"Rio"の性能
グラァンッ グラァンッ
揺れる、超揺れて、…………どこかに走っている?
お腹にロープか何かが縛られているし、誰かにおぶられている?
「ん?」
「……ライラ?」
目が覚めた時、雲の上ではなく。春藍の上に乗っていて、その春藍も何かに乗っていた。?が出る状況。何がどうして、こうなって。森の中を駆け抜けているのだろうか?
左を見れば、自分と同じ。"魔術"特有の内にある魔力を感じ取れる。獅子に乗っている2人の男が見えた。
「!………?なに、これ?」
驚きもあったが、すぐに冷める。こーゆう時こそ落ち着かねばならない。
私はどうやら春藍に捕まっている状態らしい。だが、それは置いといて。
「春藍。ちょっと、説明を」
「お、起きたんだね。ライラ」
強く言おうとしたが、まだ身体には毒が残っていてすぐにトーンダウンしてしまう。情けない自分だ。
「えっとね。ライラが急に意識を無くしちゃって、二人で森の中に落ちたんだ」
「そう……」
やっぱり、森の中を走っているということはそーゆう事ね。
「落ちた後、しばらく歩いていたら。魔物に襲われて、その時、そちらのパイスーさんと若さんに救われたんだ」
「!」
ライラは春藍の指した方を向いて、改めて。その雰囲気を感じ取る。どーゆうこと?という印象もあったが、そこは少し置いといた。
ライラの視線に気付いて、若とパイスーは挨拶をした。この世界ではありえないような魔力と恰好をした2人。
「ど~も、若でーす。君達を助けた男でーす」
「嘘突くんじゃねぇよ、若。魔物をぶっ殺したのは俺だし、こいつ(獅子)も俺の"キング"だろうが。おっと、俺がパイスーな。よろしくなー、強そうなお嬢ちゃん」
ただの挨拶を交わす2人。
見ただけで少し戸惑いがあったが、尋ねた。
「あんた達、異世界の人間よね?私や春藍と同じ……」
「だな」
「ああ」
あっけらかんに、その問いにYESと言ったパイスー達。
春藍のような鈍感さが感じられないからか、それともあからさまに言う気だったのか?
パイスー達はまさか自分以外にこんな奴がいるとは思っていなかった。そして、ライラも同じである。自分以外の奴が早々簡単に異世界に移動できるわけがない。パイスー達はそこまで警戒していないが、ライラはかなり警戒している目をしていた。それに気付いた若は、
「そー睨まないでくれ、ライラ。僕はパイスーとは違って、弱くて臆病なんだからさ。春藍くんを見習ってよ。優しい目をしてくれ」
「馴れ馴れしい奴ね、普通に話して来るんじゃない」
「警戒するのは分からなくもないがな。だが、俺達は春藍達を街に送る事しか"今"はする気が無いな。少しだけ退屈してんだ」
"今"はというのはかなり引っかかる。
だが、2人の行動で春藍も自分も救われているのだ。しばらく、それに従うのが正しいと思う。桂は彼等の事を知っているのか?自分の事は激しく追い詰めたくせして、なんでこんな違反者2人にはしないのか?分からない。
「と、ともかく。ライラ。2人は良い人だから、今は安静してて。寝てて良いから」
「…………なら、私から離れてよ。おぶられるのは嫌」
「えーっ…………」
「悪いがライラ。この獅子は三人用なんだ、諦めろ(嘘)」
獅子を作り出しているのはパイスーだと言うのは分かった。ライラは絶対嘘でしょってパイスーを睨んだが、それに知らん振りをしているパイスー。毒で弱っているとはいえ、他人がいるなかで情けないけど。
「我慢するわよ…………しっかり支えてよね」
「うん、ゆっくりしてて」
ゆっくりとするわけがない。春藍には気付かれない程度(鈍感なので堂々としてるが)で、2人を監視するライラ。特に危険だと肌で分かるのはパイスーという男。
「もう少しで着くか」
かなり悪者染みた恰好をしているが、そんなのが生易しいってくらいの。
自分とは比べ物にならないほどの底が見えない魔力の膨らみを感じさせる。この獅子の足跡や牙の形を見て、ピンッと来た。
こいつだ。この世界の魔物を一頭残らず、食い殺している奴。
そして、パイスーという男はこの世界のバランスをぶち壊して、滅ぼそうとしている。
並の"管理人"ではまるで歯が立たない。つーか、こいつは何者?何が目的?どーして、このようなマネをする?
