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RELIS  作者: 孤独
VS黒リリスの一団編
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インティの最期

インティの眼は正確にロイの拳を捉えていた。ロイに前進しているこの身体から映るロイの拳はとても大きくて速く見えた。襲ってきた50%くらい、敗北する攻撃でインティはリミッターが外れた。それはゴールゥンで桂と対峙した時と非常に似通っており、身体が反応したとか勝手に出来たとかいう範疇だった。



「!これ…………」



心の中にある敬意や対抗心が、自信に変わった。勝利とか成功に変わった。先ほどロイを斬ってやった時とは全然違って、やりきったという気持ちで溢れた。

身体に付着したロイの血がとても温かくて、通り過ぎたロイを振り返って確認した。



「死んだ?」



ロイはインティの攻撃をモロに浴びて床に転がっていた。負けたのかと、理解している表情を出して転がっていると、インティには思えた。


「あはははは、やった」



インティはロイと出会っていたと思っている。


「ウチはロイを超えたんだ」


それは非常に強い思い込み。それでもインティが幸せならそれで良いのかも、と思う。

それでインティは喜びの表情を見せていた。


「だから!」


今までが無駄ではなかった。この、勝ったという感覚のために、今までがあったと確信せざる終えなかった。これから彼女が歩むだろう人生を少しだけ見たい気持ちがある。

何に生きる?リアのように望みたい事がきっとなかったインティに……。ザラマや梁河と違って、ただ一個人しか狙っていたインティに……。


「頑張って良かった!」



バヂイイイィィッ



1人だけ喜ぶ、インティに悲劇の銃撃が襲い掛かった。

音が無く、弾数も多く、隙を見せていたというのもあり、インティはほぼ直撃であった。



「…………え?」



激しく撃たれた後、インティもまた床に転がった。両足を撃ち抜かれ、"韋駄天"ではもう逃げられない。傷口に触れるだけではまだ痛みがどれだけ酷いか、インティには分からなかった。一種の混乱状態に陥った中、彼女を撃ち落した人物が姿を現した。



「モルモットの生き残りは確実に排除せねばな」

「あ、あんたは…………ポセイドン……?パ、パイスーが今、戦っているはずでしょ……?」

「影武者を置いたり、一時休戦はするものだ。桂が今、死闘をしているところだろう」



ポセイドンはショルダーバッグのような形をしている機関銃でインティを攻撃していた。インティに近づき、撃ち落とした猟師が獲物を持ち上げるようにインティを扱った。

ポセイドンからすれば、自分以外の存在はその程度でしかないのだ。優しく扱ってやるか、酷く扱ってやるかの差。



「人類は我に研究されておるのだ。偽の記憶に突き動かされた気分とは如何なものだったのだ?」

「うぐぅぅっ」

「貴様は生まれた時から嘘の記憶を捻じ込まれた。信じてしまう、確かな言葉と確かな光景、確かな教えを脳裏に埋め込めば自前の脳みそが勝手に、いくつもののシーンを作り出してしまう。結果として、貴様がロイやインビジブルを知っていたとしても、奴等は知ることがない」

「そ、そんなのは」

「事実なのだ。残念ながら、事実なのだ」



1人の人間を用いて簡易的な歴史認識に関する実験だった。何が正しかったのかはその場にいた者達だけしか理解できない。記憶と感情は強いが、変化しやすい。

故にこれからの出来事は、ベィスボゥラーが1人で完全記録するという形になったのだ。記録とは確かで変えようがない事実、記憶とは曖昧で変えられる妄想にも成り得る。



「お喋りが過ぎたな」

「!!」

「あとでその脳みそを綺麗に検査してやろう。今は"歴史"に興味があるのだ」



インティの命を狩ろうとポセイドンの手が動いた時、フラフラの身体に渇を入れて、拳をポセイドンの顔面に振り翳した。


「!!」

「ロッ」


インティと同じだけのダメージを負いながら、ロイはポセイドンに歯向かった。だが、自慢の拳もポセイドンには当たらない。奇襲だというのに慣れていたのかと思わせる、軽やかな動き。



