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RELIS  作者: 孤独
伊達・ネセリア・ヒルマン編
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伊達・ネセリア・ヒルマンへの葛藤①

アレクやヒュール達は"住宅タワー"を建築し始めて1ヶ月……………。

いきなりとはいかなかったが、少しずつ人々は造られた建物の中で過ごす事ができた。住宅だけでなく、仕事場も徐々に再生させていく。昔にはなかった農地や牧場までも開拓し始めた。

フォーワールドにいる人間達は、様々な物を作り出していき、進んでいった。酷く受けた絶望は今、希望しか生まない世界となっていた。


だが、…………ただ1人。

今もなお蹲って、考えて考えて考えて…………結局行き着いたのは考えていると言っていて、無言になった奴がいた。



「……………………………」



春藍慶介。

黒リリスの一団の戦争の後。ただ1人、時間を止めたままでいた。


「……………………………」


意識はある。誰かに支えられれば歩ける。食事も1人で摂れる……ほんの少しだけだ。以前は体力をつけたいと言っていたが、それが嘘のように痩せていて栄養失調になりそうな体つきだ。

だが、それ以上に彼が苦しんでいるのは心だ。

解けないループに嵌ったまま、過ぎ去ったことに対して今でもその時を思っている。

滅多に喋らないのだが、時折言うのだ。


「…………どうすれば…………」



どうすれば……。その言葉を呟くと。

あの時に戻った感じがする。しかし、戻っても運命は変わらない。所詮は感覚であり、その頃の自分はとても弱いから。そして、今の自分はもっと弱いから何もできない。

身を強すぎる力で握り締める春藍。咳き込んで、のたうち回る。


「ううぅぅっ」


熱も出ている。気分も悪い。震えが止まらない…………。そして、何よりも死にたいという気持ちが沸いてくる。

アレクが造った一つの部屋に、春藍はロイによって放り込まれた。この部屋には自分を殺すような道具はない。死ぬとしたら、餓死しかない。状況的には初日~4日目よりも多少はまともなのだ。初日辺りの春藍はナイフやライターがあればそれを自分の体に浴びせ、傷をつけていた。終いには殺して欲しいとロイに懇願するほどだった。


「………………………」


どうすれば、……どうすれば、……


ネセリアを救えただろう。リアを救えただろう。

リアをあの場で…………止めただけではダメだったんだ。でも、それじゃあリアが…………。

早く走れたら、もっと早く駆けつければ……でも、できなかった。だから、ネセリアが…………。

リアが死んだのは?管理人のせい?

じゃあ、ネセリアが死んだのは?……僕が……僕が、リアを殺せなかったから。救いたかったって気持ちでいて…………2人は消えてしまった。

でも、リアは殺せなくて。僕には何も殺せなくて……………。



失ったんだ…………。



「………………………」


僕のせいで2人が死んだ。ネセリアが死んでしまった。リアが死んでしまった。

どうすれば僕は良かったんだ。僕はあの時、



「どうすれば…………………」



1人で考えて考えて…………。

考えているから、誰かが近づくと考えることを止めてしまう。


「春藍」

「……………1人にして」


ライラがまたこの部屋に入ってきた。

これで何日目?


「僕の問題なんだ。1人にしてよ……」

「!…………あんた1人の問題なわけないでしょ!!?」

「でも、僕なんだ!!僕が……僕が…………リアを……あ、…………ネセリアを……殺しちゃったんだ。死なせちゃったんだ!」

「あんた1人のせいにしないでよ!!!それなら、あたしが……あたしがまだ傍にいれば……」

「出てってくれ!!僕は、ライラの顔も見たくない!!誰も見たくない!!前に言ったよ。何度も言ったよ!!嫌なんだよ!!」

「!!……っ、馬鹿春藍!」



ライラの言葉はまた……春藍に伝わらない。春藍はソッポを向いて答えることも許さない。

自分の責任だと強く押し込めている。ライラのせいじゃないという意味でもあった。でも、ライラは自分にも責任があると分かっている。ネセリアと最後にいた人物であり、友達であるからだ。

