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RELIS  作者: 孤独
伊達・ネセリア・ヒルマン編
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伊達・ネセリア・ヒルマンへの葛藤③

食材は一週間おきにロイがこの部屋まで持ってきてくれる。およそ5日分、3食分である。なんでこのようになっているか?そもそも春藍があまり食べず、もったいないからという理由からである。先日、隣の部屋を工事してもらってお風呂を設けてもらった。

ライラもたまにはお風呂に入らないと気がおかしくなる。とはいえ、今まで入れた試しがない。それは春藍も同じである。



四日目。

相変わらず、春藍に変化は見られない。ライラも読書に没頭していて、時間になったら朝食と昼食(たまに抜く)、夜食を用意する。同じ服を着て四日も経つ。春藍にいたっては一ヶ月以上同じ服である。

同じ空間にいて分かることなのだが……


「春藍…………身体を洗ったら?」

「…………………」

「お風呂もアレクがつけたから、10分くらい入っていなさい!」

「…………………」


黙っている春藍であるが…………。

ライラは春藍の首のねっこを掴んで強引にお風呂場まで引っ張った。自分だって初めてそこに入る。


「入って身体を洗いなさーい!」

「!……………」


二人は脱衣所を飛び越えて、服を着たままお風呂場に入る。ちょっと広めに作られた風呂場。風呂の中に無理矢理春藍を投げ飛ばして入れるライラ。



「うっ……………」

「お風呂に入ると心が落ち着く効果があるそうよ。あと、身体が清潔になるわ(当然だけど)」



ビショビショに濡れる春藍と突っ込ませたお湯しぶきを喰らったライラ。



「………………………」

「………………………」



ライラが睨む視線と、やり方にちょっとうんざりした表情を見せた春藍は…………。ホントに珍しく思えるくらい、長文を口から吐いた。



「…………僕は…………どうすればよかったの?」

「……………………」

「リアを救いたかった…………けど、彼女も……ネセリアも死んじゃった……………」



その言葉はただの独り言ではなく、ライラに訊いていた言葉だった。春藍はいまだに答えは出せていないけれど、これにはライラは答えを出していた。



「あたしもだけどね。春藍。……あんたが弱かったからよ」

「!………………」

「どうすれば良かった?無理な事は考えないでよ。あの時のあんたが、リアを救えるわけないじゃない」

「………………酷いよ」



優しい返しではなかった。でも、優しいとは…………幻想。厳しさだけが現実に映る。春藍は風呂の中でも蹲って、苦しいところをライラに告白する。



「頻繁に見るんだ。……フラッシュバックって言うのかな。……泣いたり、怒ったりするリアや、痛がるネセリアが見えたりするんだ」

「…………………」

「助けて、ふざけるな…………そんな言葉が聞こえて…………動けなくなるんだ」



もう2人はこの世にいないから、どう思っているか分からない。



「怖いとか後悔とか…………それが詰まっていて動けないよ」

「………………そう」


ライラは春藍の頭を優しくなでてあげる。自分の力のなさを痛く感じている春藍を元気にさせることなんて言えない。春藍が他の誰とも心を閉ざしていたい気持ち…………、


「大丈夫。春藍」

「……………………」

「私も、ロイも、アレクも。あんたが無力なんて思っていない。…………今すぐ出ろなんて言わないわ。ゆっくり、あんたにある恐怖が薄くなるまであたしがずっと傍にいる。ロイ達もカバーしてあげる。だから、死は絶対に選ばないでね?」