"管理人"が感じている違反をしたから、さらに過激な事をしようとする考えなの?
とも考えたが、この感じはルールを遵守すべきと言い放ち、罰を与えようとしても物理的に不可能な生き物。ルールが完全に通じないほどに全てが反則になり、言われた事は自分だけで考えて聞き返す気はない。圧倒的な自分主義で自分本位の思考を感じ取れる。"管理人"達をタダで敵に回せる思考と強さ。
ビリイィッ
「!」
ライラには一切顔を向けないパイスーであるが、彼から流れてくる感じ取れる魔力は、明らかに自分にアテられていた。ただ前を向いている春藍には一切感じさせずに、自分だけに与えている。
"明確な戦意"
「よしてやれよ、パイスー」
「何がだ?若」
若がそれに気付いてパイスーに注意したが、特に何も変わらずにライラにその戦意を見せつける。
とてつもなく、空気が暗くなったようだ。
その発端であるパイスーはライラを意識しつつも、上の空のような目をして小さく呟いたか
「いっか」
誰にも聴こえないほどの呟きだった。
ライラが目覚めたというのになぜだか会話が途切れてしまった四人。警戒感というのが、纏わりついていた。ライラも若も、何か喋った方が良いのにと思ったのだが、意外にも
「あ、あの~」
「何よ、春藍」
「音楽をかけても良いかな?僕、好きだから」
ライラが目覚めてホッとしている。
もう、自分達はただ森の中を駆け抜けるだけ。風や景色も大分楽しんだ。だから。春藍的にはもっと楽しみたいと思えたら、音楽をかける事だった。"Rio"を取り出して、ライラにもパイスーにも見せた。
「この"科学"は"Rio"って言って、音楽が流れて気持ちを変える"科学"なんだけど」
害はないと説明したい春藍の顔。
ライラは一度体験しているが、個人差があって音楽によっても異なる。
「別に良いわよ、好きにしなさい」
ライラはそれでも、ご褒美を与えるように許した。
「構わないが変な曲だったら切れよ」
「パイスーが良いなら、僕も構わないよ」
パイスーも若もOKを出す。
春藍はみんなのOKに少しだけ、胸を弾ませて良い音楽と思ってくれるよう願いながら、"Rio"を起動した。自分の好きなクラシック曲だが…。
春藍慶介の科学、"Rio"。音楽を流し、聴いた者達に影響を与える"科学"である。
現時点での性能について、
"Rio"が今認識している、音楽のジャンルは4つある。
"クラシック"、"POPS"、"ロック"、"テクノ"の4ジャンルである。
春藍は"クラシック"を好み、アレクは"ロック"を好み、ネセリアは"テクノ"を好む。4ジャンルは人の好き嫌いだと判断して構わない。
"Rio"を使う事に重要な要素の一つ"曲"。流される曲が良い曲であるほど、聴いた者に大きな力を与える事ができる。春藍が現在、持っている楽曲は全部で18曲。
ちなみに楽曲は別の異世界から買っていたり、手に入れているものである。
クラシック:
"ホールド・ミュージック"、リラックス状態になり集中力が増す。
"Eitクモーバディ"、眠りに落ちやすい。
"清き世よ・我は貴殿に頼まじ"、想像力が広がる。
"オンフールの車輪"、足が速くなる。
"スケートをする曲物語"、滑る動作が良くなる。
"ハスプブルグのさすらい"、ジャンプ力が上がる。
POPS:
"ミリオロメン@雫"、曲を聴く事に集中してしまう。
"Msチャイルド@拳"、殴るという動作が強くなる。
"AUNP@礼"、お辞儀が良くなる。
"SAZAN@DOOLS"、周囲を綺麗にしたくなる。
ロック:
"Babyロック"、力が沸いてくる。
"Heavyロック"、身体が硬くなる。
