~息抜き~④
ジャーーーーーーーー
またしても、なんていうか。風呂場のお話である。別にネタに困ったというわけではない。
「ふーーぅっ…………」
ライラは初めてシャワーというのを使ってみた。温度は自由自在に調整でき、穴がいくつも空いたホースから流れ出るお湯はとても温かく、身体のいろんなところに当てられるこれは非常に良かった。便利な物を開発する。
しかし、本当だったら…………
「ネセリアもいたのよね……」
約束を思い出した……。だが、今こうしてやってみると変な約束であったと分かる。だが、約束したことが大事であり、ネセリアがいなくなった今。こーやって1人でお風呂なり、シャワーを浴びていると寂しさをまた痛感するライラ。
春藍と同じく、ライラも彼女がいなくなったショックが振り切れない。
キュッ…………
「あたしももっと強くならないと……」
シャワーを浴びてリラックスできたライラ…………。春藍の心配もしつつ、自分も強くなろうとまた決心する。
……………そんな日からいくつかの時間が経っていた。そのある日のこと。
春藍は少しずつだが、ライラと会話ができるようになってきた。錯乱する回数や時間も徐々に減ってきた。それはたぶん、リアとネセリアの記憶なり記録が欠如していったからだろう。でも、春藍の表情が少し明るくなることにライラも喜びを感じていた。
ジャーーーーーーーー…………キュゥッ…………
「?あら…………」
シャワーを使っていたライラ。スイッチを入れているのだが、……シャワーが流れなくなった。ライラなりにいじってみるが、まったく反応しない
「???どーなってんの?}
ペチペチ叩いてみるが、それでも反応しない。当たり前であるが……。仕方なく、ライラはシャワーを浴びることを止めて、シャツなどを着て出た。
「んー」
どーして壊れたのか分からない。科学分野には知識がない。ライラはちょっと悪い顔をしながら、春藍の肩を叩いてお願いをしてみる。
「は、春藍…………」
「!……な、なに…………」
「あ、あの……。なんか分からないんだけど、……シャワーが動かないんだけど。な、直してくれない?」
家事全般をやってきたライラであるが、この手の修理はお手上げ。アレクを呼ぶわけにもいかないだろうと感じ、科学に詳しい春藍に頼み込んだ。こーなってから春藍はあまり自ら行動をとらなくなった。望みはちょっと薄いかもと思っていたが、
「…………ぼ、僕にできるなら……見るだけね」
「!ホ、ホント!?」
「いつもライラに……迷惑をかけてるから」
春藍はゆっくりと立ち上がって、"創意工夫"を装着してお風呂場に向かう。ライラも一緒についてきて、春藍の作業を見守る。
「うんっと……」
「あ、工具とかやっぱり必要?」
「だ、大丈夫……"創意工夫"で補えると思うから」
「そう。なら良かった……」
春藍は止まったシャワーの原因を調べる。製造したのはアレクさんだと思っていたからミスはないと春藍は思っている。
「うーん…………!」
調べた結果、部品の劣化(元々、不良品?)で機能しなかったようだ。部品交換が必要だと分かり、
「ライラ。なんでも良いから、要らない金属はない?」
「!……えっと……フォークとかスプーンでもいい?」
「うん。大丈夫だよ」
ライラは春藍に言われた通り、スプーンなどの金属類を持ってきた。春藍はスプーンなどを改造し始め、シャワーの部品に換えてあげる。
「うん。これで大丈夫!」
「ほ、ホント」
「やってみなよ」
ライラは春藍の言葉に意気揚々とシャワーのスイッチを押す。だが、シャワーの噴射口の向きは丁度ライラの方に向けられていた。いちお単なる偶然である。
ジャーーーーーー
「きゃっ」
「わぁっ!?」
せっかく着替えたのにまた服がずぶ濡れ。しかも着替えたばかりであるため、ブラなどもしておらず透け透けであれであった。
キュゥッ
「!」
「…………ははは」
「わ、笑わないでよ」
