葉に私も心の中で、感動を示しています』



ライラからしたら唐突に女性に抱きついて、意味不明な口説きを言っている春藍が変態でしかない。心の中で何かが、プチンっと切れてしまった。今は持っていたケーキをこのままにしなければいけない。ライラは春藍に声を掛けて近づく。



「は~る~あ~いー」

「!ライラ!見て、触ってみてよ!この方は…………」

「まだお誕生日には早いけど…………、あたしからのプレゼントと」



ケーキが入った箱ごとまるごと、



「死ね!!この変態!!!」



春藍に剛速球で投げ込まれた。ライラはやり終えた後、思い切って走ってこの場から逃げ出した。




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