~息抜き~⑨
楽しそうな顔は一度もできなかった。祭は始まる前が一番楽しいと思う。でも、それができなかったのは彼等の働かせ方が、ちゃんとした労働であったことだろう。
ピッ
アレクはヒタスの"支配拳"を拒否して動いていた。あの時一日眠り、食事もとれば十分だったからだ。しかし、疲れていた。祭をこれからやるというのに元気がなければお客に悪いものだ。そこで借りたのは春藍が持っていた"Rio"であった。
「うーむ…………」
いくつかのスピーカーと接続させ、フォーワールド全体に響くように音楽をかけた。"Rio"を用いた音楽は精神状態に影響を与え、心を若干元気にさせてくれる曲を選んで流した。また、"ゴールゥン"から届いた色んなグループの新曲もいずれ流す予定になっているそうだ。
「いやー…………ようやく始まりましたね」
「人が何人も死にかけたぞ」
「でも、まだですよ。ここで売り込まなければ成功しません。スタートラインに立っただけです」
クロネアはスーツに着替えて本当の営業スタイルをみせる。
会場はフォーワールドであり、メインの出展はフォーワールドであるが、他の異世界の方々も出展し、見に来てくれている。
「うむ。これは随分とすごいものを用意したのだな。あれからここまで復興を遂げたのか」
「アタイの洋服ブースもバッチリできているってのー」
「おおっ、まだまだ楽しめそー!!ずっと遊んでいいか、グルメ!!」
桂とリップル相馬、龍という管理人の要が三人も参加。彼等の影響力は大きい。
「このドーナッツ美味しい」
「……新橋さん。なんであなたは背中を地面につけて移動しているんですか?お客様に超迷惑ですよ。汚れないですけど、汚れますから」
「ヒタス様は見飽きたっての」
グルメーダ、ヒタス。それだけでなく、なんと新橋(012) ~ ハイデルモット(019)までの管理人達全員の招集に成功。
彼等の参加で他の管理人達も付き添いなり、個人的に参加の意志を見せてくれた。初日、集まった者達は10万人以上を記録した。いろいろなトラブルが起こったが、それはそれで対応していった。
「こちら農業に特化した"科学"の展示物です!」
「最新の釣り道具でーす!こちらは船になりまーす!」
「新しいレシピできましたー!召し上がってくださーい!」
"月本"ほどではないが、確かな商業都市を生み出していた。色々な異世界の交流。
「クロネアの提案だが……人々がこれほど集まったことはないだろうな」
桂はお茶を一杯頼み、龍と話していた。
「"月本"では"管理人"が営業することが多かった。別世界にいる人間達がこう協力しあったのは初めてだろうな」
「ほ~~、そうなの?楽しいから俺は細かいことは気にしないぜ!」
「…………お前より朴か、蒲生の方が良かったな」
「なんだよー。力不足とでも言いたいのかよー。!……なんだ、あの綿飴!食べに行こうぜー!桂!」
「……子供の相手は大変だ。金は持っているのか?さっきから色々買いすぎだぞ、龍」
アルルエラなどの料理も好評であり、料理教室まで開かれて技術革新に繫がった。未来の戦士達と称された子供達の相撲大会も行われ、未来の希望もみれた。
如何わしいが、ロイの女をオトすテクニック講座などもあったりしていた。
とにかく祭であるため、人々は大いに働いて、大いに遊んで、大いに笑えた。
「ありがとうございます」
「いやいや、ここまでフォーワールドが再建していたとは知らなかった」
「また、よろしくお願いするよ」
「はい!」
クロネアはこの博覧会をきっかけにフォーワールドの科学力がまた証明され、多くの営業を勝ち取った。それは再び、フォーワールドの生活が戻れる以上のこと。
パァーーーーーン パァーーーーーン
「お、花火!」
「久々に見たー」
吉原の花火職人達がこの日のために多くの打ち上げ花火を提供してくれた。夜空に浮かんだ花火を皆が見つめた。綺麗な花火にも酔いしれ、生き残った喜びとは違う。
「いやー、綺麗な花火だな」
生きていて良かったという気持ちを生んでくれた。人間がまた少し進んだ感じを抱けた。
そして、その時。
「じゃあ、行くよ…………」
「ええ」
ガチャアァッ
今まで出られなかった春藍とライラが、新しい服を着て部屋から飛び出した。部屋から出てもまだ外の景色は見えない。ライラは春藍の手を引っ張りながら前を走って、この建物の外に飛び出そうとしていた。
「は、春藍が外に出てる!」
「ラ、ライラちゃんも!」
人々も噂だったり、話を聞いたりで2人の様子を知っていた。その2人が髪も服も綺麗になって飛び出して走っていることには驚いていた。春藍とライラは走りながら、今までごめんって言いながらすれ違う人々を抜いていく。
バァァンッ
外への扉を開けて
「わー………祭でもやっているのかしら」
「わかんないけど……凄くその…………綺麗な景色だね」
「ええ。"ピサロ"で空に行くわよ。手を繋いで」
「いや、掴んでるんじゃん」
「あ、そうだった」
春藍とライラの足元から雲が湧いてきて、一気に空へと打ち上がる。上空から新しいフォーワールドを見た。2人共、新たな世界を目撃した。
「こんなにも変わったんだ…………凄いなぁ……」
特別に博覧会を行っていることもあるが、住宅タワーなんてものは昔はなかった。あれだけボロボロになった土地がどこにも見当たらない。とんでもないスピードで再現じゃなくて、新興が起きていた。
「世界は変われるんだ……」
自分は自分のことだけで手一杯で凄く悔しい気持ちになった。でも、それよりも凄く。希望があるんだって分かった。
「春藍とあたしが変われるんだから、当たり前のことよ。変化のないことなんてないわよ」
「…………うん……」
空からフォーワールドの様子を見下ろしていた。それはとても高くて、自分達だけがこの場所にいて。この高さくらいの差、地上にいる人々に遅れをとっているようだった。
「あたし達も頑張りましょ」
ずーっと一緒にいるわけだけど。あの日みたいじゃなくなる。むしろ、そーでなければいけない。同じ部屋で男女ニートなんて許してたまるか。ライラと春藍は特に気持ちがあったわけじゃないと思っていたけど、……お別れの意味をこめての口付けをした。
チュッ
「これから、あたし達は仲間だからね!」
「………うん!また仲間だよね!」
春藍…………およそ、一年ぶりに復活を果たした。
だが、物語はこれからさらに四年後に進展するのだった。
奴の再来が、再び世界を大きく揺らした。