シャワーを止めたが、ライラは顔も服もかなり濡れて……身体を見られてシャワーの温度以上に顔を赤くしているようだ。いつもみたいに殴られるのかと思った春藍だが、ライラは濡れた胸を隠しながらお礼をした
「あ、あ、ありがとね。シャワーを直してくれて。ありがと……」
「う、うん…………」
「……………」
「……ラ、ライラ…………」
春藍は濡れているか心配している顔で見ていた。こーゆうところが、本気で天然で思っており男っぽくない。
ライラは普通この時、「後ろ向け!!」とか「出ていきなさい!!」とか「見るなー!!」などの言葉を使ったり、問答無用で殴るとかするのだが…………。2人で生活するようになったはいいが、結構無言でいることが多くて……。今を逃すとギクシャクするのか。熱くなっていた表情も徐々に冷えていった。
「は、春藍。……ちょっと………さ」
「う、うん……」
「またお願いしちゃうけど……その」
「うん」
ちょっと違うライラを見れた春藍…………。彼女のイメージはとても強い人だって思いこんでいた。
「あ、あたしね……まだね。…………ネセリアが死んじゃっているのを引き摺ってるの」
「…………………」
「春藍と同じで受け入れられないの。どうしていなくなっちゃったのか」
ライラの顔がもっと濡れ始めた。きっと、それはシャワーの水だと思ってみる。
「と、友達だったから。……ずっと、いると思ってたから」
「ラ、ライラ……」
「まだ、……まだ、一緒にネセリアと……いたかったし。ど、どこかに連れていかせたかったし…………悲しくて……」
ライラの顔からどんどん水が落ちていって、悲しい声を出していて。春藍もそれに感化されて涙がこぼれてきた。
「ごめん。ごめんなさい……あたし。あなたの足も守れなかったし……ネセリアも……ネセリアも……守れなかった」
ライラは春藍の身体に飛び込んで沢山泣いて、泣いて、叫んだ。
「あたし。あたし……何ができるのか、……分からなくなっちゃって。分かんないのに、何をすれば良いか分かんないのに…………春藍も、こんなに傷付いているのに…………」
「ライラ…………」
春藍は飛び込んできたライラを自然に腕で掴んでいた。でも、ライラはそれに抵抗しないでずーっと泣いて、心の中に溜めていた苦しみを春藍にぶつけた。
「今日。……あたしが泣いていていい?」
「……うん」
「な、何を言っても良い?」
「うん、僕で良ければ…………」
「ひぅっ……ありがとう」
春藍は自分だけが苦しんでいたと勘違いしていた。自分だけのせいだと思っていた。でも、今。ライラが本当の心を開いてくれたから、自分が少しだけ強くなれる気がした。
「あたし、まだ弱いけど」
ずっと、この今まで。強い女だっていう振りを続けて。こんなにも弱い自分を救おうとしていてくれた。
「仲間も……守れなくて、……」
自分は弱かったって。心の奥底で認めて、人に吐いているけど。弱くてもライラは自分を救ってくれる。そう、分かった。それだけで嬉しくもあった春藍。
「"SDQ"とか……世界を救いたいとか…………馬鹿言っちゃってて……馬鹿じゃん。できんの?」
「…………大丈夫だよ」
「!」
命が救われるとか救えるとか、救うとか。
それってきっと命がやるんだとは思う。けど、きっと。どんな命であるかなんて関係はないはず。そんなの思い込み。どんなちっぽけだったり、暗くたって、救いという言葉と行ないは誰かにきっとできるものだ。
「そんなライラは僕を助けてくれた…………」
「……ほ、ホント……?」
「足が無くても。僕はライラがいたから乗り越えられた。もし、ライラがそう思っていても。やっぱり、ライラがこうしてずっといるから僕は君の力になり続けられる」
春藍の言葉には根拠は無いけど。自信という名の、ハッタリであった。しかし、本当に弱かったり自信がなかったらこんな言葉は出なかった。救ってもらったから、今度は救いたかった。
「い、一緒に」
「うん」
「強くなろう。ネセリアの分まで……生きようよ」
「そ、そうよね…………。……明日からそうする」
春藍だけが出るためじゃなくて、ライラも一緒にここから出るための生活。