ホッペを叩いてぶっ飛ばす程度の平手打ち
「桂が押されておるか…………」
ロイを追わず、安全なところからパイスーと桂の戦いを観戦するポセイドン。加勢なんてしない。正攻法でパイスーとやり合うのは危険である。
その"正攻法"という言葉。
時代や世界の変化と共に移り変わっていき、拳と拳がぶつかり合うことの方が古いや、ある種非道と呼ばれる言葉に変わっていた。ポセイドンからすれば拳と拳のぶつかり合いなんてやりたくはない。それこそ卑怯。ポセイドンは恵まれた体型をしているのだが、腕力脚力共に桂とパイスーに劣る。フルボッコにされる。
ポセイドンは様子見を続けている朴達に連絡を入れた。やはりどうしても、パイスーだけは別格故、最終手段をとると決めた。
「朴、避難と隔離の状況はどうだ?」
『やはり完全には進んでおりません』
「ふむ。そうか。であれば、蒲生達も連れて別世界で待っておれ」
『!!ポセイドン様…………』
「我がここを"無空間"にするということだ」
次点の切り札となる蒲生の"九頭鳥"をすっ飛ばし、ポセイドン自ら葬り去るという。
『待って下さい!』
「全ての責任は我にある。貴様等には何も刑を与えない。我だけの責任になるのだ」
ピッ………
カ、カッコイイ。全部の責任を負ってあげるポセイドンはまさに良い上司である。だが、責任問題が追求される前にやらなければいけない事をポセイドンは分かっている。責任の取り方には限度があるが、失敗の度合いは無限大に等しい。頭を垂れる行為や、指を詰めるという行為、最高責任者自らの命でも釣り合わない失敗は確かにある。爺に等しい年齢になった社長の命と、将来夢一杯ありそうな子供達百人の命。どちらが重いか、大切か。聞くだけで分かること。そーゆう感じを自らやる。信じられないがそれをやってのけるのが、ポセイドンの鬼畜さ。外道さ。
ゴウウゥゥゥンンッ
ポセイドンは戦争前から仕掛けていた兵器を作動させた。
かつての人類がそれぞれの派閥を作り出し、土地を争い、国というラインを作り、……何千年と争ってきた。戦争を愛して止まなかった人類達が、増えすぎた人類や国規模ながら生まれた少数意見を減らしたり、消すために用いた"科学"兵器を、フォーワールドに打ち込むことを決定したポセイドン。
到着まで、2分弱。
バシイィィッ
そして丁度、その頃だった。
綺麗な平手打ちが炸裂した音と共にネセリアは床に転がってしまった。唇が切れて、ジンジンと痛みが頭に届いた。ライラは怒った顔を隠せず、優しい言葉を掛けていた。
「なんであなたは無茶をするのよ、ネセリア」
「ご、ごめんなさい……」
「あなたも春藍も…………確かにここを守りたい気持ちは分かるわ。故郷だもんね。けど、……あなた達が一番大事なのって!!なんで分からないの!!?」
梁河がもしダメージを負っていなかったら、ネセリアは殺されていたかもしれない。アレクとロイがいるからつい、見放してしまった自分にも怒っているライラ。
「これが、戦争って奴なのよ」
「!…………」
「あなた1人じゃ、あたし1人じゃ何も変えられない。武力がものを言う出来事、勝者が全てだという出来事!歴史はそう記述しているの!!」
パイスー VS 桂が行われている屋上および、外は危険と判断し、今の2人は技術開発局の内部に移っていた。
「ここが崩壊するかもしれない。けど、それは仕方の無いことなの。あなたがやっていた事は無意味や無力な、たった一人の行動に過ぎないの。こうしてあたしに怒られて分かるでしょ?」
「……………………ごめんなさい」
「…………ごめんで許せるから良いのよ」
ライラは震えて涙のネセリアを起こして、震えを止めてあげるように抱いてあげた。
「あなたが死んじゃ嫌なんだから。あたしも、春藍も、アレクも、ロイも……みんな嫌だって思っているんだからね」
ライラも泣いていた。それは悲しみじゃなくて、こうしてまだ動けるネセリアがいて本当に良かった。春藍が両足を失った時を心の中でフラッシュバックしていたのだ。
ゴシゴシとネセリアの髪の毛を弄るライラ……。ネセリアも自然と温かさを感じ取って、ライラの髪の毛を弄っておかしな髪型にしてしまう。
「むっ…………と、とにかくね」
ライラはネセリアから離れて自分のすべき事をするつもりだった。
「今からあたしは春藍、アレク、ロイを捜しに行く。もうこれ以上はあなた達が何をしても無駄って伝えて、無理矢理引っ張ってくる」
「!…………そ、そうですよね」
「ネセリアは地下で待機していて。そこならまだきっと、どんな衝撃が来ても耐える可能性がある。あたしも順々にあいつ等を向かわせるつもりだから」
殴られたり、斬られたりなどなどされている技術開発局は崩壊まで数分だった。自分達がここまでやってきた地下通路までネセリア1人で戻れるか、後々考えると不安だとライラは思い。
「ひとまず、一緒に地下のところまで行くわよ!」
ネセリアをまず安全な場所に連れて行くことで不安を取り除いたのだった…………。
ギイィィンッ
「ポセイドンの奴は逃げたか?それともなんかの準備かよ!!」
「知らん」
ポセイドンの一時戦線離脱。両者はポセイドンの警戒心を強めつつ、命のやり取りをしていた。
やや優勢なのはパイスー。超人としてのアビリティー + 魔術による肉体強化の組み合わせは桂の"雷光業火"のアビリティーを上回り、特にパワーという一点では真正面から打ち砕いていた。
桂の剣術、抜刀術を押し返し、傷がつかない。
ガギイイィィッ
「むっ」
「ちっ……頭を上手く守りやがる」
わずかにパイスーの貫手が桂の頭蓋の横を通った。それだけで、桂の長くて自慢の髪の毛が少し切れ、頭から出血もした。掠めるまでもなく、少し近いだけで死ぬ恐れがあった。
桂は先ほどから全力で戦っている。しかし、それでも届かない人間が目の前にいることに……
「進歩したな、人類」
「あ?」
「拙者が一対一でここまで苦戦したのは初めてだ」
賞賛を送ってから
「だが、まだ。管理の世界に人類はいるべきだ。"時代の支配者"が現れるその日までな」
自らの存在意義と使命のため。パイスーを倒すと桂は、……ポセイドンは。管理人達が総出でパイスーを殺しに来る。
「その言葉を待っていたぜ、桂!!テメェからな!」
嬉しい言葉に拳で桂にお礼をするパイスー。死力による死闘、崩壊。大勝負の確信にパイスーはより燃えてきた。