春藍達の現在
フォーワールド。
黒リリスの一団の襲来から5年という月日が経った。
経済的にもかつて以上のものを取り戻し、科学の最先端を突っ走り、様々な文化交流が行われるようになった。
あの時、子供であった者達が徐々に大人となっていった。
潰されてしまった技術開発局はさらに大きくなって存在し、住宅タワーはさらに改築工事が行われ、さらなる人口増加に対応する形となった。運送会社や料理の専門店、運動ジムなど様々な会社もできてきた。
かつてのフォーワールドよりも、充実感を人々は感じ取っていた。心の中に隠していた、してみたい事をやれる環境ができた。
「やぁっ!」
春藍は1年の引き篭もり生活を経てから体力作りに専念した。
「まだ甘い!それでは自分より大きい相手に通じないぞ!!」
「は、はい!!」
ロイが春藍の師匠となって身体作りの基礎を教えていた。あれから体重が増えて、パワーと体力は以前とは比べ物にならないほど手にした。そして、力に対する自信も生まれたのが良い傾向であった。
「身長……あんまり伸びません」
「それはきっと遺伝かもしれないな。俺やアレクに比べたら小さすぎるが、男で立派な体力はもう十分についたと思うぜ。常人以上超人未満ってところか?」
ちょっと身長が伸びず、顔もそんなにロイ達のようなカッコよさにならない。
「お前は殴るや蹴りより、投げるとか締めるといった技に向いている」
「……………殴るのにはまだ抵抗があります」
「ははは、ならもうこれ以上の力を求めるのは止めておけ、技を磨けよ」
ロイも春藍の成長には感心しており、もう教えられる事はないくらいのものだった。
「!……ロイ。もうすぐ時間だから、今日はここまででいい?」
「おう。行って来いよ!」
午前中はロイに身体を鍛えられる。午後は研究所の方でアレク達と合流する。かなり多忙な生活を送っている。
「お、おまたせしました」
「来たか春藍。今日も研究だ」
3年前にフォーワールドには技術開発局の他にアーライアにある"SDQ"を研究する施設が建築され、"虹を呼ぶ足音"(フューチャー・プロダクション)と命名されたチームが出来上がり、"SDQ"の研究を日夜行うことになった。
アレクは技術開発局の主任であり、この"虹を呼ぶ足音"のトップも勤める。二束の草鞋はかなりキツイため、技術開発局の方には後継者を立てようとしているが、アレクの後などやれる人物は早々いない。
アレクは最近、この"虹を呼ぶ足音"の研究所に篭りきりのようだ。
「うーむっ…………」
"SDQ"の入手は可能であったが、一歩間違えばこのフォーワールドが潰れてしまうかもしれないため、管理人が今まで記録したデータを元に疑似的な存在を作り出して、研究している。アレクの科学力はそこまで辿り着いたのだが、まだまだ足りないと本人は思っているようだ。あの複数の性質を持っている物は再現できない。
ここの研究所を利用している者達は、アレクが認めている科学者や技術者達である。管理人達にとっても研究は秘密にされている存在であるため、大人数は動員できない。
「うーむ……………」
悩みの日々が続いている。"SDQ"はまだ謎ばかり………。
「ライラに連絡を入れるか」
今、ライラはこのフォーワールドにはいない。この研究所ができてから研究に必要な資源の調達のため、色んな異世界を回っているからだ。彼女は回りながら新たな協力者を募っており、腕も立つ者が30人以上も集まったそうだ。
向かう場所や資源の量によって、ロイもライラと一緒に同行する事もある。だが、春藍は研究者としてアレクが近くにいて欲しいという理由でフォーワールドに留まっている。あれから一度も異世界に行ったことはない。
ライラはきっと自分のやるべき事をやっていると知っているけど、なかなか会えないから春藍は時々不安になっている。怪我をして帰ってくることもあるから、傍にいたかった。
アレクは管理人のクロネアに、ライラに戻ってくるよう伝える。彼女が今いる世界の管理人にクロネアが伝える手筈になっている。少し不便ではあるが、"無限牢"というシステムがあるため、簡易に連絡を伝える手段はない。
こちらからの連絡はライラには半日後ほどで届く。
「アレクから?」
「至急戻って欲しいとのことです。次の指示があるそうです」
「はいはい、分かったわよ。人使い荒い奴だわね」
ライラも成長している。とはいえ、身体の大きさは五年前と少しも変わらない。髪型もいつものクラゲと思われる髪型。
ライラはおそらく、……自分の全盛期が今と感じている。体内にある魔力の量と質が飽和に近く、4人の中でもっとも戦場にいて、生き抜きながら勝利を積み重ね、必要と言われる存在を全てアレク達に届けた。
フォーワールドに帰還したら、傷口を春藍に縫ってもらって消してもらう。これがなければ全身傷だらけの女性になって可愛くなくなる。(年齢的にはあのですね……)
フォーワールドを離れたのは3週間ほど。春藍達とは3週間ぶり……。
「元気にしているかしら?」
いつも帰ってきて、治療を受けながら彼に旅の出来事を話してあげている。一緒に連れて行けないから、とても楽しい話をして彼の心を少しでも晴らしたかったから……。