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RELIS  作者: 孤独
伊達・ネセリア・ヒルマン編
172/634

疲れた心に温かなにんじんタップリ豚汁と炊き込みご飯をどうぞ、と、管理人、ヒタス登場

日が沈んで星達が顔を出し始める。星というのは実は日中も見えているのだが……。今はそんなふうに思える。あんな遠くにある星の光は優しくて元気をくれる。



「ふぅ………………」



身体が眠くなってきた。目をギンギンと開けて見てしまった強大な破壊の光景。

身が凍りつくような業火を知り、なにもかも消し飛んだこの世界を見た。そして、今その世界の地面になんにも思わずに座れる自分がいる。スカートや手が汚れても、不思議と平気だった。

立ち上がる時、ゴミを落とす仕草も止まった。ちょっと疲れているのかもしれない。だけど、こんな状況になったからか、落ち着いて息を吸って吐けるのは胸に心があるからだって気付けた。

大したことはない。シャワーを浴びられなく、少しだけ食べる量が減っても、口数が少なくなっても……。あたしという命がここにあるから幸せ。



「ベッドや布団以外の場所で眠るのは初めてです」

「…………ほとんどがそうだと思う」



全員が屋外で毛布の数も足りずに、寝転がるだけ。

多くの人達は戦争が終わり、続かなくても根付いた恐怖で睡眠に入れなかった。

ショックで目が虚ろになっていて、希望がない表情だった。

だから、春藍謡歌は未来に根拠がなくても。未来に繫がる今を生きれることをよく知って、ちょっとだけ良い事だと思った。

兄同様、ややズレているところがある春藍謡歌…………。



「すー……………」



眠って気持ちいい事を久しぶりに感じた。あまり食べないけど、食べ物が恋しくなる。普段はちゃんとした食事をもらっているあり難さが分かる。お寿司を食べたいなぁー…………。って、好きな食べ物を思った。




……………………………………………



人間達が睡眠という休息時間に入っている間。フォーワールド以外の世界でも異変が起きた。痺れを切らしたように酷い不況や、物資の不足、貨幣価値のダウンなど、……商業市場街"月本"を失った事で管理人側の管理にも限界がある状況に陥った。

銃や剣を握り、人間同士の奪い合い、殺し合いを中心に時には管理人にもその暴動の余波は来た。

"月本"という巨大な商業施設があれば混乱は起きなかった。そして、この混乱を鎮めるには商業施設より、圧倒的な武力と暴力が必要である。死の恐ろしさ、痛みの辛さを分からせることが人の心がどうできているか分かる。ゼオンハート、粕珠、インビジブル等の暴力があればよかった。



「きゃっははは?」



この混乱はポセイドンの代行である朴にもすぐに届いた。

蒲生や龍ではあまりにも暴動を収められる暴力ではない。凄すぎて死者が多く出る(つーか、全員死ぬ)。

粕珠並の残虐性とゼオンハート、インビジブルに匹敵する戦闘力を持つ管理人のリストアップを蒲生が行っていた。

テストを行う時間もなかったため、リストアップされた者はすぐに暴動が起こった世界に飛ばされる。その暴動を収めるという目的を管理する者も一人挙げられ、実行部隊の責任者も決められた。

その実行部隊の責任者の推薦は朴である。

実際会ったことがなく、噂だけで彼を推薦した。粕珠と同じくらいの残虐性を持っており、戦闘面でも十分資格がある。ただ…………



「どーして物資が来ないんだ!!」

「そうだ!!管理人は何をしているんだ!!?」

「ヒ、ヒタス様…………。我々はどのようにすればいいのでしょうか?」

「あーー?テメェな、まず。お前等二人称共は、このヒタス様の事をヒタス様と言っちゃいけねぇーんだよ?一人称のみが言ってよし」

「は?はぁ………?(なんだろうか、この馬鹿な管理人は)」

「支配人と呼べ!!俺こそが、支配人!!支配者!!!絶対的な支配を作り出す者!!!」

「(やっべ、絶対馬鹿だこいつ)」

「あのガイゲルガー・フェルという、ポンコツロボットがスクラップされたからこそ。本物が決まったのだ。このヒタス様に決まった!!」



ヒタス

管理人ナンバー:027

スタイル:超人

スタイル名:支配拳



かなり威勢の良い声を張り上げる管理人であるが、その姿はとても気持ち悪そうに青褪めた顔をしており、入院患者用の服を着こなしている始末。一見、ひ弱。

しかし、そんな外見から想像も付かない戦闘力を有しており、その外見に似合う異常な卑屈さと劣等感に包まれ、希望という甘美な存在はへし折りたいという邪悪な支配者を望んでいる。