自分はパイスーをロクに止められなかった。戦力ですらなかった。なのに向かったことが、ネセリアの死に繫がったと思う……。




バタァンッ



「…………はぁっ……」

「またダメか」

「……もう、あんたも自分のことをして良いわよ。ロイ」

「………………そんなわけいくかよ。春藍が凶行に走ったら、力ずくで止めてやる。俺がドアの後ろにいるのはそのためだ」


それと、ライラも……………。


ロイはアレクと比べればライラ達と付き合いは短い。それでも、仲間だってのは分かる。

だから、春藍を絶対救いたい。気にならないが、アレクにも助けてやってくれと頼まれた。やってやろうじゃねぇかって、今も気合は落ちていないがどうすればいいかロイには分からない。死なせないためにある暴力要員。


「…………単純に、俺はまだお前達と付き合いが短い…………力になりきれねぇ」

「いいえ。ロイは十分な働きをしてくれているわ」


ライラはロイの働きに感謝している。アレクはここに来ていないけれど、立派な物を作り上げてくれた。問題なのは自分だけ。春藍を立ち直らせられない自分にあった。

ネセリアを守れなかった事も含め…………春藍と同じくらい、自分の力のなさを痛感しているライラ。そんなライラの前にやってきた人物がいた。



「まだそんな暗い表情をしていたのか」

「!桂…………あんた、もう」

「…………事情は先ほどアレク殿から聞いた。とにかく、拙者も参加させてくれ」



管理人、桂。パイスーとの死闘に敗れたが、生き残った。


「杖なんかついて…………」

「生きていれば勝ちだ。ポセイドンも似た有様だ」


死闘から一ヶ月でなんとか身体の形が戻ってきた。杖がなければ歩けもしない有様だが、春藍の様子に駆けつけてくれた桂。


「死なせるわけにはいかない。このまま、引き篭もりをしてもらっても困る者だ」


「……………ありがとう、桂」




ライラは桂を別の部屋に案内し、春藍の様子。なぜそうなってしまったのかの現状を語った。ライラだって語るだけで苦しい。今でも、友達を失っていることを整理できていない。春藍が立ち直ってくれたら、きっと自分も立ち直れると思っていた。


「うむ……………」


ライラから事情を聞いた桂。

管理人の一員であるからこそ、春藍が極めてレアなケースにいても助言ができる。それだけ、人間達が起こすトラブルに対応できる経験とデータがあるのだ。



「敵…………春藍くんからすれば仲間を助けたら、……あのネセリアという子がその彼女のせいで死んでしまったというわけか……そして、殺した彼女もこの世にいない」

「………………」

「握った拳をどこに向けていいのか分からず。ただ、過去の自分に当たっている…………ロイのように、インビジブルが討たれたからパイスーを憎む……そのような単純な構造ではない。これは長くなる。薬を使っても、ただただ繰り返す日常でも、……そう消えない心の痛みだな」

「……そうよね…………」



もっとも簡単に春藍を立ち上がらせる方法を桂は提案する。知り合い……というか。ベィスボゥラーならきっと、この手の問題を解決できる方法。でも、絶対にライラは拒否する。

管理人と人間の違い。



「春藍の記憶を一旦消すのが近道だろう」

「ば、馬鹿言わないでよ!それじゃあ、あいつ…………ネセリアやリア、パイスーとか……あたしやアレク、ロイといた記憶も消えちゃうでしょ。そんなの。……助かった春藍は、春藍じゃなくなる!止めてよ!」

「……真剣な声を出さなくても、拙者は本気で言ったわけではないぞ」

「ま、真面目な意見を出しなさいよ!」



ライラが万が一の確率で頷いたらそれを実行しようと思っていた桂。


「近道じゃなくていい……あなたの。管理人の力が、春藍を助けるのに必要なの。教えて、どんなに遠くて困難でも、あたしが春藍を助ける」

「………………分かった。お前はそーゆう奴だったな」


当然、桂には別の手段があることを知っている。成功率は完全に春藍任せであるが…………。

何度も挑戦するのはライラ自身。一日、確率1%であり得る出来事を起こすという例え話があるなら、100回以上その日を行えば確実にあり得る。

本人に掛かっている成功率なんて大した問題ではない。



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