「インビジブルの弟子にして……」



ポセイドンが体勢を整えるわずかな時間と隙をロイは逃さず。インティを掴んでポセイドンから奪取した。その時、彼が小さく呟いていた言葉がインティに届いていた。


「わかんねぇ…………」


敵を助けるなんて普通ではありえないことだが、ロイは本能で動いていた。

そのままインティを抱えながら、ポセイドンから逃げ出したロイ。彼の頭は今、空っぽに等しくて何をしているのかも分かっていない。


「ロイ!!」

「…………!」


インティの言葉で意識を取り戻し、自分が走っていることを知る。インティを抱えている事も知った。インティにやられた傷が疼いていた。


「お前が死ぬ事は許さねぇからな…………」


意識を失う前に言っていた事を思い出し、とにかく。この状況を打破するにはあいつしかいないと、分かっていて



「春藍だ!!春藍なら、お前の傷も、俺の傷も治療できる!!それまでこのままでいろよ!!」


とにかく、ロイは走りまくった。この広くてボロボロにされている技術開発局の中を走り回った。ポセイドンが後をつけているのか、分からないくらい夢中で走った。

もうなにがなんなのかロイには分からないくらいだ。自分の行動も、言葉も、……。

パニックになっているロイとは違い、インティは涼しそうなくらい心地よい感覚にあった。

ロイやポセイドンの言葉、反応から自分の埋められた記憶が偽りだと分かりきった。とても冷たくて、自分だけ違うことにショックを受けたが。こうして、彼に抱えられた感覚、彼と戦ったという感覚がふつふつと心を温めてくれる。



「いいなぁ…………ロイの抱擁……」



"RELIS"から受け継いだ偽物の記憶よりも、現実の記憶は良かった。

彼と本当に出会えて、戦えて、触れ合えてとても良かった。



「春藍ーーーー!!!」



本当のロイはこんなにも強かったって、近くにいてよく分かった。本当に良かった。追いかけた人物がこれほどの方で良かった。



「馬鹿だけど……………」



自分がロイに与えた傷には自信がある。このままでは共倒れだよって、ロイの胸を指でなぞって伝えてみる。けれども、ロイはインティに気付こうとせず。ただ限界まで声を張り上げた。走って春藍を探した。


「はぁっ!」

「!!わっ……」


ロイの声が詰まった時と重なって、春藍もまた声に誘われてロイを捜していて、出くわした。春藍の言葉を待たず、ロイはインティを先に治療するよう指示したいよう床に置いた。


「急いで、こいつを治療しろぉっ……」

「ロ、ロイ!」

「うるせぇぇ!!黙ってやれぇぇ!俺はな!」


春藍はインティよりもロイの方を見ていた。ボロボロに切り刻まれた身体でここまで走ってくる闘争心は凄いが、インティよりも重傷だと見て分かる。やられている箇所が人間の急所と言われているところばかりだ。


「女や友達が、死ぬのが見てらんねぇーんだ!」


ロイのヤケクソの声だ。そんな感じじゃないって、記憶にあるロイと一致しない事にちょっと笑っていたインティ。

春藍は半ば脅しっぽいお願いに、ロイよりもインティを治療しようとしていた。



「あはははは、また……会ったね。春藍くん…………」

「イ、インティ。今から」

「けどね」



インティは春藍とロイの顔を見ながら、笑みを向けていた。両足をやられて逃げられないが、まだ両腕がある。隠しナイフだって一本は持っており、


「もう、さようならだよ」

「え」

「は?」



ズシャアァッ



ロイの静止も、春藍の治療も間に合わない速度で自分の首をナイフで切り飛ばした。



「ロイを助けてよ」


絶命の寸前で動いたインティの早口。生きていた喉は二人の耳に伝えた。インティ、自害という結末…………。自分よりもロイを助けるため、自分を助けてくれたロイのため。

自分の人生は全てロイのために合って良かったと、笑顔で朽ちて逝った。




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