もともと欠番埋め用に造られている屈辱で彼は存在する。



「人間共。物資がない、食料がないというのは勝手だ。そーゆうときは何をするか?人間の性に従え。君等は下の下にいる」

「な、なに!?」

「争え!!もっと心を黒く出せ!!優しい内面を出すんじゃない!!自分が困ったらどうする!!みんなが困ったらどうする!!助け合う!?冗談じゃねぇ!!殺し合えよ!!お金も、職も、食い物も、殺して奪えば良いんだ!!!」

「ヒ、ヒタ……否!!支配人!!その言葉はまるで管理人としては適しません!!」


この世界の管理人が厳しくヒタスに言葉を出すが、


「ヒタス様は管理人ではない!!支配者だ!!一緒にするな!!」


軽く一蹴。おそらく、自分以外何も信じていない。


「人間は増え過ぎている。老ってなお、傷付いても生きる事を美徳としているアホな輩!!」

「お前に言われたくねぇよ!」

「いいか~、知っているか~?ヒタス様は知っているんだ。ある異世界で大規模な戦争がおき、崩壊した事を知っている。そこの世界が今、助けを求めている」

「!?」

「助けを求めるって…………お前、財布からお金を何も思わずに抜けるか?差し出せるか?何人いる?ボロボロな自分の食い物を半分に割れる勇気はあるか?ねぇだろ、人間。でもな、管理人全体が決めてそこを助けるって意見に賛成なんだわ」

「…………何が言いたい?意味が分からない」


まー。何が言いたいか…………本質的なことを言うと……



「お前等は生きている価値がねぇから死ねって言いたいんだよ。つーか、死ね。死なないように人を殺して奪え!最終的に死ね!!」

「……………は?」

「助けられると助けられないがあってこそ、社会と歯車だ」



オゾマシイ発想しか浮かばない小さくて捻くれて、黒ずんだ思想。


「死、死、死、死、自分で動けねぇならこのヒタス様直々に動かしてやるよ」


暴動を鎮めるというのは一部の人間達を殺し、恐怖に陥れろと朴から指示が来ていたが……。そんな生易しいことはヒタスの頭にない。それに暴動が起こるほど、世界が孤立した状況になると生き残れないひ弱な異世界は生きている価値はないと勝手に決め付ける。

管理する人数、世界が減れば当然管理人の数や質が減る。確かに管理人側からすれば有益と思えるが、管理人の役割から反する。


「し、支配人!!否、ヒタス!!それはいけない!!裁きが下るぞ!!」

「このヒタス様に指図するな!この世界の支配者は誰にも命令されねぇ!!」



超、超、独立した支配欲と思想の持ち主。ヒタスは暴動が起きた世界を人間も、在住する管理人さえも殺害してしまった…………。

だが、彼が表舞台に出てくるのはまだ先の話である。



……………………………………………



崩壊しかけたフォーワールドにもちゃんと朝はやってきた。だが、鳥達の声も姿も一切なく、静かに日が昇っただけ。誰もがその日の灯に目を開けた。


「んー……………」


固い床は想像以上に腰を痛める。頭はすっきりとしてくれるが、身体はガチコチ痛める。

少しだけ今の状況を忘却できた睡眠。それでも、しっかりと開眼すれば状況を思い出す。

家や学校はもうなかったと思い出す…………。

謡歌はまだ眠る人々を起こさないように静かに瓦礫の上を歩いていく。途中で声を掛けられたら、「お兄ちゃんを捜します」と返した。「それは大変な事だわね」っと言いかされると、不安が心にやってきた。……あの戦火の中に飛び込んでいったらきっと無事じゃないけれど。「信頼できる人が傍にいるはずですから、きっと大丈夫だと思います」って。明るく、そして。ちょっと……苦い気持ちで言った。



