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RELIS  作者: 孤独
伊達・ネセリア・ヒルマン編
176/634

良い父親や上司には祝福を……



アレクの疲れはハッキリ言って誰にでも分かっていた。

この中で唯一、……。戦争を間近で体験し、実際に戦っていたのだ。ザラマを倒し、パイスーとも戦った。彼等から喰らったダメージは体に残っている。

復興対策本部(仮)のプレハブにある長いソファーで横になり、汗臭くなった身体を拭いて、パンツとシャツ、白衣を着こんで火をつけたタバコを咥えたまま、眠りに入ろうと目を閉じていた。



「ふぅー…………」



しかし、アレクには身体の疲れを癒すことができても、頭の疲れを癒すことができなかった。もう大好きなタバコを吸っても、糖分を摂ってみてもスッキリしない。

熟睡すると何かを忘れてしまいそうだ。しっかりと翌日の予定は記録しているのだが、起きたら予定を記録した存在を忘れた不安な感じもする。

1人でここに眠ろうとする時、手動のドアが開いて女性がアレクに声を掛けた。



「アレクさーん?寝れてますか?」

「…………広東か……お前のせいで起きたぞ」

「いや、起きて欲しいので声を掛けたんです」



アレクは起き上がるもシャキッとしていない。とても疲れた目をしている。頭を抱えながら広東に尋ねた。


「なんの用だ?」

「クロネアさんとラッシさんが珍しく心配してたので、その報告です」

「報告?」

「はい。復興を日が出ている間だけやるのは少々時間がもったいないと…………。ですから、昼間はアレクさんとヒュールさんが主導となって復興に携わり、夜間はクロネアさんとラッシさんが2人で復興の指示を出すそうです。まだ少人数だが、夜勤労働者を作り上げてます」

「…………なるほどな。で、それだけかよ?」


いずれ、アレクも考えていた日勤、夜勤システムによる復興。しかし、これをやれるだけの復興はまだできていない。よく他の人間や管理人が納得したな。


「それとアレクさん。ここをマイホームみたいに使わないでください」

「なんだと?」

「ソファーで寝るなんて科学者のすることです。今のアレクさんは科学者ではなく、指導者であるため、あちらの居住区の休憩所で眠ってください。良いベットが入っているんです」



広東が指さしている今日完成した建物。あれは元々住民(子供を中心とした)用である。労働者用の住宅はまだできていない。


「あのな…………あそこまで歩くのか?」


歩く事すら疲れてできそうにないアレク。


「山佐さんを呼んで運んでもらいます?力持ちですよ。それと、そのソファで寝てたら彼がまるごと運んでくれるそうです」

「それは遠慮する…………。ったく、お前等はな…………」



アレクは渋々広東に連れられて歩く…………。


「ちなみに子供達はそこで寝てませんよ」

「なんだと?」

「あたし、密かにアンケートを取りました。しっかりと身体と心を休める人は仕事をよくする人が良いって結果が出ました。つまりはアレクさんです」

「…………歩く労力を考えろ。疲れが出ている」

「大丈夫です。しっかりと眠れるベットに入ればそんなことも忘れますよ。ちなみにあそこでヒュールさんも休んでます(アレクさんみたいに粘りましたけど)」


広東がアレクの部屋まで案内してくれる。アレクはこんな部屋は作らなかったはずだと頭の中にある記憶が言っているのだが……


「……………お前か山佐が指示したんだな」

「記憶は怪しいものですよ。単なる偶然です」

「だが、建築の記録を見れば改竄なんて一発で分かるからな。記録は正しいものだ」

「怒らなくてもいいでしょう?」


広東はアレクに目を合わせない。アレクはこいつが指示したんだなって分かった。


「ふぅー…………寝るからな。静かにしてろ」

「はいはい」


広東が出て行き、扉を閉めてすぐにアレクはベットに入った。新品同然でちょっと寝にくい感じがしたが、ソファーよりも温かな心地がすぐに眠気をくれた。考える頭も、タバコを求める快楽もフッと消えていた…………。




