"ワールドクラス"
『このワタクシにもう一回、人生をくれないのですか?』
「え?」
春藍はその言葉を聞くと心を毟られたような気分になる。その言葉に続きがあるのだろうか?
おそらく。彼女が生きていたら、本心が分かるだろう。だが、春藍に聞こえる声は空想や妄想の類。それも被害が付くほうだった。
『あの時、ワタクシを自由にしていたら』
「!」
『ワタクシはあなたを殺さなかった。ワタクシらしく生きていれた』
「…………ご、ごめんなさい……」
『あの時!!ワタクシを解放させていたら、ネセリアも死なない運命があったかもしれない!』
「リア!!」
『ワタクシが死なない道もあった!!あなたが、春藍のせいですわ………』
「!!!い、言わないでくれ……」
『こうなったのは全て春藍のせいだ!!』
十三日目。
春藍は頭を抑えてのたうち回っていた。
「うああぁっ、ああぁっ」
「春藍!!落ち着いて!!」
それはまだ日も上がっていない時だ。ライラも春藍の暴走に飛び起きて、彼を抑え付けた。
「ああぁっ」
「っ!」
春藍は半分寝ているというより、幻覚を見ている。ライラの言葉や必死に動きを抑えている腕のぬくもりすらも分からない。見えているのは主にリアの幻想。時折、見えるネセリアの幻影。
2人の姿だと理解できるが、体から流れる血、どんな風に殺されていくかという光景。
「ううううぅぅぅっ」
冷や汗を出し、呻く。
『なんでワタクシを殺したの!?』
『どうして、私は死んじゃったんです?』
『どうして、ワタクシを助けてくれないの!?』
『私、生きたかったです』
声や姿が見えない距離まで離れたいし、自分の言葉が二人に届きそうな距離に近づきたい。春藍はそう思いながら自分を苦しめる。でも、必死に止めるライラがいた。
「げほっごほっ」
誰しも立ち向かえないトラウマを抱えるモノだ。悩んで悩んで……選んだことが正しい事か分からない。春藍はまだ悩んでいるところ。だが、彼が死んだところで意味はない。それに春藍は錯乱しているだけであり、もしこれで死んだら。どーして死んだか理由や意味をあの世で言えないだろう。
「うううぅぅ」
震える身体と、流れ出る汗を拭いてあげるライラ。
今日は一日中。春藍は錯乱し続けてライラにずーっと心配をかけ続けた。
十四日目。
春藍は錯乱が解け、寝静まっていた。錯乱できるほどの体力がなくなったからだ。ライラも同じであった。一日中春藍を止めており、何も食事を摂らずにいた。不眠もあって朝から春藍の手をギュッと握り締めて眠った。
目覚めたのはお昼であり、空腹によっての起床だった。
「……………う………」
寝る直前の記憶が曖昧であり、春藍の手を握っていたことも忘れており、眠気がぶっ飛んだライラ。かなり驚いてしまった。
「お、同じ布団で寝てたのかしら…………」
ライラは昼食を用意する。消化の良いうどんを作り、良い匂いと空腹で目覚める春藍。今日の春藍は落ち着いており、若干昨日の苦しみも身体が覚えていたもよう
「食べなさい」
「…………うん……」
麺をそそりながら、今日は向かい合いながら昼食をとっていた。泣いてもいたんだね、ってライラは春藍の顔を見て分かった。
「苦しかった?」
「!……………」
「突然、あーなっちゃうとホントに大変よね」
「…………うん…………」
頻度は減ってきているが、一度発生すると一日中錯乱してしまう。春藍の傷は相当深いものだとライラは実感した。同時に春藍の中に出てくる二人は自分よりも、大切なんじゃないのかと思った。
「ずっと付き合うから」
「……………………」
「あなたが怖くて、震えていてもあたしが必ずちゃんと傍にいるから。頼りなさい」
「……………………」
十七日目。
春藍はまた錯乱状態となった。ライラも力ずくで彼を押さえ、意識を取り戻すように声をかけ続けた。パイスーのように痛みをまるで感じさせず、春藍はまた一日中は喚いていた。
