馬鹿共が死ね
「"愚者の祈り"(ジュリエット・ポーリーン)」
沈黙になろうという空気の中、強力な雷と風が天に放たれた。ほとんどの者がクロネアを睨んでいたが、その音と存在が戦争の恐怖心を蘇らせて嫌でも視線はそちらにいった。だが、雷と風は誰一人も巻き込まないでいた。誰がそれをやったか、分かるように彼は叫んだ。
「ゴチャゴチャうっせーぞ、ヒュール!!」
「ラ、ラッシ…………」
「俺はこの世界の、使えねぇダメ人間の処刑を勤める管理人だからよぉぉぉ!テメェ始末すんぞ!!!」
「お、お前に用はないですぞ!!お前に質問などしていないですぞ!!」
「とにかく、うっせー!!俺の"ライヴバーン"を人間共に向けてやろうか!!」
なんていうか…………。強力な空気ブレイカーや……。
「いいか!!クロネアが悪いって謝っただろうが!!それで許せ!!」
「許せるわけないですぞ!!雷をぶっ放す奴に脅されても、私は屈しませぬぞ!!」
「確かに管理人が悪いかもしんねぇーが!!同じ人間ならテメェも考えろ!!」
ラッシの声はとんでもなく大きく、そして自分を嫌えと伝えるような行動だった。
「このふざけた管理人!タドマールの戦士達が排除してやろうか!!」
「インビジブル様と同じ管理人とは許せぬ!!」
「おーおー。やってみるか?コノヤロー。負け犬フラグがビンビンなモブ共にこのラッシ様が負けるわけねぇだろうが。喧嘩は買うぜ!!」
フォーワールドの住民達はラッシを心から恐れているが、タドマールの戦士達には通じない。結構な数を1人で相手にすればラッシはさすがに負ける。そして、殺される。それくらいの結末は怒っていても分かる。でも、続ける。
泥を被るのがラッシの管理人の資質。このイザコザで場は乱れ、荒れる。
「いい仲間を持っているな、クロネア」
「アレク…………今、考えているんだ。話しかけるな」
「ふん……」
ラッシが時間を稼いでいる間にクロネアはまた言葉を考える。おそらく、この質問はアレクも言いたかったのだろう。
管理人が人間を支配しているようなものだ…………。
「…………少し纏まった…………」
たったそれだけでクロネアは早くマイクに声を通す。ラッシを救うように、ここにいる人間達を救うように言葉を使った。
「皆様、静粛にしてください」
「!…………だとよ!テメェ等!死ななくて良かったな!!」
「ぐっ……………」
ラッシとタドマールの戦士達がぶつかる直前だった。この言葉を人々は聞いてもまだざわついていた。そのたった一瞬で少し纏まった言葉を練り上げるクロネア。10秒、20秒もあれば心と一緒に文章も埋まっていく。だが、言葉を誤ればラッシも自分もタダじゃ済まない。
人類から投げられた質問が本当に命を賭ける言葉となった瞬間だ。
「ヒュールやアレク、……そして、そこに"黒リリスの一団"も含め。同じ回答をします」
クロネアの言葉にこの世界の人々は耳を傾け、沈黙の限りを尽くした。
「管理人は……。管理人は人類を管理するため、多くの異世界に存在しております。その管理の大きな役割にあるのが、人類の生存。そして、保護です。我々が誕生する以前の人類は数が少なく、我々を作り出すという形でその生存と発達、そして絶滅からの回避を成し得たのです」
長い長い言葉であっても、ヒュールの隣にいる広東は全て記憶してしまうだろう。おそらく、管理人がいなくなるその日の条件や出来事をクロネアは述べていた。
「我々は歳もとらず、不老です。不気味かと思われているでしょう。異世界との繫がりを我々だけにしていたというのも、人類を不信にしていたことでしょう。だから、…………ですから!……管理人がいなくなること……機能を停止させることは皆様人類が本当に先の見えない困難や難題に立ち向かうことになります」
管理人の存在意義と、管理人がいなくなる未来をクロネアは語った。少しヒュールの問いにちゃんと答えるため、あえて遠回りを続ける。言葉を聞く人達は急かさなかったのは良かったことだ。結論だけではハッキリ言って、意味がないからだ。ここにいる人間達は頭が良くて助かっているクロネア。
「管理人が人類を永遠に管理し続けることはありえません。どのような形で管理人が管理を止めるか、私からは答えることはできません。ですが……"黒リリスの一団"のように、人間が私達を力で消す日があるかもしれません。ここにいるアレクさん、ヒュールさんのような方々が管理人がおらずともしっかりと全世界を支える日も訪れるかもしれません。それでもいつまでも、私達管理人は何度でも人類を守るべく、保護するべく。人類に立ちはだかります!」
管理人が人間じゃないからこそ、使えた言葉であった。
「人類の皆様にはどーゆう形であれ管理人という障害を超えてください!それがきっと、人類の進歩に繋がります!あなた方が抱く不安も、たったそれだけのことで払拭されるでしょう!私からはこれで以上です!」
管理人と人間は相容れないが、人間にとって管理人はまだ必要である。
黒リリスの一団に対してこのフォーワールドが壊滅しかけるほどの兵器や武力を用いたのも、彼等の問いかけが力であったからだ。力で向かい合った。……確かに言葉でやることができたのなら良かったかもしれない。
「か、管理人が必要ない世界って……やっていけるのかな…………」
「確かに破壊しか考えていない奴が俺達のことまで考えているとは良い難いよな」
「でも、管理人は怪しいよね。自由をくれない」
「自由がなんなのかもなぁ……………明確な定義がない」
人類達は沈黙から、思考に変わった。混乱に思えるざわつきは確かな力を生んだ言葉であったと証明していた。
「"黒リリスの一団"が勝っていたら、管理人の謎から解放されるけど」
「それで私達はこの状況から救われたのかしら?」
「色んな兵器を使ったのも仕方がなかったのかもな……」
人々の思考に手応えを感じ取ったクロネアは頭をちょっと下げた。疲れているのだ。
「…………ヒュールさん」
「むっ……なんですぞ」
クロネアは上手く言えてホッとしていた。自分で、もう話さないと。言っておきながらまったく厄介な質問をしてきたヒュールにお返しとばかり、進言してきた。
「"黒リリスの一団"は人間達です。……あなたが言葉で止められたのでは?っと疑問を抱いたのなら、教育者である人間のあなたが。しっかり人間を教育すればきっと、今後このような無益な破壊は起きないでしょう…………あなたの手腕が問われますからね」
「言われんでも分かっておりますぞ!!私のフォーワールドからはそのような輩はさせませぬ!!全世界がそうなるよう、クロネア達、管理人もするのですぞ!!」
「分かっていますよ」
人類と管理人の本当の対話が終わった。次の時代の予感をクロネアもラッシも、アレクも、ヒュールも感じ取った。今までのフォーワールドではありえなかった出来事。
すぐにこれは史に刻まれる。
復興と共に、管理人が離れようとする動きも見られた…………。ただそれはまだ、フォーワールドだけに過ぎない。