"Octoberロック"、体温が少し下がる。
"施錠宜史倶"、不安を与える。
テクノ:
"TnT"、心が晴れてくる気分になる。
"(*@;@*)"、何事も半分半分にしたくなる。
"DaysAny"、視界がやや良くなる。
"まおーとゆーしゃものがたり"、勉強をしたくなる。
これらの音楽を流すオーディオ機器には、"イヤホン"、"スピーカー"、"ヘッドフォン"、"スタジオ"の四種類が存在する。
"イヤホン"は付けた人物にしか曲が聞こえず、外の雑音が聞こえる。
"ヘッドフォン"は付けた人物にしか曲が聞こえず、外の雑音は一切聞こえずに、曲の効果を高めてくれる。
"スピーカー"は小型(春藍は服に付けている)で周囲に曲が聞こえるようになっている。周囲に音が広がるため、曲の効果はやや薄くなる。
"スタジオ"は大きく重い物が周囲に曲が大きく聞こえ、曲の効果を高めて周囲に聞かせてくれる。ネセリアの"掃除媒体"に収納して持ち運んでいる。
ピィッ
『"Rio"起動しました』
春藍が掛けた音楽は"クラシック"の"ホールド・ミュージック"。獅子の足音、風をきる音にも負けないようボリュームを大きくする。
流れるメロディが全員に届く。
「ど、どうかな?嫌だったら、違う曲にするけど」
「まだ音楽を流したばかりじゃない。感想なんて出ないわよ」
10数秒経ってから、それぞれの感情が出た。
「嫌いじゃないけど、好きじゃない」
「そ、それなら普通で良いんじゃない?」
ライラの感想は普通。いや、もしかすると。嫌い寄り?なぜ、アレクさんもネセリアもクラシックの偉大さが分からないんだ?最高じゃないか。
「俺はこーゆうのが好きだな。変に熱くなく、静かでもないからな」
「えーっ、パイスーってこんな音楽が好きなの?俺はてっきり派手な音楽を好んでいそうに思えたのに」
「五月蝿すぎるのは音楽じゃねぇーよ。俺はあの女と同じで格調高い音楽が好きなんだよ(とはいえ、俺はあんまり聴かないけどな)」
パイスーには好評のようだが、若はライラと同じような雰囲気だった。それでも
「パ、パ、パイスーさんはこーゆうのが好きなんですか?」
「ああ。闘ってねぇ時には良い音楽だ」
初めて仲間に出会えたかのような、目の耀きを出す春藍。"クラシック"好きな知り合いに出会えただけで胸が時めいていた。
「嬉しいなぁ」
グッと手を握っていた。握手を求めたいくらいだ。そんな春藍に刺すような言葉を吐くライラ。
「他の曲はないの?」
「ええぇっ!?」
「あんたの"Rio"とかいうのを貸しなさい」
「は、はい。好きに回してください」
クラシックは嫌いではないが、好きでもないライラ。"Rio"を手にとって、少し確認してからボタンを押し始める。小さすぎるモニターにある曲名が変化するボタンを見つけて、どんどんと変えて。テキトーに"POPS"の、"Msチャイルド@拳"を選択する。
「知っている曲?」
「私、音楽なんて聴かないし、歌う事もしないわよ」
「そ、そうだよね」
流れてくる曲はとても親しみやすい曲。"クラシック"が好きな春藍もパイスーも、好んでいる表情を出した。その曲を選んだライラも若も同じ表情をした。
「……………」
「僕はこっちのが好きだな」
若は声を出したが、ライラは黙って静聴。少しだけ指でリズムをとっている動きもみせていた。音楽に全然興味がなさそうなライラが静かに聴いている辺り、気に入っていると春藍には分かった。
このグループの曲を集めて世界を回るのも良いかもと思えた。
「!見えてきたな」
音楽を流している間に街を取り囲んでいる炎が見えてきた。