アレクとヒュール。人間側でもっとも働く連中が休息をとっている間。


眠りそうな気分に誘われながらも、一部の子供達は春藍謡歌のそばにいて質問をしてみた。


「ねーねー、謡歌先生」

「なんでヒュール先生やアレクさんはあんなに良いところで眠れるの?」


子供達は悲しい事に外で眠っていた。至急される毛布で眠れるが、風に当たり、冷えた空気を味わい、ラッシやクロネアなどが夜間の作業もしているため音も届いていた。ハッキリ言って不満が湧き上がる。ガキだもの。

そんな質問にも謡歌はちゃんと答えてあげる。


「あのお二方はこれからフォーワールドを支える人なのです」

「偉い人なのは知っているよー」

「だけど、偉くて強い、凄いだけでベットで眠れるなんて羨ましいなー」


子供はとても言葉の意味や重さを知らない。


「そうよー。たった三つしか浮かばない言葉で表現できるかもしれませんね」


謡歌は1人の子供の頭を撫でながら、優しく理由を教える。


「偉いだけ、強いだけ、凄いだけ…………もし、一つや二つだけの人間だったら、あんな待遇はなかったわ。だけど、あの2人は三つともちゃんと持っているの。ここの人達がそれを認めている。だから、こんな有様なのにあんなところで休息がとれるのよ」

「僕達はいつかあーゆうところで休めるのかな?」

「もちろん。きっと、ずーっとここはなんてありえないから。あなた達もベットで眠れる、シャワーも浴びれる。アレクさんとヒュール先生を信じていれば良いのよ」



アレクとヒュールの凄さ(とはいえ、アレクの方が凄すぎるのだが)などは子供達にとっては漠然とでしかない。憧れていると、なんで?という疑問が生まれていた。

優劣があるというのは人間達なのだからしょうがない。管理人達だって序列がある。



「本当に頑張っている人なんだから、ちゃんと休ませてあげるのが子供であり、部下だと私は感じている。良い人に巡り会えてよかった……………ここまで難しい事を言ってもダメかな?」

「ううん。なんとなく分かったよ!」

「僕のお父さんも今日、仕事を頑張っていたよ」

「お母さんも炊き出ししてたー」

「お父さん達に少しでも楽をさせてあげたいよ。謡歌先生!」



子供達のほとんどは善良に包まれている。この困難にぶつかったからこそ。彼等の目は今、小さく持つ悪戯心がとても悪と認識され、逆にとても小さな善の行ないがとても善と認識される。不安定でどこにぶち抜けるか分からない根気を持っている。

何が正しいかは謡歌もヒュールも誰も分からない。だけれど、"これは違う"とハッキリ伝えられるものは分かる。それを言えるか言えないかが人によってはある。その言葉がとても傷付くかもしれないからだ。しかし、子供という未来の種には伝えなければいけない。それが今生まれている者達の務め、教員という職人。



