~息抜き~⑧
博覧会開催まで13日。クロネアが頼み込んだ助っ人達がやってきた。
「人間としてはこの手の行事は成功させた方が良いのですよ」
「そうなのか……。ま、俺は祭が好きだから来ただけどな。蒲生のおっさんも呼べば良かったのによ」
「あの人を呼んだら会場が壊れますよ……」
管理人、龍とその弟子兼部下であるグルメーダ・ロンツェ。そして、
「新入りの初仕事はどんな気分だ。なー、ヒタス」
「……かっ。なーんでヒタス様がこんなかったりぃのに参加しなきゃいけねぇんだ?」
管理人ヒタスも呼ばれた(グルメーダに連れて来られた)。
「私があなた方、管理人のトップになりましたからね」
「人間に指示されたくねぇーぞ!!この野郎、ヒタス様の"支配拳"で操ってやるからな!!」
「!おっと」
ヒタス
スタイル:超人
スタイル名:支配拳
殴った対象物を一定時間支配する事ができる能力。全身を殴りつければ相手を完全に操ることができる。
思いっきりヒタスはグルメーダを殴り飛ばし、身体を支配してやろうとするが…………上手くいかない。
「痛いですね~……腰にきますね」
「!な、なんでテメェはヒタス様の"支配拳"が効かねぇ!?」
「おい、ヒタス。次、グルメを殴ったら俺が処刑するぞ。…………いいじゃんか。祭は楽しいものだから、準備も盛り上げようぜ」
脅しも込めて龍は楽しそうな顔をしている。ヒタスはさすがに龍との戦いは避けたいため、渋々後ろについていく。グルメーダも殴られて痛い顔をしているが、平然と歩いている。超人の拳を浴びれば骨折にできそうな細身のはずでも…………我慢とは違う何かの理由でグルメーダには効いていない。
「おーい、来てやったぞ。喜ぶが良い~」
「……龍管理人。彼等はどうやら疲労で寝ているみたいですよ」
「死んでそうだな、ここらへんの人間共は……」
やってきた3人だが、人間やクロネア達は疲れのあまり倒れたまま。
「ヒタス様の"支配拳"で操ってやるか?」
「まぁまぁ、ここは龍管理人の方が向いています。ねぇ?」
「おぉぉ~い。しょーーーがないなぁ。頼られちゃやっちゃうぜー」
とても嬉しそうな顔をしている龍。頼りにされているからだろう。龍は"ラ・ゾーラ"の空間をかなり引き伸ばした。この空間内にいる生き物はおそらく生きた心地がしないだろう。"ラ・ゾーラ"の間合いに入ったら龍の思うが侭に能力が炸裂する。
「"イッツウピンフツモ裏ドラ1飜"」
感覚を自由にぶっとばすことができる"ラ・ゾーラ"は視覚や聴覚のような、代表される五感だけに効果があるものではない。
今回使用した力は、生命体にある"疲労感"をぶっ飛ばす力。
「………ううっっ」
「ん?……んん」
「つ、疲れが消えていく…………」
使い方次第では回復役にも回れる龍。だが、"ラ・ゾーラ"の空間外に出れば蓄積していた疲労がまた襲い掛かる。
「龍管理人、来ていただいてありがとうございます」
「俺のこと頼ってくれてんだろ。いつでも相談に乗るぜ。それが大人だもんな」
「は、ははは………………」
"ラ・ゾーラ"の空間はそこまで広くはない。全員の疲労がとれても、仕事ができる状態にあらず。
「ありがとうございます。グルメさん。お二方を呼んでいただいて」
「別に師匠とその部下だから」
「ヒタス様はテメェの部下になった憶えはねぇ!つーか、そこの雑魚。ヒタス様になんの用だ!?」
ヒタスはとても嫌そうな顔でクロネアを睨んだ。
「あなたの"支配拳"の力を貸して欲しい。治療や休息する暇がない。ここにいる人々を20日間は眠りも食事も必要ない状態にして欲しい」
「あ~~~?テメェ、正気か?麻酔をぶち込めってことか?人間にもさせるのか?死ぬぞ」
「死にません。手も打ちますし、あなたがそうさせないはずですから」
クロネアもヒタスの眼力に負けない目つきで睨み返して言った。
「そんなになりたきゃ、ヒタス様がさせてやるよ。死んだら後釜をちゃんと捜せよな!!」
ヒタスはクロネアの頭を両手で叩いた。たったこれだけで"支配拳"は完了。今、クロネアの身体が持っている異常事態はヒタスが全て支配した。クロネアは感じることもできない。
試しにクロネアは思いっきり走って龍の"ラ・ゾーラ"の空間から出た…………本来、襲われるべき疲労をまったく感じない。
「…………ふふ、ありがとうございます。じゃあ、残りの方々にもその技を使ってください。これでみんな働けます」
「狂った野郎だな」
この技はヒタスが拷問するために生み出した物。それを利用するクロネアはとにかく、良い意味で狂った奴だった。
「……………あれ?もしかして、ヒタスの方が大事だった?」
「今さらですか、龍管理人」
「なんでだよー!"ラ・ゾーラ"凄いじゃん!!」
「空間内でしか効果が適用されないってのも、少々限定がきついですよ」
龍とグルメーダ、ヒタスはクロネア達の作業をずーっと見学していた。勉強になると関心しながらメモをとるグルメーダ、見学に飽きてきたヒタスはどこかで眠っていて、龍は銭湯で泳いだりしていて愉しんでいた。
20日間も眠らずに食事もいらなくなった者達が本気で頑張って、博覧会の準備をしている。その中、仕事以外の言葉を発しなくなった。倒れることはなくなったが、ボーっと意識が遠のきそうだった。
「ううぅ……………」
「えーっと…………」
疲労は感じなくされても身体の違和感に人々は気付く。立つことすらままならない者も現れ始めた。生きるために死ぬような苦痛を味わう人々。
働くの度が超えている。働かされる度も越えている。こんな矛盾を味わうのも労働。博覧会はとうとう迫ってきた。