死人の闘争。殺したい人間達……
「………………」
まさに死人だ。
アレクはパイスーを発見した時、そう思った。なぜ。こいつは死なない?
まぁ……そんな疑問。自分が殺せばいいで解決した。
這ってどこかへ進んでいる。戦ってくれる相手をパイスーは求めていたようだった。
「いるな……………」
アレクの気配を肌で感じ取ったパイスー。もう眼もよく見えない。誰かがそこにいて、戦う意志があると臭いで感じる。戦闘に限りを尽くしたパイスーはまだ限界を超えようと、片足で立った。
「やるぜ……誰か知んねぇが…………」
朦朧としているところをアレクは容赦なく、ライターに火をつけてパイスーの身体を焼き尽くす。ポセイドンの兵器にも耐えた身体であるが、傷口からパイスーの身体は劣化を始めており、存分に焼かれていった。
「"炎帝"」
アレクは死人であっても容赦しない。その異常過ぎる魂の強さを生滅させるためにはどんな攻撃でもする。
「"六紅鳥"」
ロイを倒した火力をパイスーに与える。これで身体がよりボロボロになっていることをちゃんと肉眼で見た。それでも、パイスーの魂はまったく削られない。この男が支えている何かがオカシイ。
「あ、あっつーな…………」
「!まだ生きているか……」
炎に包まれた身体でもパイスーは死ななかった。死んだ身体を魂だけで動かしている、ザラマにはできなかった事をパイスーは可能としていた。
パイスーは焼かれながら、片足だけでも突きを繰り出すため十分な溜めを行った。ボロボロな身体でアレクがどこにいるか、直感でしか分かっていないというのに正確にそこへ突きを向けた。
「!!」
アレクはパイスーが生み出した強烈な風圧を浴び、飛ばされるだけでなく無数の刃を浴びたように身体を裂かれた。
瀕死の身体から生み出す攻撃ではなかった。
頭で理解できる状態にいない。
「がはぁっ…………」
避けも受けもしなかった事が完全な裏目。起き上がるだけでもきつくなるダメージを浴びた。
アレクがやられたが、次の相手はすぐに来た。それも複数…………。
「パイスー……。テメェ…………殺すからな」
「ロイ。油断しちゃダメよ!あいつは…………桂も、ポセイドン様も倒した奴よ」
ライラとロイがパイスーを挟んでいた。複数の気配があるとパイスーも気付いていた。アレクの放った炎を鎮め、傷口に染みるような強い雨が降り出す。風も強まった。
ライラの攻撃を成功させるため、ロイは身体を張ってパイスーに向かっていく。こんなにもボロボロな身体をした人間に、向かっていく表現を使うなんてロイは思わなかっただろう。
五体満足とはロイも言えないが、五体も揃っていないパイスーには容赦ない連打。
「インビジブル師範の仇だ!!」
顔面を蹴られ、ボールのように転がるパイスー…………。それでも起き上がる。立ち上がる。
全力でぶち込んでいる攻撃がこいつにはまるで通じていないと、ロイは分かっていた。
そもそもおかしな話だろう。ありえない話だろう。殺すって今、俺が言ったけど。もうすぐコイツどう考えても死ぬだろ?なんで生きてんだ?なんで生きられる?死がないのか?恐怖すらないのか?拳をどうして作る?なぜ戦おうとする?
仇に集中したいロイだが、すでにパイスーの狂気的な闘争心に当てられて恐怖に属する迷いを持った。パイスーがロイの力のない拳を浴びた後だった。
「拳の出し方は」
「!」
「こうだろ?」
ロイの腹部を強打させる右ストレートが入る。その衝撃の反動でようやくパイスーの右腕が抜け落ちた。と同時に拳を浴びたロイは大きく吹き飛ばされ、立ち上がらないほどのダメージを負った。
一方、ライラは十分な雲をパイスーの上空に集め終え、すぐさま巨大な稲妻をパイスーに落とした。昇天しかけるほどの魔力を集め、叩きこんだのだが…………それでもパイスーは倒れなかった。
「ならまだまだ」
ライラは豪腕だけを恐れていた。右腕が吹っ飛んだことでパイスーは完全に戦う意志を折られたと勘違いしていた。倒せるしかない状況だと思いこんだから、自分の背から襲い掛かる獅子に気付くのは大分遅れた。
「きゃーーー!!」
【がるるるる】
食われぬよう、必死に抵抗するライラ…………。どんどんパイスーとの距離が離れていく。
「はぁっ……はぁっ……………」
パイスー自身と戦う者はいなくなるだろう。"キング"を用いて戦うしか、パイスーにはできない。
「なぁ……………春藍……」
「うん…………いるよ」
「少し話そうぜ……………最期の話だ」
ただ、どんなに傷付き、どんなに敵を作ろうと。周りが全て敵になろうと。人が、命が1人であることはありえない。
パイスーに歩み寄る春藍がいた。