「そっか。だよねー…………」



自分には信頼できる人がいた。けれど、シェルターとは別の場所に避難していたご家族や友達はどうなっただろう?自分の知り合いは、お兄ちゃん以外は無事だというのは知っているけれど。



「隆輝ーーー!!」

「アリスゥゥゥ!!」



早朝から大きな声で家族や友達の捜索を行う人達を見かけた。

あたしはお兄ちゃーんって叫んでいいのだろうか?慶介お兄ちゃんと言った方が分かりやすいかな?……なんて……。そう思っても、叫べない。

きっと悲しいんだけど。そこはその…………地獄の炎が舞い降りたところだ。



「良かった、良かった!シルフェストルが見つかったのよ!!」

「おい、お前は……お前は狂っている!!」

「なにを言ってるのよ、ほら。見なさいよ、この手。シルフェストルの顔よ、顔よ」

「顔……だな……だがよ……」



あまりの恐怖を体験し、正常な判断ができなくなった女性を見かけた謡歌。男性はとても冷静でいた。きっと、自分と同じく理解できたのだろう。



「顔しかない……こんなに焼けた顔しか残ってねぇんだ」

「シルフェストル~。ほら、私だよ。返事をして~」

「だから…………む、無駄なんだ……シルフェストルは死んでる……………」



当たり前に悲しいということを理解できない。

シェルター以外の場所に避難した者達を捜す人達は気付いている。そこから生まれる感情は三つに分類される。僅かでもいいから奇跡みたいな事があって生きていて欲しい、死んでいると分かっていながら仕方なく遺体を捜している、……そして、恐怖と絶望によって心が壊されて何を理由にしているか分からないのに捜している者。

悲しいという感情はフォーワールドの人間には程遠い。だが、タドマールの人間は悲しいという感情が良く分かっているようだ。

謡歌は仕方ないじゃんって……思っている。爆撃されたところ、生きていられる人間なんて普通はいない。普通じゃないから見つからないし、死んでいる……。


自分がお兄ちゃんの名を叫ばないのにも納得の理由がある。

とはいえ、こんなところにお兄ちゃんは来ない。きっと、……戦場だった中心にいる気がする。足はその方向に向かっていく。すると、ある人物と出会えた。



「!あなたは……」

「!…………君は春藍の妹だったか」

「アレクさんですか?……だ、大丈夫なんですか?……その身体…………ボロボロですよ」



いつもの白衣姿であるが、ザラマとパイスーによって傷だらけにされたアレク。巨体に包帯だらけで白色の怪人に見える………。



「もう戦いたくねぇ相手ができた」

「?」

「それだけの傷だ……………。俺のことはどうでもいい、何しにこっちに来た」

「いや、その……お兄ちゃんを捜しに……」


それを聞いたアレクは謡歌の両肩を掴んで行かせないようにした。行かせないだけで


「まず、あいつは"今"、生きている」

「!!や、やっぱり……良かった!ライラさんがやっぱりいたんですね!」


アレクは春藍の生存を謡歌にしっかりと伝えたが、疑問が残る言い方をしていた。その事に気付くのに少し時間が掛かった謡歌。


「怪我はないんですか?包帯とかしてるんですか?」

「……特別に大きな外傷はないが」

「?」

「…………今のあいつは凄く迷っていて、下手をすれば死んでしまうほどの精神状態だ」

「!!?えっ……………?」

「今は大人しくさせるのが賢明だ……もし、本当にヤバイなら薬を無理矢理にでも投入して治させる決断もとらざるおえない」

「!な、何が…………何がお兄ちゃんにあったんです!!?」



生きているという予感はしていたが、それはあくまで五体と魂があるだけの予感。それがどんな状態なのかまでは謡歌も分からなかった。

アレクは謡歌に告げる。


「いずれ分かる。ともかく、今。生きているなら会う必要はない。春藍は君の事なんて何も思っていない、無駄だ」

「!!ひ、酷いことを言わないでください!!お兄ちゃんはあたしの大切なお兄ちゃんです!」

「ふーっ…………」


強い口にアレクは溜め息をもらした。ちょっと分かってくれないので無理矢理謡歌を攫って行かせないようにした。


「は、離してください!」

「話はしてやる」

「!」

「春藍はおそらく、大丈夫だ。俺は春藍を信じているからだ。言葉はなくとも、ちゃんと答えを出せる男になっている。……それより、このフォーワールドの方が俺と君にとっては重要だ」

