~息抜き~⑦
『このワタクシにもう一回、人生をくれないのですか?』
「え?」
またこの時がきた。
春藍は彼女の声に怯えていて……でも、少しだけ言えるだけの気持ちを持てた。
「僕は…………」
救えなかった事実がまた心を潰そうとしていた。
「リアに人生を与えられないから……悲しいんだ」
『………………』
「怒っているよね?僕が……僕じゃ力にもなれなくて……………」
『………………』
「許してなんて言えるわけない」
『………………』
「生きていたら………ううん。……リアは言っていたよね?」
『なにかしら?』
「世界を救っても、……救った後、どーゆう世界になって欲しいか。リアと出会えたから言えるんだ。……生まれた瞬間のように泣いて喜べる世界にしないのでしょうか?そう言っていたよね?……僕はこれから先、良い世界になっていくことを目標にするよ」
『……そう…………あなたはそうやって』
「優しいっていうのかな?」
『優しく居続けているのですね…………』
リアは寂しい顔をして消えていった。どう思っているのか、夢の中じゃ分からない。きっと悔しさばかりだろう。もし会えるならどう感じているのか訊いてみたかった。
「待たせたね、ネセリア」
『え?』
「リアの後にいつもネセリアは出てくるね…………いつもごめん……」
『う、ううん。……いいの。私……………』
「……………………」
『……………………』
「ネセリアの分まで生きるだけしか僕にはできないんだ」
『……それでも良いよ。私、みんなが元気だったら全然良いから』
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「博覧会だと?」
「はい。私共がこれから行うことは多くの異文化の交流です。かつての人類達もそのように世界中の技術を結集して庶民達に広め、経済を回復させたとあります」
クロネアはPRに奔走していた。
「多くの技術が交流することでお互いの異世界の改善や、振興に繫がる事を込めて開催致します。多くの世界のバランスが不安定になっているこの状況を打破するにも、この博覧会は成功させたいのです」
山佐の観光業の言葉をヒントにクロネアが立ち上げたのは多くの異世界の文化交流。
"無限牢"というシステムができてから、複数の文化が入り混じった博覧会のような一度も起こったことはない。
「人類だけではなく、管理人の皆様にも来ていただきたい。この博覧会には"人の歩み"をテーマに開催したい。人間を管理している我々は常に人間のことを知らなければいけない!」
沢山の言葉と声を掛けて、クロネアは多くの異世界から借金をした。そのお金は一瞬で、フォーワールドの再建と博覧会の建設に溶けていった。その借金の倍以上の資金や功績、職を生み出すために再び管理人達や、その世界の主要の人類に声をかける。
もちろん、クロネアは技術を売りつけるつもりはない。あくまで技術を見せて関心を持ってもらうためである。とにかく、人数を集めて情報を広めていく。
集客こそが第一であった。
そんなクロネアの博覧会企画にアレクとヒュール、広東、山佐等は急ピッチで設備を建てていく。
「これはここに建てろー!」
「従業員の教育を行いますぞ!」
ドタバタしながら24時間以上も働き続けて準備を進めていく。
「おーい、アレク」
「なんだラッシ!!?」
タバコを吸っているところに話しかけられてキレるアレク。
「また異世界の管理人が来た。新たにブースを設けてくれよ」
「なにーーー!!?また増えるのかよ!!?クロネア!!ちゃんと伝えろーー!」
クロネアは自分達フォーワールドだけでなく、別の異世界の商品宣伝もPR項目に入れていた。簡単に彼がやりたいことは1週間ほど、フォーワールドを商業市場街"月本"のように変えてしまおうということだ。
月本が無くて困っている管理人達も確かにおり、そのスペアプランの計画が完成する見通しはまだ先のことである。
とはいえ、フォーワールドがたった数週間の準備期間で月本のような商業都市にするのは無理難題過ぎる。接客業を経験している者などロクにおらず、ブースの準備も忙しい。失敗するんじゃないか?と思われるが、
「失敗したらお前等死ぬぞ!!!」
クロネア。恐喝。
失敗は許されない。アレク達も、クロネアも許されない。それがこの世界の情勢であった。
「ううぅっ」
「もう限界です~」
山佐や広東達も倒れるほどの忙しさ。無論、働く者達も倒れてしまう。とんでもない急ピッチで肉体がついていけない。開催前に死者が出そうであった。
「み、み、皆様……休憩しましょう」
「め、飯を用意していたぞ」
アルルエラとロイが働く人々に食事を提供する。食事はオニギリ3つと麦茶のみ。家は全員が持っているが、帰れないという悲惨さ。
「今日はここで寝よう」
「そうっすね」
戦争が終わってから外で寝たような光景がここ数日当たり前だった。……悲惨具合は今日の方が酷いかもしれない。身体に疲れがドッと入っているのだ。物理的に肉体が動かなくなるかもしれない。
恐るべき社蓄生活。そして、その社蓄をこき使う悪徳社長。会社の下を支えるのは社蓄であり、人間ではない。また会社の頂点もまた人間ではない鬼と化した社長である。どちらにも権利も法律も存在していない。
「ぐーーっ……………」
「すーっ………」
働く者達は眠った……動けないんだと、訴えるようにその場で眠った…………。アレクもヒュールも、ロイも、アルルエラも…………全員卒倒。まだ半分も到達していない会場作りや展示物の作成、イベント練習、接客スキル…………。無理としか言えない日程表にパンクした姿達。悪い会社には勤めたくないものだ。
社会は狂っている………………。
「…………どっかで感じたな…………」
管理人ラッシは星を見ながら、死にそうな顔でも目を開けていた。働き過ぎて心が熱くなったまま
「お、おや……起きてましたか、ラッシ」
「!ク、クロネア……お前…………大量殺人者として、処刑するぞ……………」
「まぁ落ち着いてください」
沢山の世界を回ってPRを終えて戻ってきたクロネアもまた、死にそうな顔をしていた。肉体的な疲れもそうだし、PRと書けば聞こえは良いかもしれんが、そのほとんどがやっぱり飛び込み営業である。自分の管理人ナンバーが更新されていた事を利用し、権力も使ったりしたが罵声も飛び交った。精神的にも疲れていた。それでも、やり遂げた。
「開催は2週間後……。多くの管理人や異世界が参加してくれることが決まりました」
「ち、近すぎだろ…………用意できるわけねぇ」
「ふふふ、普通でしたらね……。大丈夫です、助っ人を用意しました」
「なに?」
「明日来てくれます………………そこまで私はしましたから……寝ます」
クロネアもラッシと一緒になって睡眠に入る。社蓄にとって寝るという行為は幸せのようだが、時間を潰すという行為に繫がる。危険なのだ、薬を打ってでも仕事をしなければいけない。死んで良いから仕事をしなければいけないのだ。
「すー………すー………」
「かー………かー………」
それでも寝る。だって社蓄じゃねぇもん、コイツ等。人間と管理人だもん。