ただ蹲っている日が多く、時折、錯乱するという日の繰り返し。長い長いライラと春藍の戦いだった。その間にまた一つ、朗報と呼ぶべきことは起こっていた。
「…………あの時以来の勢揃いか」
「病室では私達、会ってるんですがね」
「お主は見上げていたな、朴」
「そーですけど、そのー…………」
春藍が苦しんでいる間。桂が回復し始めたようにあの戦場で酷い重傷を負ったポセイドンも意識と肉体を取り戻しつつあった。
管理人側はこれでようやく元の体制になろうとしていた。エクスピーソーシャルにて、再び結集したのであった。
「また皆が揃ってくれた事には感謝する。我もそうだが、傷が癒えておらぬな者達もおるな。身体は大事にせい」
「ポセイドン様。あなた……その…………」
「………………よく生存してらっしゃいます」
「ちょっと……勘弁してください。皆さん」
「?」
「私は言いますよ?」
龍や朴などは、今のポセイドンの姿にかなり驚いているし、唖然ともしている。
なんだか分からないカプセルの液体に浸かっており(外側からでも見える)、植物が成長するように修復している。現在、頭から胴体まで修復されている模様。
「頭しかなかった管理人がどうやってそんな物を用意して、しかも中に入っているんですか!!」
朴、驚きのツッコミをポセイドンにかます。桂以外の管理人はそのツッコミをしていいのかどうか迷っていたが、言ってくれたことにホッと息をはいた。
「…………確かに朴の言うとおりだが。貴殿の驚きを感じれば、我が頭だけでよく生き延びたという点も評価して欲しいものだ」
「評価しませんよ…………まったく、とんでもない物を造りますね!」
「ポセイドンよ、そーゆうじゃれあいをするために拙者達を呼んだわけではあるまいな」
桂は荒れたように言った。
「うむ……………ふふふっ」
「?」
「桂、龍、蒲生、朴…………あと、ここにはおらぬが…………該当するのは6名か」
「??」
呼び出したのはポセイドンであった。
「前の戦争。パイスー等、"黒リリスの一団"が作り出した被害。我々、9名もダメージが深い。人類の進化を感じ取ったが、我々の力不足という点も浮き彫りになる形であった」
「……………………」
桂はこの言葉にポセイドンを睨んだ。カプセル内に入っているポセイドンに対して、まだ杖がなければ歩けない桂とでは有利と不利がハッキリしている。
「我の提案はこうだ、…………管理人の"切り札"の全面使用を許可し、さらに強い管理世界を生み出すというのは?」
「…………おいおいおいおい、それって良いのかよ。ポセイドン様」
この言葉を出したのは龍であった。
「俺と、蒲生のおっさん、朴はあんた達の"予備軍"に過ぎない。俺と朴は"ワールドクラス"の切り札を持っていても使用許可はとくにねぇ、安全な切り札だ」
「…………ふむ」
「だが、蒲生のおっさんの"九頭鳥"のヤバさは知っているだろ?それにあんた等も相当やべぇって聞く。つまりだなー…………」
「我等が暴れたら管理世界は壊れるんじゃないか?……そーゆう考えか?」
「そんなとこだ」
"ワールドクラス"
かつての人類もそーゆうランクの強さを作り上げており、何人も現れ戦争を行っていた。
どんな能力や過程、犠牲、所要時間は不問。結果として、単独で世界を葬れる強力な実力を持つ者の例えである。分かりやすくて、規模も理解しやすい。
「パイスーの実力はポセイドン様も認めておるのでしょう。多くの世界を単独で滅ぼせる戦士。その人類に対抗するにはこちらも出し惜しみしてはいけないのは理解できる」
と、蒲生は言った。
「少し前にそれを封印しました。理由を憶えてますか?ポセイドン様…………」
「このベィスボゥラーに記録はあります」
朴とベィスボゥラーも続けて言った。