「あたしはお兄ちゃんの方が…………」

「聞け。今、この元気すら無くなっているこの世界に色々な物が管理人達を通して流れてくる。これをちゃんと上手に扱える人間かどうか問われる時だ」



アレクも春藍の心配はしている。だが、立場上。部下の1人に集中できるわけがない。彼はヒュールと同等以上の高位な人間。フォーワールドの再建を託されている。


「とにかく、俺もみんなもロクに食べていない。クロネアの報告によるとそろそろ、生存した人間分以上の食料が届くそうだ。調理する人間ももちろん、ちゃんと配れる人間の確保も必要だ」

「……………………」

「協力するならどちらが良いか分かるな?春藍が生きていると俺が証明している。今、助けるべきは多くの人間だ」



アレクの言葉に謡歌は納得はいかないけれど。自分も教員という職務についていて、彼の言葉は感情がなくても理解できる。

アレクに捕まったまま連れて来られた場所は大きなテント沢山並んである場所であった。アレクの部下やヒュール達がそこにおり、色々と準備をしていた。



「順調か、ヒュール」

「遅いですぞ、アレク!テントは全て張り終えたぞい!というか、私の部下。謡歌をなんで連れておるのですぞ!!?」

「それはどうでもいい。俺も準備する。謡歌、これを並べて組み立てるのを手伝ってくれ」

「は、はい」



アレクが持ってきたのは自分が使用する大量のライター。……それとプラモデルのように説明書付きで組み立てできるいくつかの金属板。


「誰でも30秒程度で組み立て可能簡易コンロだ。科学力の凄さは誰でも造り出せるところにあるのだ」

「な、なんだか…………こんな分野までできるのですね」


説明書を読みながら謡歌は手早くコンロを沢山組み立てる。燃料は限られているが、十分な威力を持っている。というか、アレクさん。いくつライターを所有しているのですか?

コンロを組み立てる謡歌とコンロに火をつけ、水が入った鍋を沸かすアレク。数千人用の食事を用意しようと、早朝から炊き出しを始める。メニューはにんじんたっぷり豚汁と炊き込みご飯である。大量に送られたにんじんを瞬時に好きなサイズ、形に切り刻む科学や炊いた飯をどんどんよそっていくロボットも配置。用意されたお盆に炊き込みご飯を乗せて豚汁を待っていた。

謡歌も豚汁の調理に入る。なぜか、豚汁作りだけは人の手になっていた。


「おかわりができるといいからな。ロボットでは決まった量しか提供しないよう、制御を加えているため、おかわりできる機能までない」

「なんていうか……その……凄く……微妙な努力ですね………凄いですけど………」

「それに話の場も必要だ。ただ飯を食うだけじゃ、こんな状況は変えられない」

「………………」

「ヒュールとクロネアとは今後の話はしたが、中を詰める必要がある。そのための炊き出し、そのための人間だ」



良い匂いを出す豚汁が出来上がった頃、お腹を空かせた者達は自然と炊き出しをしているところにやってきていた。アレク達はさっそく、やってきた者達に食事を無償で提供する。その際、声を掛けて手伝いもするようお願いもした。まだまだ人はおり、どんどん作らなければいけないし、皿も箸も、使い終わったら綺麗にしないと枚数が足りていない。何もかも少ないから、協力をお願いするのだ。

振舞われる食事は少なくてどれも同じ味がした。だけれど、温かな食事でホッと落ち着ける者達は多くいた。自然と会話が起こった……。絶望からまだ一日と経っていないが、向き合える者達が続々と現れ、笑顔と共にできる事を模索していた。




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