ワタシノトモダチデストショウカイスル②
多くの人はストーカーのように生きている。
常に標的の後ろにいるような人物はやはり少ないが、心の支えとなっている人物はいつもいるものだ。誰もが誰かのせいで、意味を生んで今を生きている。
インティはこの身体で生まれてからロイをライバルと認め続けた。リアと比べれば純情な気持ちが多くあるが、その想いは強烈に脳裏に焼きつき、鍛え上げた"韋駄天"を駆使しするまで至った。
人を想う力が産んだ、強力な超人。綺麗な成長ストーリーを歩んでいるようだ。
「俺はやっぱり、お前が分からない」
「は?」
だが、そんな。クソ笑っちまうんだよ。どうしても笑っちまうんだよ。仕方なく。アホかと。馬鹿かと。人を想う力や、願っている希望がグジャグジャに潰れる様。なんだよ。勝手なライバル宣言、友達宣言、恋人宣言。反吐が出る。かぁーっ、気持ち悪い。
インティの根本は純情っぽいようで、一方的で相手を知らないで手に入れた力に過ぎない。現実を知った時は酷く脆い。
「誰なんだ?なぁ…………お前は誰なんだ!?」
「ウチはインティだ!!」
"RELIS"によって生み出された記憶は確かにあった。パイスーやリア達のように引き継いだ記憶は確かにあるのだが、強烈な齟齬がインティにはある。
「前世は"金剛"の使い手で!!インビジブル様の弟子、お前とは一緒に学び、戦った事のある者だ!!いいから思い出せ!!」
「……………」
「思い出せ!!」
確かにいたかもしれない。だが、ロイにも。今は亡きインビジブルから聞いても絶対に分からない。インティの記憶とロイの記憶は一致していない。
純情が理解されなければ悪意そのものでしかない。脆弱な魂でしかない。
「思い出せ!思い出せ!!お前はあの日、ウチと戦って倒し、殺した!!お前はその日、ウチの淹れたお茶を飲んだ!!ある日は滝で共に打たれ修行をした!海にいる魚もとりにいった!!その日は腕相撲をした!いつの日はインビジブル様を倒すために一緒に戦った!!」
インティは骸を剥き出すようなオゾマシイ表情で強く訴える。
「オモイダセェェ!!!」
だが、どんなに強くて確かに脳裏に焼き付く記憶が確かな過去であるかどうかは分からない。世に言う常識、正史になっているとは限らないのだ。
インティは幻想の花に惑わされている。そして、ロイに訴えている。
「オモイダセェェェ!!!ロイィィィィィィ!!!」
声が裏返り、喉が潰れてしまうような悲痛な叫び。
ここで思い出した。なんて、言えたらグッドフレンズやグッドガールフレンドなのだろうが。
「わかんねぇよ…………悪いけど、わかんねぇ」
「ふざけるなぁぁ!!馬鹿!!変態!!」
ロイの空っぽの頭ではそんな出来事を記憶しているわけじゃない。それに正しいのはロイの方である。それはもう少しで分かることであるが…………。ひとまず、ロイは動いた。
「わかんねぇよ。お前がわかんねぇし、……お前を倒してもすっきりしねぇだろうから余計わかんねぇ。ムズ痒いぜ」
今まで戦ってきた奴の中で、初めて。戦いにくいと感じられる。喰らったダメージも考えれば勝算は薄い。
「ひとまず、パイスーより先にお前を相手してやるインティ。俺様の拳がお前を砕いてやる!」
「!!やっとやる気になったのね!」
「あー……っと、開始前に一言が良いか?」
「構わないよ」
ロイにはなんとなく、インティの未来が見えた気がした。馬鹿な奴だが、どこか似ている戦士はいくつも見たから言えることだ。
「どう転んでも、お前が死ぬのは許さねぇ。許せねぇ」
インティが勝った場合。その先はきっと何も無い。空っぽ。勿体ねぇ、これから成長期に入りそうな体型をしているというのに、どー生きるのか考えていない特攻女。
匂いで分かってしまうものだ。
強く、復讐を抱いていたのだろう。ロイには深くまで理解できないが、インティはとても強くロイに影響されて生きてきた……というのは分かる。仮初の復讐劇をどう終わらせるかはロイ次第だった。燃えてくる展開じゃない。
どっちにしろ、良い方向ってのはねぇー。なんなら、女であるインティが望む道を選ばせてやる。
ギュゥッ
友達や強敵と思っていた奴との戦いはあんまり燃えない理由。自分自身に気合が入らない。初対面感覚があまりに強すぎる。勝手にライバル視されてもなぁ。おい。
拳が強く握れねぇのはダメージだけじゃねぇーって、ロイには分かる。インティの向かってくる速度が速すぎる、長期戦はありえない。そもそも一撃叩きこめるかも怪しい。
闘志も、ダメージでも、インティより不利があった。
ロイがここで描いた一発逆転の狙いは、この身体で打ち込める最大限の会心の一撃のみ。最高速度で向かってくるインティに攻撃が成立すれば、逆転は十分に可能…………。正面から来るか、左から来るか?右から、上から?後ろから?
「!…………」
来た時、ぶちかませって。迷いを馬鹿さで打ち払ってから、ロイはインティを眼で追わずに突きを放った。最速の一撃、…………