「いつかでいいんだよ」

「?」

「いつか、必ず。お父さん、お母さんに祝福を送りましょうね」

「…………はい!!」



謡歌は子供達に告げた後、子供達が眠るまで子守唄を口ずさんでいた…………。

疲れから来る眠りは記憶をよく残していた。体の軋み、不自由の辛さ、眠る前に知れた言葉。描いた祝福を、近くしようと子供達は思った…………。






チュンチュン……………




朝は来た。


「うぅ~…………」


嘘ではないが、もう通り過ぎたのであった。朝はとうに過ぎていた。あまりの気持ちよさに起床7時のところ、9時に起きてしまうアレク。


「うぉっ!?もう9時だと!!?」


仕事に対して一度も遅刻や寝坊をしたことはない。それだからこそ、焦り。驚いた。急いで仕事用の白衣に着替えて部屋を飛び出す。


「お待ちしておりました。おはようございます」

「!!?」

「今日はよく眠れましたでしょうか?」


部屋を飛び出して、待ち構えていた人物。アレクにとってはどこかで見た顔。メイド服を着込んでいる人物…………。



「アレクさん。お疲れのご様子ですね」

「ろ、ロイの使用人だな…………なんであんたがここにいる」

「私、ここの建物の使用人として雇われましたの。それと私の名前は、ジャン・アルルエラです。どう呼ぼうが勝手ではありますが」



タドマールで春藍に大量の料理を提供し、最終的に吐いてオジャンになった。そのメイドさん。歳はアレクよりも年上であるが、20代に思える若々しい女性。両耳に青いイヤリングがつけられており、青色のリボンもつけている。好きな色は蒼。


「朝食の方は準備ができております」

「そんなことより」

「準備ができております」


アルルエラが、キラーンと目を光らせている。とんでもなく押しの強い目、口調。


「科学者や労働者の気持ちは分かりませんが。人間は朝の食事を摂るか、摂らないかで一日のパフォーマンスに影響が出ます。ですので、いついかなる時もちゃんとした食事は大事です」

「あのな…………」

「私はアレクさんにもしっかりとした食事を摂っていただきたい。皆様がなけなしに腹の音を抑えて、あなたに用意した朝食です」

「………………」

「食べなければ皆様がきっと悲しむ事でしょう。うっ……ううっ……なんて、悲哀な……」

「分かった分かった」



単純な押しの強さに加えて変幻自在な勧めもするアルルエラ。アレクは抵抗することなく、朝食も摂る事にした。食べる量はあの時に比べれば大分減っているが、旨いし活力になる。焼き魚に卵焼き、白い飯、お味噌汁、麦茶、ヨーグルト…………。

パクパクと食べるアレクは仕事に励むため、急いで行うため早い食いを試みているが、アルルエラが向かい側の席に座り、アレクの早食いを阻止するように優しいような微笑みを向けていた。


「…………………」

「…………………」


ジーーーーッと見られていると、凄く気になる。食べるスピードが遅くなってしまう。そんなに眺めて何が楽しい?


「ふぅ…………ご馳走様」

「よく食べました。お皿、お下げしますね……」


そういってアルルエラは立ち上がってアレクの皿をとり、洗面台へと向かった。アルルエラが自分に背を向けている間にアレクは素早く立ち去ろうとするが、



「お待ちください。アレクさん」

「な、なんだよ…………」

「タバコの一服はここで済ませてください。仕事中、カリカリしますよ」

「俺は少し、あんたにカリカリするんだが…………」



タバコを吸いたいという気持ちを抑えて仕事に向かおうと思っていたが、


「一服してください。仕事前にはリフレッシュする事が大事です」

「むっ」

「もう今日ここでお食事をする方がおりませんので大丈夫です」

「俺が言いかけた事を潰すとは…………」


これは初めてのことだ。とりたくもない一服があった。吸い、咥えれば、頭は落ち着いていくが、心は全然静まらない。素早く済ませたいが、アルルエラがゆっくりしなさいと伝える眼で見てくるからだ。



「…………アルルエラ。あんたも仕事をしたらどうだ?皿を洗っていろ」

「私の仕事は複数あります。あなたの疲れを癒すことも、メイドの務め」

「軽く気になって疲れがとれる気がしないんだが…………」

「そうでしょうか?それはとても心が痛みますわ」



アルルエラはアレクの言葉を聞いて、すぐに皿洗いを開始する。ちょっと沈んだ感じを見せているが、仕事の事で手が一杯なアレクにはそれが分からない。興味もない。だが、


「ふぅ…………さっきのは嘘だ」

「なにがです?」

「疲れはかなりとれた」

「…………そうですが、それは良かったですわ」

「なんだその間は?仕事に出かけるからな」



まるで夫と妻みたいなやり取りであった。アレクはさっさと復興の作業に取り掛かりに向かった。



「殿方は少々疎くて困りますわね」



アルルエラは皿を洗いながら愚痴を零した。




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