「…………ライラ……………」

「リアとネセリアに怒られて。あたしにも怒らせる気はないでしょうね?」



………………………。春藍はずぶ濡れであり、ライラも濡れている。


「とりあえず、身体を洗ってリフレッシュしなさい。服はあたしが洗濯するから」

「…………う、うん」

「!て、……あたしがここにいるのにまだ脱がないで!脱いだらテキトーに脱衣所に投げておきなさい!」

「?う、うん……………」



ちょっと慌しくライラは脱衣所まで戻り、ホッと息を吐いた。そして、部屋に戻った。春藍がお風呂に入っている音は聞こえる。溺死や水死は試みていたら即座に止める。


「っと……着替えを用意してあげないと」


ライラはタンスから春藍の洋服を取り出して、篭に入れて持ってきてあげる。ホントに静かにお風呂に入っていて良かった。


「今度はあたしが入ろうかな」


ライラは笑顔になりながら自分の着替えも用意する。少しだけ進展できたと感じてもいる。

春藍がお風呂から出たのは10分後。1ヶ月以上身体を洗っていない彼の臭いと、肌の荒れはかなり落ちた。少しだけ春藍の顔にも明るさが出ていた。


「次、あたしが入っているから…………ゆっくりしててよ」

「う、うん」


ライラも久々のお風呂にちょっと笑みをこぼして服を脱いでお風呂に浸かった。



「ふぅ~………………」


"吉原"とは違ったお風呂。向こうでは温泉という感じが強く、ライラが入っているお風呂は人工的に作り上げた物だろう。ライラだって向こうで沢山入っているが、見慣れない機材もある。穴が沢山開いて柔軟に動かせるパイプのようなもの……。見た事ないのでライラは動かさない。



「はぁ~~……………」



心地いいと感じながら…………今までの疲れをとろうとしている顔を出した。誰だって休憩なんてとれる状況じゃなかった。でも、この時くらいは良いと思った。そう思えるということは自分も少し、前に進めたと思う。



「あら?タオル……………あ、入れ忘れちゃったわ」


ライラは身体を石鹸で洗おうと思ったが、肝心なタオルを入れることを忘れていた。ちょっと残念がって上がろうと思った時。扉に影が映った。



ガチャァッ



「ライラ、タオルがなかったから…………」

「!!」

「入れておくよ………」



バタンッ



あまりにも一瞬だったため、殴る事も声を出すこともできなかった。春藍はとても暗くて、元気があまり出ていない表情でライラの今の姿を見ていて、タオルを投げ込んでさっさと部屋に戻っていった。春藍からすればちょっとした優しさであった。


「あっ、あ、あっ」


ライラは顔を真っ赤にしていて、湯煙で見えていないだろうと祈っていたが。自分に映っている光景には湯煙がまったくないため、春藍の目が曇っていなければ今のこの姿を完全に見られたことだと理解した。


「あ、あの天然助平ぇっ…………」


もう一回お風呂に入った。ライラは春藍を殴ったら、その危ないから。風呂場を殴った。殴った。凄い手が痛くて、全然気持ちが晴れない。

ライラがお風呂から出たのは春藍が入ってから40分後。春藍は何も思わず、また蹲って考えていた。それが少し邪険めいたことを抱いて蹲っていたら、殴るどころじゃ済まさないという意志を持ちつつ、ライラは顔や身体を熱くしながら春藍の後ろで読書をしていた。

だが、ページをいつまで経っても捲ることができず、今日に関して言えばライラの方が凄く疲れたのであった………………。







十日目。


お風呂は四日目以降まだ入っていない。




春藍はまだ考えている。ライラは彼の答えを待つように必要に力は使わなかった。答えが出るまで後ろで本を読んで待っている。


「…………………」

「…………………」


無言が相変わらず多い。それがほとんどなのだ。

だが、春藍は今日。喋った。短いけれど、今度は行動するという意味が込められた言葉を吐いた。


「…………ライラ……………」

「なぁに?」

「……音楽、かけていい?」

「!」


以前、自分から勧めたことをようやく春藍がやるようだ。それに意味があるかどうか分からないが、自分で行動ができるようになったのは嬉しいこと。


「いいわよ。存分に流しても私は平気よ」

「……ありがとう」


春藍は"Rio"を用意して起動する。

ライラは何でもよかったけど、無音は少し退屈だったから雰囲気的にも良い事だと思っていた。


「……………………」

「………………??」


確かに春藍は"Rio"を起動したのだが、ライラに音が届かない。気になって振り向くとちょっと驚いてしまう。音楽をかけていい?っという質問をしたのだから、全体に聴こえるように流す、スタジオかスピーカーを使うのかと思ったら…………。

ヘッドフォンで自分だけに聴こえるようにしていた……。


「……………えー…………」


あー言っておいて、……自分だけ聴くなんて。

ライラは今日も無音で読書を続けるのだった……。




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